第二十五葉:枢機卿の断末魔、果てなき夜の胎動
「――消えなさい」
アルヴィスの冷酷な宣告と共に、精霊槍の穂先から放たれた『薄暮』の螺旋が、極大の濁流となって枢機卿カルディナへと襲いかかった。
光と闇が超高密度で融和した、万物を拒絶する無詠唱の最大火力。
「ぐ、おおおおおっ……! 我が純白の法力が……完全に相殺、いや、喰われていく……!?」
カルディナは必死に白銀の結界を何重にも展開したが、アルヴィスの放った薄暮の螺旋は、その結界ごと空間を物理的に削り取り、狂暴に圧搾していく。
結界がガラスのように次々と砕け散り、カルディナの白い衣が血に染まっていく。
完全なる詰み。
圧倒的な格の違いを見せつけられ、死の深淵に立たされたカルディナは、しかし、血を吐きながらも狂気的な笑みをその口元に浮かべた。
「はは……、ははは! 見事だ、アルヴィス・アルカディア! だが、お前は何も分かっていない! 我らをここで滅ぼそうとも、お前の『彷徨』は終わらない……!」
「……何だと?」
アルヴィスは双眸を鋭く細め、槍の出力を維持したまま冷酷に問いかけた。
「お前の中に刻まれた【純白の枷】……。あれは、我らが主が世界樹そのものに打ち込んだ『絶対の楔』だ! お前がどれだけ敵を討とうとも、その呪いが解けぬ限り、お前が歩く足跡から、世界の『夜』は地脈を通じて強制的に吸い上げられ続ける!」
カルディナは激しく吐血しながら、アルヴィスを、そして背後に立つレンを呪うように睨みつけた。
「神の仔よ……! 貴様がどれほど戦況を書き換えようと、その苗床の呪いは外せない。なぜなら、その呪いの解除キーは、この世界の設計図の『最終章』……我が教団の総本山たる、あの【最果ての地】にしかないのだからな……! お前は、愛する国に還ることなど、永久にできぬのだ!!」
「――それがどうした」
カルディナの絶望の叫びを、アルヴィスは冷徹な声で切り捨てた。
「還れないなら、還れるようになるまで、お前たちの総本山ごと根こそぎ叩き潰すだけだ。俺の意地を、その程度の絶望で止められると思うな」
アルヴィスは槍を限界まで突き出した。
光と闇の螺旋が完全にカルディナの肉体を呑み込み、その存在を分子レベルで消滅させていく。
「ぎゃああああああああっ!! 聖なる、純白の、夜なき世界、が――!!」
断末魔の叫びと共に、教団の最高幹部カルディナは、ただの灰となって大地の底へと消え去った。
歪んでいた大地の聖域のマナが、一気に本来の、瑞々しい黄金色の輝きを取り戻していく。
「……ふぅ、…………はぁ……っ」
槍を引き抜き、アルヴィスはその場に深く膝を突いた。
最大火力の代償として、胸元の『純白の枷』が黒く煤けたように静まり返り、激しい疲労が彼の体を襲う。
「お疲れさん、アルヴ。……最高に格好良かったよ。やっぱりお前の独壇場になると、誰も手が付けられないね」
レンがいつの間にか隣にしゃがみ込み、ポンポンと手際よくアルヴィスの背中を叩きながら、親父の権能で彼の体力を優しく回復させていく。その顔には、いつもの飄々とした笑みの裏に、相棒への最大級の誇らしさが輝いていた。
「……フン。最果ての地、ですか。どうやら、私たちの冒険は、思ったよりも長く高くつきそうですね、レン」
アルヴィスはレンの手に支えられながらゆっくりと立ち上がり、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「いいじゃん、数千年の退屈しのぎだ。世界の最果てだろうが、奈落の底だろうが、俺がお前の背中をどこまでも護ってやるよ、アルヴ」
大地の聖域を完全解放し、次なる『最果ての総本山』への手がかりを掴んだ二人。
孤独だった薄暮の騎士の眼差しには、もう、迷いも絶望も一切残っていなかった。




