第二十六葉:黄金の黄昏、神の仔の横顔
大地の聖域を満たしていた白磁の光が完全に霧散し、あたりには本来の、夕日に照らされた本物の黄金色の静寂が戻っていた。
アルヴィスは精霊槍を空間へと収め、衣服の乱れを整えながら、ふと隣を歩くレンの横顔に視線を走らせた。
カルディナが最期に、血を吐きながら叫んだ狂気的な言葉――『神の仔よ』。
教団は、レンの正体を最初から把握していた。
世界のシステムを裏側から操作する管理者の血。
それが敵に知られているということは、彼らの『計画』の中に、レンの存在すら最初から計算として組み込まれているのではないか。そんな嫌な予感が、アルヴィスの頭脳をかすめていた。
「……レン。貴方、カルディナの最期の言葉をどう受け止めましたか」
アルヴィスはフードを深く被り直し、油断のない声音で問いかけた。
「奴らは貴方を『神の仔』と呼んだ。私の【純白の枷】だけでなく、貴方の持つその『管理者の権能』すら、奴らの生贄にされている可能性を、私は危惧しているのですが」
一見すると冷静な統治者としての分析。
だがその本音は、「もし俺のせいでてめえまで教団の罠にハメられてるなら、絶対に許さねえ」という、アルヴィス本来の苛烈なまでの相棒への『意地』だった。
レンは両手を頭の後ろで組んだまま、街道の黄金の波を見つめて、ひどくあっけらかんと笑った。
「あはは、やっぱりそこに気づいちゃう? 本当、お前は笑顔の裏でいっつも怖い計算ばっかりしてるね、アルヴ」
レンは足を止めず、一定の歩調のまま夕闇の空を見上げる。
その横顔には、数千年の孤独を抱えて生きてきた者特有の、底知れない冷徹な光が宿っていた。
「まあ、薄々そんな気はしてたよ。親父がこの世界を去る時、管理者の権限の半分を、この世界のコアに直接埋め込んでいったからさ。教団の言う『主』とやらがそのコアを汚染してるなら、俺の血を引きずり出して、世界のシステムそのものを完全初期化する鍵にしようとしてるんだろうね」
レンはさらりと、自身の命すら世界の崩壊のパーツにされている可能性を口にした。
普通なら絶望し、立ち止まるような真実。
だがレンはふっと、いつもの飄々とした、しかし最高に不敵な「裏の顔」の笑みをアルヴィスへ向けた。
「でもさ、お前が『総本山ごと根こそぎ叩き潰す』って言ったんだろ? だったら俺のやる事は一つだけ。あいつらが俺の血を鍵にしてシステムを起動した瞬間に、お前と二人で、その総本山ごと物理的にバグらせて、灰にしてやればいいだけの話さ」
レンの言葉には、絶対の自信と、アルヴィスへの最大級の信頼が満ちていた。
アルヴィスは驚愕に目をみ張り、それから、フードの奥でフッと、最高に愛おしげな弧をその唇に描いた。
「……フン、本当に傲慢で、話が早い男だな、お前は」
「お互い様だろ? 腹黒同士、世界の最果てまで付き合ってあげるよ、アルヴ。――次は『最果ての地』へ続く、深い霧の渓谷だ」
夕暮れの黄金の野を抜け、二人の影は、世界の理をハメ返すための次なる過酷な旅路へと、確かな足取りで進み出していった。




