薄暮と漣、交わらぬ時代の揺籠・アルヴィス編
*過去編『○○年前』の裏話*
第二葉:王太子の枷、完璧なる「私」の構築
誕生から十数年。
世界樹の最適化システムにより、アルヴィスは人族の年齢でいう「十代半ば」の、息をのむほどに美しく聡明な少年へと成長していた。
しかし、その日々の裏側は、息の詰まるような『完璧な統治者』としての英才教育の連続であった。
「アルヴィス様、民の前では常に慈悲深く、隙のない『私』でありなさい。感情に流される『俺』などという野蛮な心は、王太子には不要にございます」
生真面目な大長老や古い臣下たちから、毎日毎日、一分の狂いもない王としての立ち振る舞いを叩き込まれる。
朝から晩まで、エデンの法典の暗記、地脈の防衛、そして無詠唱魔術の出力を極限まで高めるための過酷な訓練。
「……分かっています、大長老。私は『翡翠の揺籠』の王太子ですから」
少年アルヴィスは、鏡の前で衣服を整え、完璧に美しく、しかし一滴の温度もない「私」の微笑みを作ってみせた。
だが、誰もいない深夜の寝室。アルヴィスは一人、ベッドの中で自分の胸元をきつく押さえていた。
生まれながらの膨大な光と闇のマナは、常に体内で激しく反発し合い、彼のまだ若い肉体を内側からジクジクと削り取っていたのだ。
(王太子、か。……俺は、この国を護るために創られた、ただの人形の配役と同じだな)
民のために笑い、国の利益のために槍を振るう。
その完璧な虚飾の日々の中で、彼の心は、自覚のない憂鬱の深淵へと、少しずつ冷たく沈み込んでいた。




