第三十葉:最果ての門、白紙の章の始まり
無機質な歌声が渓谷の岩肌を激しく震わせる中、二人は白い霧のカーテンを力強く突き破った。
視界が開けたその瞬間、アルヴィスの双眸に飛び込んできたのは、世界の果て、奈落の淵にそびえ立つ、巨大な『白磁の神殿』だった。
教団『エクリプス・アルビオン』の総本山――【最果ての地】。神殿の全容からは、目も眩むような強烈な『純白』のマナが天へと噴き出し、世界の夜空を強引に削り取って昼に変えようとしていた。
「――ここが、奴らのシナリオの終着点ですか」
アルヴィスは神殿の門前で足を止め、精霊槍を握る手に一層の力を込めた。
彼がこの地に一歩足を踏み入れた瞬間、胸元の『純白の枷』は激しく、かつ静かに明滅を止め、大元のシステムと同調して完全に『定着』した。
衣服の隙間から覗く白い鎖の紋様は、まるで彼がここに来ることをずっと待っていたかのように、美しくも禍々しく、肌の上で完成されていた。
だが、アルヴィスの唇は、絶望するどころか、最高に冷酷な笑みをその端に湛えていた。
「俺をここまで彷徨させ、呪いを完成させたのがお前たちの完璧な計画なら、褒めてやるよ」
定着した枷に痛みはない。
ただ、何かとの『繋がり』を感じ、不快感だけがアルヴィスを苛立たせた。
完全に素を曝け出し、嘲るように吐き捨てる。
「……だが、その計画には最大のイレギュラーが混ざっていることを、今すぐその安っぽい頭に叩き込んでやるよ」
アルヴィスは隣に並ぶ、一振りの刀を携えた最高の相棒に視線を向けた。
「そうそう。あいつら、お前を連れてくれば自動的にシステムが完成して『純白の世界』が手に入ると思ってたみたいだけどさ……」
レンは刀を静かに抜き放ち、その刃に青い管理者権限の光をギラリと宿らせた。
冷徹な神の仔の目が神殿の奥を睨みつける。
「俺たちがここに来たってことは、その完成したシステムごと、内側からバキバキに叩き壊して、真っ白な灰にしてやるってことだからね。お前らの最高傑作の最終章、今から俺たちの『バグ』で、ただの白紙に戻してやるわ」
レンの不敵な宣言と共に、神殿の巨大な鉄扉が、二人の圧倒的なマナの威圧感によって、内側からギチギチと悲鳴を上げ始めた。
国を枯らす呪いを背負い、孤独な薄暮の中で始まった不屈の彷徨。
しかし、数千年の孤独を埋め合う無二のバディを得た今、二人の歩みは世界の歪みを根こそぎ駆逐する「神殺しの進軍」へと完全に昇華していた。
「往くぞ、レン。――俺たちの楽園へ還るために」
「おうよ、アルヴ。馬鹿げた奴等のシナリオを、派手にぶっ壊しに行こうぜ!」
二人の影が、白磁の神殿の奥へと、一歩の躊躇もなく突き進んでいく。




