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お似合いの二人……だよね?

"キーンコーンカーンコーン……"


「あ……」


 遠くから聞こえてきた予鈴に、麗華さんと和也さんはお互いに顔を見合わせる。


「すみません、和也さん……」

「いや、こちらこそ……」


 二人は頬を上気させたまま、恥ずかしそうにそそくさと離れあう。


「タルトちゃん、ご馳走様」


 小さく声をかけられて上を向くと、初音さんがイタズラな笑みで私に向けてウィンクしてくれた。

 前から思っていたけど、初音さんと私って結構気が合うかも知れない。なんてことを考えて居る間に和也さんは居ずまいを正したようで、初音さん達に声をかけてきた。


「改めて挨拶をさせていただいてもいいかな?」

「あっ、はいっ」


 慌てた初音さん達はビシッと音がしそうなくらい、姿勢を正すと和也さんに向き直った。


「1年Aクラスの神宮寺 和也と言います。

 麗華とは初等部にあがる前からの付き合いでとても親しくさせてもらっている間柄でね。幼馴染のようなもの、といえば理解してもらえるかな?

 先程麗華に話したように、外部生と内部生の溝を埋めるのが僕の目標だ。

 もちろん無理をさせるつもりはないが、どうしても大小のやっかみは受けると思う。そんな時僕以外にも、君達が麗華の支えになってくれればと思うんだ。巻き込む形となってすまないが、協力してもらえないだろうか?」


 和也さんは麗華さんに語ったように、初音さん達にもう一度自分の目標を告げると深く頭を下げた。

 その様子に初音さん達は慌ててペコペコと頭を下げる。


「そんなっ、頭を上げてくださいっ! 神宮寺様の頼みなんてなくても麗華様の為なら皆喜んで手伝いますよ。ねっ? みんなっ?」

「勿論ですぅ」

「当たり前だよっ!」


 初音さんの言葉に継美さんがニッコリと微笑み、三葉さんが力こぶを作るポーズで決める。


「皆さん……」


 その言葉と態度に麗華さんも感動したみたいで、両手を前で組んで瞳をうるうるとさせている。


 ゲームの中の麗華さんはいかにも悪役令嬢っ! って感じだったのに、今、目の前にいる麗華さんはまるで別人のようで、本当に同一人物なのかつい疑ってしまう。

 でも……、私は今の麗華さんの方がずっと好きだし、このままでいてくれたらって思ってしまう。

 これはやっぱり、"あの事件"って言うのが関係しているだろうと思うし、しっかりと見極めて麗華さんが豹変してしまった理由を突き止めなければならないだろう。

 その為には麗華さんに張り付いて、一言一句聞き逃さないでしっかりと情報収集しないとっ! あとお弁当の中身とかっ!!


 キリッと決意して、二人の会話を聞き逃さないようしっかりと耳を立てる。


「――ではそろそろ授業も始まるだろう。

 麗華と僕は同じ教室なのでそろそろ失礼するよ」

「はい、私達も教室に戻らせていただきます」

「それでは皆さん、また明日もバラ園のテラスで」

「「「はいっ」」」


 って会話が終わってるぅぅぅ!!

 また私考えに没頭していて話聞いていなかったっ!?

 決意したばっかりのに私ってやつわぁぁっ!


 心の中で涙していると浮遊感が体を襲い、地面に降ろされるのが分かった。


「じゃ、タルトちゃんまた明日ね」


 初音さんが柔らかく頭をなでてくれると、そのまま三人で校舎へと向かってゆく。

 その三人を見ながら和也さんがポツリと言った。


「いいお友達が出来たね」

「ええ」


 その時の麗華さんは本当に嬉しそうで、それを見ていた和也さんも柔らかく微笑んで……。

 本当、なんであんなギスギスした雰囲気になっちゃったんだろう。



――――――――



「それでね、和也さんと麗華さんが凄くいい雰囲気だったんだ。やー、若いっていいよねぇ」

「はは、タルトだってまだ子供じゃないか。老成するにはまだ早いと思うよ?」


 ソファに座った秀作さんの膝の上でくつろぎながら、恒例となりつつあるブラッシングを受けながら他愛無いお話をする。


「しかし、神宮寺のご子息と如月のお嬢さん、噂と違って仲睦まじいようで良かったよ」

「えっ、秀作さん二人のこと知ってるの?」


 秀作さんの口から二人の名前が出て少し驚いてしまう。

 でも秀作さんは柔らかく笑うと、頭を撫でてくれながら小さく頷く。


「流石に多額の寄付をしてくださる財閥の方々ぐらいは、だけどね?

 今は結構多いよ? 神宮寺家や如月家を筆頭に、財閥直系の方々が八家は居るからね」

「へぇ、そうなんだ?」


 誰だろ? 主要攻略キャラは全員だったと思うけど、あと五人ぐらいか……。

 ま、私にはそれほど関係ないかな?


「タルト、今、自分には関係ないとか思ったんじゃない?」

「へっ!? いやっ、そんなこと思ってないよ?」

「ふふっ、でも確かにタルトはそんな事知らない方がすごしやすくはあるかのかな? ま、気になった時は聞いてくれればいいよ。その時に教えるから」

「はぁい。

 で、噂ってどんななの?」


 話を戻すと秀作さんは少しだけ困った顔をした後、どうせすぐに知るだろうし。と前置きして話してくれる。


「さっき話にあった外部生と内部性の確執って言うのだけどね、その二人が対立する派閥に別れてしまった。って報告を受けていたんだ」

「派閥?」


 聞き慣れない言葉に思わず聞き返すと、秀作さんは分かりやすいよう噛み砕いて説明してくれる。


「そう。外部受験生と内部受験生の差別を無くそうと神宮寺和馬が主張してね、そこに今までの伝統を軽んじるのかと潰しにかかった一派がいるんだよ。

 その弾圧の側に如月麗華も加わっている。と噂があってね、あの二人は家が大きいのもあるけど、本人達も色々とあるから心配してたんだよ」

「そうなんだ?」

「といってもまだほんの小さな動きだけどね」

「なるほどー」


 そういえば確かに、和也さんは麗華さんの友人が見下す側に回っていて頼みにくかったって言ってたもんね。それでそう思われてたのかな?

 ん? でもそういうのって……。


「それって、秀作さんや学園としてはどうしたいの?」


 これは本来の性格か、猫としての性質か、思ったことがそのまま口に出てしまった。


「あっ、答えにくければ答えなくていいんだ……け、ど?」


 こんなの、あんた何やってるのさ。と言っているに等しくて、思わず言い訳がましくなっちゃったけど、相変わらず秀作さんは穏やかに微笑んだまま私を見ていた。


「そうだね。私や他の先生方の判断は、全てを彼らに委ねる。と言うことで一致しているよ」

「それって……」

「捉えようによっては私達は何をしているのか。と判断されかねないけど、私達は生徒を導いてゆくのが仕事なんだ。

 それが間違っていると、最初から分かっていれば彼らにそう言う事ができる。でもね、この学園にとっては今までが間違っていたとも、彼らの言い分が間違っているとも一概には言えないんだ。

 それを判断するのは全て生徒達であり、私達はそんな彼等が決定したことを、実現させる手伝いをする。その結果、必要なことがあれば私達が動けば良いし手を尽くす。それだけの事だよ」


 かっ……、かぁっこいいーーー!!


 そう言い切った秀作さんは本当に"大人"な男性で、ちょっとだけ私もこんな学園に通えれば良かったなー。とも、もしかして私達の先生もそう考えてくれていたのかな? って人間だった過去を思い返す。


「だからタルトも"ピリリリリリリリリッ"……っとごめんね、ちょっと電話が……」


 秀作さんは私に何かを伝えようとしたみたいだけど、テーブルに置かれた携帯が鳴ると言葉を止めてそれを手にとった。

 そして相手を確認すると一瞬だけ驚いた表情をしてすぐ真顔に戻り、「少し待ってくれないか」と言って私を膝の上から下ろした。

 そして無言のままに部屋から出ると、私がついて来ないように扉をぴっちりと閉める。


 なんだろう? あんな表情、初めて見た……。


 初めて見る秀作さんの表情と、拒絶するような扉の閉め方……。

 あの電話が何だったのだろうと気になる中、しばらくすると緊張した表情の秀作さんが戻って来て、私を持ち上げてテーブルに乗せると目線を合わせるようにソファに腰掛けた。


「タルト、すまないが急用ができた。

 もしかすると明日の朝まで帰ってこれないかもしれないんだけど、一人で留守番をお願いして良いかな?」


 この姿になってから初めての一人。若干怖いような気もするけど、秀作さんたってのお願いを無碍にできるほど私は薄情な女じゃない。……猫だけど。


「うん、大丈夫。

 それより秀作さんこそ平気?」


 力強く頷くと、秀作さんは幾分か安心した表情で「うん、大丈夫だよ」と返してくれた。


「ご飯は余り物で悪いけどここに置いて行くよ。どんなに遅くとも明日の午後までには戻ってくる。外出は好きにしていいからね」


 秀作さんはそう言うと、手早くサンドイッチを作ってテーブルに載せ、ふんわりとラップをかけると急いで着替えに自室へと駆けてゆく。

 そしてすぐに身なりを整えて戻ってくると、


「それじゃ、行ってくるね」


 と、私の頭をひと撫でしてから玄関から出て行った。


 一体あの電話は何だったんだろう……。






 答えを知るのはずっとずっと先だけど、この時、私がこの答えを知っていたとしたら、多分――ううん、絶対に秀作さんの後をついて行ったと思う。

 そしてヒロインの恋を応援するはずが、逆に一也さんと麗華さんの仲を深くしてどうするのよ。と言うツッコむべき事実も、この衝撃ですっかり忘却の彼方へと飛び去っていたのは内緒だ。

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