↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/75

白銀の残響、薄暮のセレナーデ

*平和な日々編『現在』の話*

それは、月明かりが世界樹の葉を青緑色に優しく濡らす、ひどく静かな夜のことだった。


レンは夜の散歩の途中、王宮の奥深くにある、普段は誰も立ち入らない『空中庭園』の付近で、ふと足を止めた。

いつもならレンの脳内に爆音で響いているエデンの民の祈りの歌(※現在は『王太子様戻ってきて音頭・バラードVer』)が、不自然なほど静かに凪いでいたからだ。


静寂の中、白い霧の向こうから、聞いたこともないほど美しく、気高き『弦楽器の音色』が響いてくる。


(……へえ。システム(マナ)の波形が、めちゃくちゃ綺麗な円を描いてるわ)


レンは刀の柄に手を置いたまま、ゆったりとした歩調で音の源流へと近づき、庭園の白磁のアーチの陰からそっと覗き込んだ。


そこにいたのは、式典用の白銀の甲冑を外し、ゆったりとした漆黒の夜会服を纏った王アルヴィスだった。


彼は月光をその身に浴びながら、エデンの伝統的な弦楽器である『翡翠の竪琴(アルパ)』を抱え、その長くて白い指先で、美しく繊細に弦を弾いていた。

無詠唱マナ操作。

彼が奏でる旋律は、ただの音楽ではなかった。


アルヴィスが弦を鳴らすたび、庭園を満たす光と闇の精霊たちが、まるで恋人に囁きかけるかのように優しく彼の周囲に集まり、小さな光の粒となってワルツを踊るように煌めいている。


彼の背中から、淡く顕現した黄金と漆黒の両極の羽が、音色に合わせて雄大に、そして静かに羽ばたいていた。

絶対的な気品。

そして、孤独な彷徨の中で培われた、苛烈なまでの「不屈の魂」が、その切なくも力強い旋律(セレナーデ)となって夜空へ溶けていく。


いつもなら「お立ち台だね」とからかうはずのレンが、その圧倒的な美しさと格好良さに、初めて言葉のシステムを忘却(ハッキング)されたかのように、ただ黙ってその横顔に見惚れていた。


やがて、最後の美しい残響が夜の帳に溶け、アルヴィスは静かに弦から手を離した。

彼は振り返ることなく、金と黒の双眸を月へと向けたまま、悪戯っぽい声音で呟いた。


「……随分と熱心な観客ですね、レン。無作法に立ち聞きするとは、神の仔の計算も少々見通しが甘いのではありませんか?」


最初から、レンの気配(マナ)に気づいていたのだ。


レンはハッとして、それから、これ以上ないほど負けを認めたような、嬉しそうな「裏の顔」の笑みを浮かべて影から進み出た。


「あはは、完敗。お前、本当にずるいなぁ。普段はあんなに食べ物にハッキングされてだめ可愛い王様(大甘党)のくせにさ、本気で芸術(スキル)発動すると、誰も手が付けられないほど格好良いじゃん」


レンはテラスの縁側に腰掛け、拍手を送った。

アルヴィスはフッと不敵に口元を歪めた。


「当然だ。俺をただのお菓子に釣られる野良騎士だと思うなよ、レン。これでも、翡翠の揺籠のすべての民を背負う、最高の名君(王)だからな」


月光の下、弦を抱いて不敵に笑う薄暮の騎士。その姿は、世界のどんな美しい聖典(シナリオ)よりも眩しく、そして最高に気高く完成されていた。


「よし! じゃあその素晴らしい演奏へのお礼。特等席の報酬として、明日は最高級の『ナッツのカラメリゼ』を山盛りで作ってあげるよ、王様?」  


「……っ、ふ、フン。手際だけは、認めてあげますよ。……できれば、多めで頼みます」


最後の最後で、やっぱり視線がお菓子をロックオンしてふにゃりと緩んでしまう、愛すべき王様。


平和になったエデンの夜は、高貴な白銀の残響と、2人の途切れることのない温かい笑顔によって、どこまでも美しく、静かに更けていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。