↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/75

王座の隣の特等席 〜甘味の穴とカロリーの不都合な真実〜

*時系列編『あの時』の裏話*

『エクリプス・アルビオン』との決戦を終え、緑の輝きを取り戻した『翡翠の揺籠(エデン)』。


厳かな即位式を無事に終え、民たちが祝祭の宴へと繰り出した夜、二人きりになった玉座の間で、アルヴィスは小さくため息を吐いて頭の宝冠を外した。


「……はあ、疲れた。民の前で『私の唯一無二のバディです』などと宣言させられるとは、本当に、てめえの仕組んだサプライズは心臓に悪い」


「あはは! でも、エデンの皆大喜びだったじゃん。ほら、即位祝いの『クレープ』、おかわりあるよ、アルヴ」


レンがニヤニヤしながら差し出した薄い生地の菓子を、アルヴィスは今や一秒の躊躇(ちゅうちょ)もなくひったくり、大口で頬張った。

呪いが解けた体へ染み渡る濃厚なクリームの甘さ。彼の端正な眉間が、ふにゃりと幸せそうに緩む。


「……美味い。やはり、戦いの後の甘味に勝るものはありませんね、レン」


「だろ? でもさあ、王様。お前、旅の途中からプリン、シュークリーム、ドーナツ、ギモーヴまで、俺の作ったもん毎日完食してたよね」


レンは刀を床に突き立て、そこに顎を乗せながら、隙のない「管理者の裏の顔」で意地の悪い笑みを浮かべた。


「あのさ、親父の残した異世界の知識(データ)によるとね、甘いもんを運動量(消費マナ)以上に摂取し続けるとさ……【ウェイトゲイン】っていう、肉体が物理的に膨張する最悪のバグが発生するんだわ」


「……うぇいとげいん? 肉体の、膨張?」


アルヴィスはクレープを口に咥えたまま、瞳を丸くした。


「そう。これからは国を治める王様だから、旅の時みたいに暗殺兵を無詠唱で解体する高強度インターバルトレーニングがなくなんだろ? なのにそのペースでクレープ食ってたら、数か月後にはその白銀の甲冑、お腹のあたりがパツパツになって着られなくなるよ、元・王太子様」


「っ!? ――な、なんだと……っ!?」


アルヴィスは喉にクレープを詰まらせかけ、猛烈に顔を青くした。


完璧な統治者としての威厳、そして精霊騎士としての気高き美貌。

それが「甘味の食べすぎでお腹がパツパツになる」という、世界の崩壊よりも恐ろしいシナリオ(バグ)の危機に瀕している。


「て、てめえ、なぜそれを今言うんだ! 早く言え、そのバグの解除呪文は、無詠唱でも発動できるのか……っ!?」


ガタッと椅子から立ち上がり、レンの肩を激しく揺さぶるアルヴィス。

完全にパニック状態だ。


「あはは! 無詠唱魔術じゃ脂肪(バグ)は燃やせないよ! 解除方法はただ一つ、物理的な運動(ワークアウト)だけ!」


「……くっ、おのれ教団……奴らを滅ぼしても、なおこのような呪いが残っていようとは……っ!」


「教団の呪いじゃねぇよ、ただの自己責任だよ!!」


その日の深夜、エデンの民たちが祝祭の灯火の中で眠りにつく頃。

静まり返った修練場には、白銀の甲冑のサイズ死守を掲げ、夜通しで猛然と槍を振り回して汗を流す「薄暮の王(大甘党)」と、それを特等席(隣)でニヤニヤしながら見守り、夜食用にまた新しい甘味をこねているレンの、どこまでも賑やかで温かい影が揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。