薄暮と漣、交わらぬ時代の揺籠・アルヴィス編
*過去編『○○年前』の裏話*
第一葉:翡翠の果実、双子のマナの産声
それは、教団による汚染が世界樹の根幹を脅かし始めていた、今から約二十年前の出来事。
精霊の郷『翡翠の揺籠』の天頂。
世界樹の最も清らかなマナが集中する最奥の枝に、歴史上あり得ない「異常」が発生していた。本来なら光、あるいは闇のどちらか一つの属性しか宿さないはずの聖なる果実。
しかしその年、世界樹の枝に実ったのは、光の金白色と闇の漆黒が、まるで陰陽の螺旋のように美しく絡み合った、ひとつの『双子の融合果』であった。
「……おお、世界樹よ。これは一体、どのような天変地異の前触れじゃ……」
当時、まだ若かりし大長老は、その禍々しくも神々しい果実を見上げ、震える手で杖を握りしめていた。
パキィン――
ある朝、翡翠の郷に瑞々しい黎明の光が差し込んだ瞬間、その双子の果実が澄んだ音を立てて二つに割れた。
中から溢れ出たのは、郷のすべての自然をひっくり返すほどの、圧倒的な密度の光と闇の融和マナ。そして、その光の残渣の中心で、大樹の葉に包まれるようにして、一人の赤ん坊が静かに産声を上げた。
金と黒のオッドアイの双眸。
生まれながらにして光と闇の両極の魔力を完全に調和させた、エデンの歴史上、最も歪で、最も高貴なる『奇跡の命』。
赤ん坊が小さな手をきゅっと握りしめた瞬間、周囲の空間から詠唱の術式すら経由せず、無数の光と闇の小精霊たちが歓喜の歌を歌いながら集まってきた。
生まれながらの無詠唱の資質。大長老はその赤ん坊を大樹の葉ごと優しく抱き上げ、涙を流してその小さな額に口づけを落とした。
「この御方は、世界樹が我らを護るために遣わしてくださった、次代の絶対の統治者……。名を、アルヴィス。アルヴィス・アルカディア様じゃ……!」
これが、後に「薄暮の騎士」と呼ばれることになる王太子の、すべての始まりの産声だった。




