第三十四葉:両極の羽衣、神の仔の絶対構築
「――愚かなり、薄暮の苗床よ。不純なるマナを混ぜ合わせたその翼で、天の意志に抗えると思うな」
教皇アニマの無機質な声が響くと同時に、彼の背中から生えた幾対もの天使の羽から、空間そのものを灼き尽くすような『純白の断頭光』が一斉に降り注いだ。
対するアルヴィスは、白銀の甲冑の右半分から立ち上る漆黒の闇のマナを、文字通り『片翼の悪魔の羽』の形へと物質化させ、正面からその光の津波へと突っ込んだ。
左側の純白の光、右側の漆黒の闇。両極の羽衣を纏った薄暮の精霊騎士が、無詠唱魔術をまとった槍を神速で突き出す。
ズガァァァン!! と、神殿の最奥で光と闇の螺旋が激突し、大気が悲鳴を上げて融解していく。
その凄絶な激突の、一歩後ろの特等席。
レンは刀を逆手に構えたまま、その目をかつてないほど冷徹な、隙を見せない「管理者の裏の顔」へと切り替えていた。
彼の指先からは、青い神の光の文字列が、まるで滝のように床の法陣へと流れ込み続けている。
レンは、襲い来るアニマの攻撃をただ防いでいるのではなかった。
アニマがアルヴィスの『純白の枷』を強制同調させようとマナを伸ばした、その繋がった瞬間を逆探知し、創造神の権能による『システムの強制書き換え』を、一人で限界突破の出力で回していたのだ。
(――エデンの皆、お前たちの祈りのマナ、確かに受け取ったわ。……あいつの胸の呪い、今から俺が根こそぎ『解除』してやるからな)
レンの脳内には、今も世界樹の元で涙を流して祈るエデンの民たちの声が響いている。
レンが今やっているのは、単なる戦闘の補助ではない。
アルヴィスの体に刻まれた『純白の枷』の呪いの解除キーを、総本山のメインシステムから直接『強奪』する、神の仔としての命懸けの「本当の本気」の構築だった。
「レン、耐えろよ! 俺の全出力で、アニマの防御障壁を物理的にこじ開ける!」
激しい光の濁流の中、アルヴィスが声を上げて槍をさらに深く突き進める。漆黒の悪魔の羽が狂暴に羽ばたき、天使の羽を次々とへし折っていく。
「任せろ! お前のその気高き意地、一ミリも無駄にさせないって! ――システム書き換え完了まで、あと十秒……! アルヴ、そのまま突っ込め!」
レンの叫びとともに、青い神の光が白磁の祭壇全体を包み込み、教皇アニマの絶対の支配権が、内側から激しくエラーを起こし始めた。
世界を純白に停止させようとする神の傀儡と、相棒を王座へ還すために全てを賭ける神の仔。
そして、民の愛を背負って槍を振るう薄暮の騎士。
完璧に噛み合った二人のバグが、世界のシナリオを終わらせるために、今、最大の輝きを放ち始めた。




