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夢……でも嬉しい。

 ——夢を見ていた。


 なんでそれが夢って分かるか?

 だって、私は死んでゲームに似た世界に転生したんだよ? それなのに目の前にみっちゃんが立ってるし、体だって全くいうことを聞かない。

 こんな日現実的な世界が、夢以外の何物でもあるわけがないって思うわけで。うん、断言したっていいよ?


「はろはろー、お元気してる?」


 にぱっと笑い、右手を上げながら問いかけてくるのは、前世で私の親友だったみっちゃん。うん、可愛い。

 私の……えっと、いつからだったかな? ま、いいや。気がついた時にはすでに親友だったこの子は、少し長めのショートカットに大きい瞳と柔らかそうな小さい唇がとても愛らしい女の子だ。

 麗華さんのように凄い美人、っていう訳じゃないけど、親しみやすい可愛らしさを持っていて、……んー、そうだね。地元のアイドルって言えばいいのかな? 地方アイドルなら間違いなくセンターになれる感じの女の子。


「んもー、そんな事言われたらてれるにゃぁ」


 うん、身悶えするその姿もかわいい。……って、何頭の中読んでるのっ!?


「えー、だって顔に出てるもん」


 えっ? うそっ!?

 慌てて顔を抑えようとするけど、まるで金縛りにあったかのように体が動かない。

 ……んー、なんか違うな? 抑えつけられてるっていうより、力が入らないって感じ? こう、ふわ〜っと力が逃げてくようで動かすことができないの。


「うそうそ。ほら、夢なんだからそういうものだよ」


 てへって感じで舌を出すみっちゃん。


 あー、うん。つまり、心の声がだだ漏れって訳ね。

 まぁ、確かにこの状況。夢以外の何物でもないし、いっそ開き直るしかない……かな?


「そうそう。だからね、とりあえず笑お?

 あはははははははは」


 そうだね。あはははははははは。

 って、んなわけあるかいっ!!


 心の中でノリツッコミをすると、みっちゃんてば腰に手をあてて前かがみになり、わかってないなぁ、とばかりに人差し指を振る。


「えー、ノリ悪いなぁ」


 いや、そこでブーたれないでよ。そしてみっちゃんは相変わらずのノリだねぇ? ってか一人だけ動けてズルいっ!!


「えー、仕方ないよ、ノリだけで生きてるんだから」


 そうだよねー、確かにみっちゃんてばノリだけで生きてる感じあるよねー。つまり何? 私が動けないのはノリが足りないってこと?


「そうそう。その通りっ!!

 こればっかりは夢だろうと何だろうと、変わることのない私自身のアイデンティティだから仕方無い」


 あー、うん、すごく納得できる。


「いやぁ、そこまで褒められるとてれるにゃぁ」


 や、褒めてないから。


「ぶーぶー」


 ぷふっ、相変わらずだなぁ。 

 

「ん。そっちも変わってないようでなによりだよ」


 私が笑うと、みっちゃんもやっと笑ったとばかりに、穏やかな表情で私を見つめる。


 ——でも、変わってないってことはないかな?  

 だってほらっ、私、猫になったしっ!? 


「いやいや、もともと猫っぽかったし、ちょっと猫になったぐらいで変わる訳ないって」


 そうなのっ!?


「うん、そうなの」


 いや、そう訳知り顔でウンウン頷かれても、私なんてリアクションすればいいのか困るんだけど……。


「そこはもー、いつも通り後頭部をひっぱたきながら、なんでやねん。って言えばいいかと」


 そか、なんでやねーん。ってだから体が動かないんだって。


「そういやそうだった。あははははー」


 ははははは。ってそう言えばこんなノリだったなぁ。

 ほんの少し前の事だったのに、随分昔に感じられるんだなぁ。


 そんなことを考えると、みっちゃんはきょとんとした顔で私を見つめる。


「何遠い目をしてるの?」


 ん? 懐かしいな。って。


「この馬鹿話が?」


 そ、この馬鹿話が。


「そっか、それは何よりだよ。化けて出て良かった」


 や、化けて出るのは私の方だから。


「それもそっか」


 いや、そこでぽんと手を打たないでよ。そこで納得されるのも私としては複雑なんだから。

 ちなみに私が死んでなにか変わったこととかあった?


「あはははは、私が知るわけ無いじゃん。

 本物ならいざ知らず、私が知ってるのはあなたの知ってること止まりだよ?

 だって、今の私はあなたが作った夢の中の住人なんだからね?」


 くるんと一回転するみっちゃん。それを見て、今度は私のほうが戸惑ってしまう。


 そっか。あんまりにも以前と同じ会話してたから忘れてたけど、そういえばそうなんだよね……。


「あ、でも安心して。約束してたからパソコンの中身は綺麗にしておいたと思うよ」


 あ、それは助かる。


「うんうん、私、偉い?」


 あはは、そうだね。偉い、偉い。


「まぁ、その辺は語れないけどさ、別のことは語れるよ?

 例えば秀作さんの事とか」


 ちょっ!? なっ!? なんでみっちゃんが秀作さんのこと知ってるのっ!?


「だって夢だし」


 あっ、そっか。

 さっき言ってたもんね。私の知らないことは知らないって。なら、私の知ってることは筒抜け?


「そういうことです」


 いや、そんなドヤ顔で返されても、ちょっとカチンと来るんですけど。


「きゃっ、こわーい」 


 ……はぁ。そんなわざとらしくしなくっても……。


「で、秀作さんとの間は進んでるの?」


 ないない。進むわけ無いからそんなに顔寄せないでよ。


「えー、でも結構かっこいいし、気配りしてくれるし、とっても優しい。

 ほら、以前言ってた理想の彼そのものじゃん」


 や、そう言うのじゃなくってね?


「じゃ、私が貰っちゃっていい?」


 それは駄目。


「きゃっ、即答?」


 や、多分みっちゃんが考えてるのとは違うから。


「違うって?」


 本当になんで? って首を傾げるみっちゃん。

 

 ほら、私ってば猫でしょ? だから、いくら秀作さんのことが好きでも飼い主とペット以上にはなれないかなー。なんて?


「でも中身が女子高生だったことは伝えてあるんだよね?

 ならワンチャンあるって」


 や、男の人って心の結びつきもだけど、体の結びつきも必要って聞いてるし、猫の段階でそれは無理だからっ。


「つまり、秀作さんの事は好きだけど、物理的に無理だから我慢してる。と?」


 すっ!? ……あー、まぁ、うん。平たく言えばそう言う事になるんだけどね。


「うんうん。そう言う正直なところお姉さん大好きよー」


 や、夢相手に取り繕っても意味無いかなーと思って。


「そりゃそうだ」


 ね?


「うん。

 でもさ、秀作さんが彼女とか連れてきたらどうするの?」

 

 どうもしないよ?

 そりゃ嫉妬ぐらいはするかもしれないけど仕方無いし。


「そかぁ、健気やねぇ」


 ケナゲ言うな。


「ま、自分の中できちんと整理できてんだったら、わたしゃなぁんも言わないよ。

 少なくとも彼女連れてくるまではあんたの独占状態なんだからさ、それまでの間、充分に甘えとくといいさ」


 むー、自分の夢にそう言われるなんて、私ってばそんなに願望溜まってるのかなぁ?


「溜まってるからこうして夢に見てるんじゃない?」


 ぐっ、……否定できない。


「あはははは。

 でもさ、本編が始まったら秀作さん、忙しくなってあまり会えなくなるかもでしょ? だったら今のうちに甘えとくしかないって」


 確かにそれもそうなんだよねぇ?

 秀作さんの描写ってほとんどなかったし、ほんとはすぐに帰ってきて家にいたのかもしれないけど、タルトはヒロインの部屋にほとんど常駐してた気もするからなぁ……。


 エンディングの後は一気に時が流れて、エピローグなんかはすでに結婚して幸せな家庭が、って流れだったから……、あれ? 思った以上に秀作さんの影ってば薄い?


「そこはサブキャラの運命ってことで」


 ま、そんなもんか。


 

 その後も結構な時間、他愛無いことをずっとおしゃべり続けた。

 私の知識以上のことはみっちゃんも知らなかったし、前の世界で今も元気だろうみっちゃんとは違うと分かっていても、それでも本当に楽しかった。

 でも楽しい時間とは必ず終わりが来るもので……。



 ……ふあぁ。

 なんだろ? 眠くなってきちゃった。

 

「あ、もうそんな時間?」


 私のあくびに合わせて、みっちゃんも腕時計を見る仕草をする。……腕時計付けてないけど。

 でも顔を上げるとちょっと寂しそうな笑顔でこう切り出した。


「そろそろいかなくちゃ」


 え? 時間なんて関係無いんじゃ?


「私になくてもあなたはあるでしょ?」


 んー……? って、あっ!? 温室で横になったままだった。


「そ。そろそろ起きないとマズいんじゃない? だから意識が覚醒に向かってきたんじゃないかなーと」


 なるほどぉ。


「というわけで私は行くね。ばいばい」


 みっちゃんはもう一度にぱって笑うと、両手を前に突き出して手首から先だけを振る。

 私もばいばいって言おうとしたけど、心の中で何かが違う、と思って自然と出てきた言葉を口にのせた。


「うん、またね」 


 顔を動かすことはできなかったけど声を出すことはできた。

 視界から外れてゆくみっちゃんの表情こそ見えなかったものの、本当に嬉しそうな声音で返事が帰ってくる。


「んふふー、うん、またね」



 自分では分からなかったけど、表情筋はうまく仕事をしてくれたのかな?

 多分今の私はみっちゃん以上にいい笑顔で笑う事ができていた。……と思う。猫だけど。


 そしてみっちゃんが去った後はどっと襲ってきた眠気に抗うことができなくて、ゆっくりとまどろみの中に意識が沈んでいきながらふと思った。



 夢の中で更に眠気って……、私、猫になって一体どれだけねぼすけさんになっちやったんだろう。

 でも夢の中ってシチュエーションなら、少しくらい秀作さんに甘えちゃっても問題ないよね? うん、お膝で寝たいなー。



 なんてわがままを考えてみるけど、夢っていってもそう都合よく現れてくれるはずもなく、そのままゆっくりと意識が沈んでゆくのを感じていた時


「本当に……」


 秀作さんの声が耳に届いてきた。


 夢とまどろみが混ざり合ってよく聞こえなかったけど、これは間違いなく秀作さんの声。


 っ!? やっぱり夢ってすごいっ!!

 だって、願ったら目の前に秀作さんが立っているんだもんっ。


 意識を戻すとぼんやりとした視界の中、すぐ目の前ではよそ行きのちょっとかっこいい服を着こなした秀作さんが、そのやさしげな瞳で私のことをじっと見つめていた。

 目があった気がして、いつものように自然とおねだりが口から出る。


「あ、秀作さんだぁ。おひざ、い〜い?」


 きっと、これだけを伝えれば膝の上に持ち上げてくれるはずだろう。

 そんなことを考えながらも睡魔に勝つことは全然出来なくて、そのまま、まどろみの中に、意識が溶けるようにおちていった。



------



「タルトちゃーん、起きてください、タルトちゃーん」


 背中をなでる暖かなぬくもりと柔らかな声音に、つい直前まで夢で見ていた秀作さんが脳裏に浮かぶ。


「んにゅぅ、あと五分ぅ」


 前足で右目をこすりながらそう答える。

 秀作さんのお膝にのせられ、優しい手つきでなでられて。

 はふぅ〜、極楽極楽。あと五分、五分ぐらいならきっと秀作さんだってうるさくは言わないよね?


 ぬくぬくぽかぽか、暖かくて気持ちいいなぁ。

 バラの香りに芝生の匂い、温室さーいこうっ!!  


 ……ってあれ? おんしつ?


 ………………………………………………。

 っ!? そうだっ!!

 私っ、温室で寝てたんだったっ!!


 慌てて目を見開いて飛び起きると、そこでは私に向けて手を伸ばしたまま、硬直している四人組の人影があった。


「話し……、ましたよね?」

「はい、確かに……」

「………」

「……えっと」 


 麗華さんは本当に驚いた顔で私を見て、初音さんは真顔で私を、継美さんは無表情で、三葉ちゃんは困った顔で頬を掻いている途中だった。


 ……。

 …………。

 ………………。

 うん、これってば、言い逃れも、気のせいだったってことにも出来ない状況。ってことだよね?


 とりあえずここはあれだ……。

「にゃあ」

 まずは猫っぽく鳴いてみることにしよう。


同時に『猫と彼女と迷宮と』と『キノの恩返し』も投稿しております。

気が向いたらそちらも読んでやってください。

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