第三十三葉:大儀式の祭壇、真白き神の傀儡
轟音とともに、結晶化しつつあった白磁の巨扉が内側から爆砕した。アルヴィスの無詠唱の闇の魔力が、神殿の最高セキュリティを力技で粉砕したのだ。
吹き抜ける凄まじいマナの爆風を割って、二人は教団の心臓部――『大儀式の祭壇』へと足を踏み入れた。
そこは、天井が存在しない広大な円形の間だった。真上を見上げれば、世界の夜空がまるで巨大な渦のように引き裂かれ、地脈から吸い上げられた莫大なマナが、一本の巨大な『純白の光の柱』となって天へと噴き上がっている。
世界の夜を消し去り、白一色の世界へと作り変える最終儀式は、すでに臨界点に達していた。
そして、その光の柱の直下、祭壇の玉座に鎮座していたのは、人族の形をしてすらいない『異形』であった。
それは、白磁の結晶で造られた、巨大な『神の彫像』のような姿をしていた。
衣服を纏ってはいるが、肉体そのものが無機質な白。その背中からは、光のマナで形成された幾対もの天使の羽が不気味に生え揃っている。
教団『エクリプス・アルビオン』の最高指導者にして、不在の創造神に代わって世界のシステムを乗っ取ろうとする本尊――『教皇アニマ』。
否、神の血を引くレンの目には、その正体がより残酷な形で映っていた。
「……なるほどね。教皇なんて呼んでるけどさ、あいつ、人間じゃないわ。創造神が世界を去る時に遺していった、自動修復システムが暴走した姿だ」
レンは刀を静かに構え直し、世界の管理者の目でアニマを凝視した。
「親父がいなくなった寂しさに耐えかねて、この世界を『汚れのない純白のままで完全停止』させようとしてやがるんだ。お前の『純白の枷』は、この暴走プログラムが世界樹に打ち込んだ、俺を引きずり出すためのエサだよ」
「――アニマがレンを呼び、私をここまで彷徨させた、というわけですか」
アルヴィスは荒い息のまま、胸の奥でドクドクと明滅する『純白の枷』を強く押さえた。
服の隙間から覗く白い鎖の紋様は、目の前の教皇アニマが放つ光の柱と同調し、彼の肉体を物理的に祭壇へと縛り付けようと牙を剥く。
だが、アルヴィスの双眸には、折れることのない「意地」がらんらんと輝いていた。
アルヴィスは凍りつくほど冷徹な微笑みを浮かべると、声を完全に「裏」の本音へと切り替えた。
「寂しいから世界を巻き込んで心中するだと? ……くだらない。そんな安っぽいプログラムのために、俺の感情も、民たちの涙も利用されていたのかと思うと――反吐が出る」
アルヴィスは精霊槍を美しく一閃させ、アニマへ向けて真っ直ぐに突き出した。
白銀の甲冑の右半分――全てを呑み込む漆黒の闇のマナがアルヴィスの感情に同調し、まるで死神の翼のように狂暴に膨れ上がった。
「お前の描いたシナリオごと――ここで根こそぎ、灰になれ」
アルヴィスの無詠唱による、光と闇が螺旋を巻く全出力の精霊術が、暴走する神の傀儡アニマへ向けて、凄絶な咆哮を上げて解き放たれた。




