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第二十九葉:白霧の残響、最果ての歌声(システム音)

ズガァァァン、と最後の白磁の魔獣が、レンの刀によってその駆動核を真っ二つに両断され、光の塵となって霧の底へと崩れ落ちた。


「ふぅ……。よし、これでこのエリアの雑魚は全滅(クリア)だな」


レンは刀を鮮やかに振ってマナを払い、カチンと音を立てて鞘に収めた。

それまで空間を縛り上げていたアルヴィスも、ゆっくりと精霊槍の穂先を下げ、涼しげな声音で息を整える。


「……見事な剣敏です、レン。私の捕縛から一瞬も遅れることなく核を穿つとは。貴方を旅の連れにしたことだけは、私の人生における数少ない『正解』だったと言わざるを得ませんね」


「お、めずらしく素直に褒めるじゃん。記念に明日は『クレープ』ってやつでも――」


レンがいつものように飄々とした調子でからかい返そうとした、その時だった。

風もないのに、渓谷を包む白い霧が、不自然な波形を描いて細かく震え始めた。

アルヴィスの胸元の『純白の枷』が、それまでにないほど激しく、まるで警告の灯火のようにドク、ドク、と白く明滅し始める。


「くっ、あ……。な、んだ、この音は……歌?」


アルヴィスは胸を押さえ、顔を苦痛に歪めた。

耳を澄ませば、霧の奥から聞こえてくるのは、生物の咆哮でも、風の鳴る音でもなかった。

それは、美しく、しかしどこか無機質な、何重にも重なる『奇妙な歌声(メロディー)』。

いや、転移者の知識を持つレンの耳には、それが別のものに聞こえていた。


「……違う。これ、歌じゃない。システムのエラー音(アラート)だ」


レンから完全にいつもの軽薄さが消え失せ、一切の隙がない管理者の目が白霧の裏を睨みつけた。


「教団の総本山――『最果ての地』にある世界のコアが、限界を超えて稼働(ハッキング)を始めてる。この歌声みたいな音は、世界の設計図(シナリオ)が無理やり書き換えられている時に発生する、いわば悲鳴(ノイズ)だよ。……あいつら、お前がここまで近づいたのを利用して、最終章(最後)の儀式を完全に起動させやがった」


歌声(システム音)が響くたび、アルヴィスの体内のマナが共鳴し、衣服を透かして白い鎖の紋様が物理的に彼の自由を奪うように締め付け始める。

教団は、アルヴィスが魔獣を退け、この渓谷の最奥へと辿り着くことすら、すべてシステム的な『導線(ナビ)』として利用していたのだ。


「……どこまでも、人の歩みをコケにしてくれる連中ですね」


アルヴィスは激痛に耐えかね、完全に本性剥き出しの声を漏らした。

槍の柄を折れんばかりに握り締め、双眸に背筋が凍るほどの冷酷な怒りを灯す。


「俺の薄暮(目的)も、この彷徨(旅)も、すべてはお前たちを根こそぎ灰にするためのカウントダウン(ウォーミングアップ)だ。――レン、マナの波長を最大出力で固定しろ。このままあの歌声の主の元へ、挨拶に往くぞ」


「おうよ! あいつらの歪んだシナリオ、俺たちのバグでバキバキにハッピーエンドへ書き換えてやろうぜ、アルヴ!」


レンの手がアルヴィスの肩を強く叩き、青い管理者権限の光がアルヴィスの胸の呪いを強引にねじ伏せて調和させる。


霧の渓谷の最奥、歌声が導く世界の終焉へと向かって、二人の無敵のバディは、一切の躊躇なく突き進んでいった。


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