第十一葉:暗がりの咆哮、融和する初戦
集積所の内部は、異様な光景だった。
広い吹き抜けの広場には、無数のガラス製の檻が並び、その中には色とりどりの精霊たちが、輝きを失った状態で閉じ込められていた。
檻からは白い光の管が伸び、精霊たちのマナを中央の巨大な魔導具へと容赦なく吸い上げている。
「光のマナだけを抽出し、それ以外を『不純物』として廃棄しているのか……。なんて残酷な真似を」
アルヴィスは、激しい怒りに歯噛みした。
そこへ、暗がりから白銀の法衣を纏った教団の司祭と、十数人の重装騎士が姿を現す。
「何奴だ! 侵入者か……。いや、その金と黒の双眸、まさか『翡翠の揺籠』の最上位精霊か! 捕らえろ! あれは最高の実験体だ!」
司祭の叫びと共に、白銀の騎士たちが一斉に抜剣し、殺到してくる。
「アルヴ、作戦通り『根こそぎ』いくよ?」
レンは刀の柄に手をかけたまま、不敵にニヤリと笑った。
「ええ。――敵に、呪文を紡ぐ暇など与えません」
アルヴィスがそう呟いた瞬間、彼の無詠唱魔術が炸裂した。
呪文の詠唱どころか、予備動作すら一切ない。アルヴィスがただ鋭く視線を走らせるだけで、突進してきた重装騎士たちの足元の影が『闇の棘』と化し、その甲冑を容赦なく貫いて床へと縫い止めた。
「ぐあああっ! なんだこの速度は! 詠唱がない……っ!?」
「驚くのは早いですよ」
間髪入れず、アルヴィスは精霊槍を美しく旋回させ、中距離から光の弾丸を無数に放つ。
完全に動きを止められた騎士たちは、防戦一方のまま次々と叩き伏せられていった。
だが、後方に控えていた司祭が、冷や汗を流しながらも巨大な魔導具の起動レバーに手をかける。
「おのれ異端が……! この集積所の全マナを暴走させ、町ごと消し去ってくれる!」
魔導具が不気味に発光し、臨界点を超えたマナの光が広場を埋め尽くそうとした。アルヴィスの位置からは、魔導具の破壊が間に合わない。
「――レン!!」
アルヴィスが叫ぶ。
「任された!」
その声は、すでに司祭の真後ろから響いていた。
レンはいつの間にか、教団が張り巡らせていた最高強度の防御結界を『すり抜けて』背後に立っていたのだ。創造神の権能による、空間システムの書き換え。
レンの刀が、抜き打ちの一閃で魔導具の動力核を真っ二つに両断した。
「なっ!?、莫迦な……我が結界を、一瞬で……!?」
「悪いね、お前らのシステム、セキュリティがガバガバなんだわ」
レンは刀を鞘に納める。
次の瞬間、臨界しかけていた光のマナが、まるで最初から何もなかったかのように霧散した。システム自体を『強制終了』させたのだ。
司祭は恐怖に目を剥いたまま、レンの放った手底の一撃で昏倒し、床へと崩れ落ちた。わずか数十秒の出来事。
敵の強力な初手を完璧に潰し、被害を皆無に抑え込んだ、文字通りの完全蹂躙であった。
「……見事な手際ですね。本当に隙がない」
槍を収めながら、アルヴィスは感嘆のため息を吐いた。
「お前こそ。あの無詠唱の闇の棘、タイミング完璧だった。おかげで俺も動きやすかったよ、アルヴ」
レンはいつもの飄々とした笑みに戻り、親指を立ててみせた。
お互いの「最適解」が最高の形で融和した、記念すべき初戦の勝利だった。




