第二十四葉:神の逆鱗(ノイズ)、白磁の解体
「莫迦な……ッ! 我が教団の絶対防衛陣地が、なぜ敵である貴様らを護る檻へと反転しているのだ……!」
枢機卿カルディナの悲鳴が、白磁に変色した巨岩群に響き渡る。
教団が数年をかけて構築した不落のシステムは、レンの指先から迸る青い光の管理者権限によって、完全に彼らのコントロールを離れていた。それどころか、肥大化した白磁のゴーレムたちの足元を、強固な大地の鎖となって物理的に縛り上げ、その動きを完全に封殺している。
「悪いね枢機卿。だから言っただろ、作戦盤の見通しが甘いって。お前らがアルヴのマナを『鍵』にした時点で、その隣にいる俺がシステムを内側からハッキングして、権限を全部奪い取るなんて基本中の基本なんだわ」
レンは刀を肩に担ぎ、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
だが、その瞳の奥にある「裏の顔」は、教団の術式の流れを網羅し、一ミリの隙もなく戦盤を支配している。
「さあ、お立ち台だぜ、アルヴ。お前を『苗床』なんて舐めた名前で呼んだお偉いさんに、薄暮の騎士の本当の格ってやつを見せてやりなよ」
「――ええ。言われずとも、そのつもりです」
アルヴィスは不敵に口元を歪め応じた。
フードの奥でらんらんと輝く金と黒の双眸。
彼は一歩前へ踏み出すと、愛用の精霊槍を美しく、そして冷酷に一閃させた。
無詠唱。術式の構築も、マナの予備動作すら存在しない。
彼がただ鋭く一瞥しただけで、動きを止められていた数体の巨大な白磁のゴーレムたちの関節部分に、超高密度の『光の断頭刃』と『闇の蝕刃』が同時に空間から直接顕現した。
光の刃が強固な装甲を焼き切り、闇の刃がその内部の駆動核を瞬時に腐食させる。光と闇の同時多発的な融和攻撃。
ズガァァァン!! と地響きを立てて、大地の巨神さながらのゴーレムたちが、カルディナの目の前で、何の手出しもできぬまま一瞬でバラバラに「解体」され、ただの白い石ころへと成り果てて床へと転がった。
「な、ん……だと……!? 詠唱もなく、我が最高傑作のゴーレムたちを、文字通り一瞬で……!?」
カルディナの顔から、完全に血の気が引き失せる。
絶対の罠で嵌めたはずの「薄暮の苗床」は、苗床などという生易しい存在ではなかった。
レンという規格外の相棒と組んだ彼は、世界のどんな理すら力技でねじ伏せる、教団にとって最悪の『破壊神』そのものだったのだ。
「次は貴方の番ですよ、枢機卿カルディナ」
バラバラになった石屑の煙を割って、アルヴィスが静かに進み出る。
白銀の甲冑の右半分から立ち上る漆黒の闇のマナが、まるで死神の羽衣のように不気味に揺らめいていた。
「お前たちの描いた純白の筋書きは、ここで完全に行き止まりだ。――己の浅はかさを呪いながら、ここで根こそぎ灰になりなさい」
アルヴィスの精霊槍の穂先から、すべてを拒絶する薄暮の螺旋が、カルディナの喉元へ向けて真っ直ぐに収束し始めた。




