第三十五葉:純白の終焉、楽園への漣(さざなみ)
「警告、警告――主の設計図に、未定義の管理者ノイズを検出。上書きを、拒絶――」
教皇アニマの天使の羽から、最後の、そして最も狂暴な純白の光線が放たれる。
アルヴィスの漆黒の悪魔の羽がその光に焼かれ、白銀の甲冑が悲鳴を上げて砕け散っていく。
しかし、彼の瞳から輝きが消えることはない。
「――そこまでだ、教皇アニマ」
その時、神殿の床全体を覆っていた青い光の文字列が、一瞬で『黄金色』へと反転した。
レンの口から、血がひと筋、タラリと流れ落ちる。数千年の限界を超え、己の神の血のすべてを注ぎ込んだ、絶対の強制書き換え。
「システムロック解除――【純白の枷】、完全消去ッ!!」
レンが叫んだ瞬間、アルヴィスの胸元の皮膚に食い込んでいた、あの忌々しい白い鎖の紋様が、音を立てて木っ端微塵に砕け散り、光の塵となって霧散した。
「っああ――あ、あああッ!!」
アルヴィスの口から咆哮が漏れる。
彼を苛み、国を枯らし、孤独へと突き落としていた呪いが、本当の意味で跡形もなく消滅したのだ。
――呪いの消失
それは、アルヴィスの体内で反発し合っていた「光の精霊」と「闇の精霊」のマナが、何にも縛られることなく、完全なる『調和』を果たしたことを意味していた。
アルヴィスの背中に、光り輝く黄金の羽と、全てを包み込む漆黒の羽が、同時に美しく、雄大に生え揃っていく。
昼でも夜でもない、真の薄暮を統べる『精霊騎士』としての、完全な覚醒。その圧倒的な神々しさに、教皇アニマの白磁の体がパキパキとヒビ割れ始めた。
「システムが、完全に書き換わった……!? 我らの、純白の、世界が――」
「終わりの時間ですよ、教皇アニマ。お前の寂しきシナリオごと――ここで根こそぎ、灰になりなさい」
アルヴィスは、一歩後ろで膝を突きながらも不敵に笑うレンの姿を、その双眸に焼き付けた。
全てを理解した。
アルヴィスは心からの信頼と勝利の意志をその声音に宿し、全出力を精霊槍へと込めた。
口から出たのは、最高に気高く、最高に熱い心からの声。
「往くぞ、レン! 俺たちの信じた結末へ!」
「おうよ、アルヴ! 叩き込んでやれ!!」
アルヴィスの精霊槍から解き放たれたのは、これまでの薄暮の螺旋を遥かに凌駕する、世界そのものを優しく抱き締めるような『融和の黎明』の光だった。
アニマの天使の羽を、白磁の肉体を、そして世界の夜を消し去ろうとしていた純白の光の柱を、その圧倒的な黎明の輝きが、優しく、しかし容赦なく包み込み、塵へと還していく。
ズガァァァァァン!!! と、世界の最果てで、教団の歪んだ野望が、これ以上ないほど爽快に、粉々に打ち砕かれた。




