仲良き事は美しき……かな?
更新滞ってすみません。
忘れた頃に更新となると思うので、気長に待って頂ければと思います。
「ごちそうさま、いってきま〜す」
今日も今日とて秀作さんの美味しいご飯を食べ、意気揚々と中庭に向かって歩き出す。
麗華さんと始めて会った日から今日でちょうど一週間。毎日足繁く通った結果、なななんとっ!! 麗華さんはお昼休みの終盤近くを、必ずこの中庭で過ごすことを掴んだ。
私っ、頑張った!!
背後にチラチラと見える早苗さんのストーキング行為はもはや慣れたものと見て見ぬ振りをすることにして……、恒例となった一般生徒のモフモフを堪能した後、中庭外れのバラ園の近くまで来ると麗華さん達と会うことが出来た。
いつもはここで麗華さんのお友達(外部生の皆さん)から贈り物を受けたり、運動に誘われてお昼休みが終わってしまうんだけど、今日こそはお昼をどこでたべて居るのか掴んで、お昼休みいっぱいを情報収集できるようにして見せるっ!!
……あ、決して麗華さんのお昼ご飯がどんななのか気になってるわけじゃ無いよっ!! そこまで食い意地張ってないもんっ!!
「あっ、麗華様、今日も来ましたよ」
リーダー格の子が私を見つけると麗華さんを手招きしながら寄ってくるのが見える。「おいでおいで」と手招きしているのに自分から近寄ってくるなんて、ほんと麗華さんらしいなぁ。
なんてのほほんと見ていたら、襟首をつままれて持ち上げられ、そのまま麗華さんの腕の中におさまる。
「はいっ、麗華様どうぞ」
持ち上げたのは友人達の中でリーダー格の子、名前は初音さんと言うらしい。うん、私、情報収集頑張ってる!
「ふふっ、相変わらず可愛らしいですね」
「タルトちゃ〜ん、今日は無塩チーズでちゅよ〜。麗華様、猫ちゃんに濃い味付けはNGなんです。猫ちゃん専用の食べ物が一番良いんですよ」
「私っ、ゴムボールも持って来たんです。麗華様っ、子猫ってボール遊びとか大好きなんですっ」
上から順に麗華さん、継美さん、三葉さん。ゲームには出てこなかった人達だけど、最近はこの四人+日替わりで何人か集まって遊ぶのが多いみたい。
今日はこの四人だけで、心の中では仲良し四人組って呼んでる。
この方向からすると、来たのはやっぱりバラ園の近くかな? ……確かバラ園は立入禁止で、ゲームでは取り巻きの子たちがヒロインを呼び出すのに使っていて、後でヒロインがこっぴどく怒られていたような?
でもビジュアル的にこの子達は取り巻きに全然似てないし外部生の子なんだよね? 一体どういう関係なんだろ。……うん、まったりしたコクの中にも酸味がうまくマッチングしていてまったく後を引かない。あと5枚ぐらいならいけるかな?
「きゃー、可愛いっ。チーズを一生懸命食べてるぅ」
……っは!? いけないいけない。考え事に没頭してたはずなのに、ついつい口元に寄せられたチーズに夢中になってたっ。
でもうん、このまったりとした口どけの中にも上質な味わいと爽やかな酸味……やっぱり癖になるよなぁ、きっと昔の私じゃ食べることも出来なかった高級チーズなんだろう。もぐもぐ……。っじゃなくて!! 目的は麗華さんにっ……。
「ほらっ、ボールだよ。あははっ、じゃれついて可愛いっ」
いやぁぁっ、目の前にボールを差し出されるとつい手を伸ばしてしまううぅっ。
「ほらっ、麗華様も抱っこで満足してないで遊んでみてくださいよっ」
三葉さんにボールを渡された麗華さんが、左手で器用に私を抱っこしながら右手のボールでもてあそぶ。
「ええ、ほらほら〜、ふふっ可愛いわね」
いやぁーっ! 体が勝手にぃー。
「ですよねっ。でもここまで人懐こいのはタルトちゃんだからなんですよっ」
「そうなのですか?」
「はいっ。学園長に相当可愛がられているんですね。でなければこんなに人懐こくなりませんからっ」
「なるほど、勉強になりますわ。ほらタルトちゃんおいで〜」
「あ〜、麗華様、次は私の番ですよぉ」
「ふふっ、ごめんなさいね」
私には麗華さんと仲良くなる使命があるっ、少しでも仲良くなって情報を掴まなければいけないのにっ! 猫の習性なんてきぃらぁいぃ〜。
……冒頭での決意も虚しく、今日も今日とて弄ばされてお昼休みが終わるんじゃないかとそろそろ思い始めてきた……。
「あぁ、麗華さんここに居たんだ? 探したよ」
諦めかけた私の耳に麗華さんを呼ぶ落ち着いた声が響く。
後ろから聞こえる柔らかなその声色は間違いなく男性のもので、お友達と麗華さんは私の後ろにいるであろう声の主を見ると、笑顔のまま固まってしまった。
なんだろう?
私も声の主が気になって後ろを向いた瞬間、その体勢のまま固まってしまった。
端正な顔立ちに意思の強そうなキリッとした瞳。身長はだいたい180cmぐらい? すらっとした佇まいはまるでモデルのようで、ゲームの金髪碧眼も似合っていたけど、栗色の髪にはしばみ色の瞳もすごく似合ってる。
そんな彼は麗華さんの婚約者にしてメインとなる攻略対象、その名も神宮寺——
「和也さん……っ、なぜここに?」
そう、神宮寺 和也。それが彼の名前だ。
硬い声で名前を告げた麗華さんは、なぜか若干青ざめた顔色で彼の顔色を窺っている。
「いや」
「……っす、すみません神宮寺様。私達のような外部生が内部生である麗華様のお手を煩わせてしまいましてっ」
彼が麗華さんに声をかけようと手を伸ばすと、弾かれたように初音さんが立ち上がって頭を下げる。
その際に麗華さんの腕から私を引き抜いて、和也さんから見えない位置に隠したのは私の身も案じてくれたんだろう。
「本来、私達外部生は内部生の方々に不用意に近づいてはいけないと言う習わしをすっかり忘れ、子猫を愛でる麗華様に私がお声を掛けてしまいました。今後注意いたしますので何とぞお目こぼしを願えればと……」
そうか。私が固まった理由は彼が神宮寺 和也さんと気づいたからだけど、麗華さんは外部生と仲良くしているのが見つかったからだし、初音さん達は内部生の麗華さんに馴れ馴れしくしているのが見つかったからなんだ。
初音さんは麗華さんに非は無いと訴えつつ、他の子達を守ろうとして必死に矢面に立とうとしてる。
なんて格好いいんだろう。リーダー格に見えていたのは、こういう頼れる所がみんなから好かれているからなんだと思う。
……でもそんな心配は要らない。和也さんがゲームと同じ性格であるらなら——だけど。たぶん心配なんていらない。
ほら、初音さんを優しい眼差しで見ながら口を開いた。
「大丈夫。僕はそんな悪しき習慣に従うつもりは全く無いよ。
勿論君たちを糾弾するつもりも無いし、麗華さんに何か言うつもりも無い。
それどころか僕より先に、内部生と外部生という垣根を越えた麗華さんを尊敬したいぐらいだよ。——流石、麗華さんだね」
「えっ!?」
この発言を受け、麗華さんは驚いたように和也さんを見上げる。初音さん達はイケメンスマイルにやられたんだろう、ほおを染めてうっとりとしながら和也さんに見惚れている。
さすがメイン攻略対象。と言うべきなのかな? ファンクラブがあるだけあって一般生徒は簡単に骨抜き状態ですかぁ……。うん、かっこいいのは認めるけどねっ! ゲームで見慣れてるはずの私まで魂取られるかと思ったよっ!
「和也さん……、良いのですか?」
突然の言葉に驚いたのか、麗華さんが呟くように言うと和也さんは改めて手を差し出した。
「良いも悪いも、本当は麗華さんにお願いしようと思っていたんだよ。
内部生と外部生を区別する悪しき習慣、これを改善する手伝いしてもらえないかって。……ただ、高等部に入ってから麗華さんのご友人は外部生を見下す側に回って居たので、僕の不用意な一言が君を孤立化させてしまうんじゃないかと考えると、心配で声を掛けることが出来なかったんだ」
「それは……」
麗華さんは逡巡するように目を伏せる。
「分かってる、それがこの学園での"普通"だって事ぐらい。勿論彼女達を糾弾するつもりなんてないから安心してほしい。……まぁ、分かってもらいたいとは思うけどね?」
和也さんは寂しげな笑みを一瞬だけ浮かべたけど、すぐに柔らかい笑みに戻る。
「和也さん……」
麗華さんもその表情の変化に気づいたみたいだ。優しく差し出された和也さんの手をそっと両手で包むと、困ったような安堵するような微笑みを浮かべて顔を上げた。
「……私も、彼女達の態度には疑問を持っておりました。
ですがサロンの先輩方も同じような考えの方々ばかりで、ならば自分の考え方が間違っているのではないか、と常々悩んでおりました。
ですがそんな折、このバラ園で初音さん達とお話しをさせて頂き、共にタルトさんを愛でる事で気づいたことが多々あります。彼女達は私に無いものをたくさん持っている、尊敬できる方々ばかりだと。
だから私は、その……」
麗華さんは言葉に詰まると初音さん達を見渡す。
初音さん達は今度は別の意味で頬を染めながら麗華さんを見返している。
麗華さんは初音さん達と目が合うと柔らかく微笑み、目に力がこもった。
「彼女達をお友達と思っています。でも、この学園では異端の考えと思い、今まで胸を張って言うことが出来ませんでした。
……和也さん、私は彼女達をお友達と、胸を張って言いたいです」
その言葉を和也さんは満足そうに受け止め、初音さん達は感激したように目を潤ませている。
「「麗華様……」」
麗華さんは今までの優しげな雰囲気から一転、キリッとした雰囲気へ変わって和也さんの目を見つめる。
「和也さん、私の方こそお願いします。私にも、垣根を越える手伝いをさせてくださいっ!」
和也さんは少しだけ驚いた表情をした後、ポツリと「いけないな、本気で惚れたかも知れない」って呟いた。
麗華さん達には聞こえないだろうけど私だけには聞こえた。
和也さんはすぐになにも無かったかのようにとりすまして「ありがとう」と言ったけど耳が少し赤いのだって見逃さない。
ああっ、内心にまにまするのをどうしても止められないっ!!
お友達の皆も口々に「私も手伝います」と言って麗華さんの手を取り合って行くのを、和也さんは満足そうに見ているだけでもどかしい。……ちょっとお節介をかけて見よう。
「にゃあ」
和也さんに向かって一声鳴いてから麗華さんの足元に移動し、頭で麗華さんの足を押し出すように擦り付ける。
「きゃっ」
「危ないっ」
不意に押されたことでバランスを崩したんだろう、麗華さんが少しよろけたところで私に視線を向けていた和也さんがすぐに支えようとする。
必然的に二人は抱き合うような形になるわけで……。
「あっ、っと、その……。麗華さん、大丈夫ですか……?」
「いえ、和也さんありがとうございます……」
うん、二人とも真っ赤になって俯いた。すごくいい雰囲気で、初音さん達は察したように二人の世界を邪魔しないようにしてくれている。作戦成功っ!!
……あれっ? でもなにか忘れているような、気が……?




