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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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08

 夏の長期休暇中、何度かアルフォンスはノイ伯爵領を訪れて魔物討伐に勤しむ。それ以外は中央のミュラー伯爵邸に通い、ヴォルフと武芸の訓練。実家に一度ぐらい帰ったほうがいいのではないかと周りに心配されるほどであった。


「遅ェよ」


 あっという間に足を払われてアルフォンスは地面に転がる。そして危ないと思った瞬間に腕を捩じ上げられた。

 辺境の狂犬、グラナート・ミュラー小伯爵。辺境でよく見るヴォルフと同じ赤い髪であるのだが、瞳の色が彼と逆の真紅。それに見下されてアルフォンスは腕を一本持っていかれるのを覚悟した。


「やめ!つーか加減しろグラナート」

「加減したら俺の訓練になんねぇだろーが」


 学園を卒業後ミュラー伯爵家に婿入りし、現在妻と義父とミュラー商会を運営しているので忙しいのだが、たまにこうやってアルフォンスの体術の相手をするようになった。剣術はヴォルフの方が上なのだが、体術に関してはグラナートの方が圧倒的に強い。

 商談に武具を持ち込めないので、という理由で学園在学中に徹底的に鍛え上げたその技術はアルフォンスなどあっと言う間にねじ伏せられてしまう。

 なまらないようにヴォルフがたまに相手をしていたらしいのだが、その役割をアルフォンスが譲ってもらえた。

 けれどまだまだ届かない。その上自分の訓練だと言い張り、指導らしい指導はしないので徹底的に身体に叩き込む形となる。


「まぁ、反応速度は上がったんじゃねぇの。脚がちゃんと出てたしよ」

「かわされた」

「俺に当てようなんざ十年早ェよ」


 口端を歪めてグラナートが言い放つと、アルフォンスは漸く拘束された腕を解放されて立ち上がった。

 ヴォルフが心配そうな表情をするのはいつものことである。


「……そう言えば学園の武芸大会優勝した事あるってヴォルフさん言ってたけど」

「最高学年ん時だな。あんま出る気もなかったんだけどよ。喧嘩売られたから出た」

「決勝で相手ボコボコにした感じ?」

「決勝はヴォルフをボコボコにしたな」


 侍女の持って来た果実水を飲みながらグラナートはしれっと言い放ったが、逆にヴォルフは渋い顔をする。

 そもそも学園の創立祭に行われる武芸大会は、中央騎士団の青田買い要素が強いので辺境の人間は余り出ないのだ。学園卒業後に辺境に戻りそちらの魔物討伐部隊に入る事が多いためである。現在の第二騎士団副団長のように辺境出身で中央の騎士団に入るのは珍しい。


「速攻で俺の剣弾き飛ばして組み付かれて終わり。まぁ、怪我はなかったんだけどよ」

「手前ェが腕折ったら俺の世話誰がすんだよ」

「他にも!!いんだろ!!いくらでも!!」


 なんやかんやでグラナートはヴォルフ以外を余りそばに置こうとしないのだ。辺境本家の子息、今や国の流通を担うミュラー商会の婿。肩書でそばに寄ってくる人間も多いのだが結局彼は人を寄せ付けない。


「そういや今日戻ってくんのかあの女」


 思い出したようにグラナートが言うのはヒルダの事である。ヴォルフ曰く、アリーセがいなければ殺し合いになっていただろう仲。同族嫌悪。


「南国の砂蟲狩ってくるって言ってたけど」

「あぁ、コドクの依頼か」

「コドク?」


 不思議そうにアルフォンスが首を傾げると、ヴォルフは呆れたように口を開いた。


「お前ホント不敬だって言われっからな。南国の第五王子・サイイド殿下だよ」

「……知り合いなんだ」

「俺等と同い年で留学しててよ。二年位ェか?アリーセ様に正妃になってくれって求婚して、グラナートとヒルダにボコボコにされた」

「不敬」


 それは許されたのだろうかとさすがにアルフォンスも表情を変えたのだが、グラナートは悪びれもせずに言葉を放った。


「ちゃんと怪我は治して返してやった」

「いや!!お前の治癒魔法はある意味拷問だからな!!のたうち回ってたろ!!」


 以前魔力相性が悪いと酷い痛みを伴うという話をアルフォンスは聞いていたのだが、ヴォルフの言うのたうち回っていたのが他国の王族とは思わずさすがに唖然とする。


「その上アリーセ様には内緒にしろとか!!俺の苦労考えろ!!半日も王族行方不明なの隠すとか、マジで大変だったんだからな!!」

「……半日ボコボコにしてたんだ」

「死なねぇように治癒魔法かけながら痛めつけたからよ。ヒルダは死なねぇ程度に身体に電撃流してたけど。あれは内蔵痛むから治癒に時間かかって難儀したな」


 想像するだけで痛い。そんな事を考えたアルフォンスであるが、ヴォルフはその時の事を思い出したのか顔を覆った。


「……そんで、なんかわかんねぇけど、グラナートとヒルダを友達認定してすげー構ってくるんだよあの王子……」

「被虐趣味なの?」


 ヴォルフにわからないのに自分にわかるはずがない。そんな顔を思わずアルフォンスはしたのだが、グラナートは思い出したように第五王子の話をする。


「アイツな、毒やら暗殺やらの影響で身体ボロボロだったんだよ」

「……は?まじか」

「正妻の子どもしか王子は名乗れねぇけど、年上が優先的に王位継げる国でもねぇだろ。そのせいで性根が悪ィ兄弟から命狙われてたらしくてよ」


 例えばリーニエ王国であれば、優先順位は圧倒的に第一王子が高い。けれど南国であれば王が跡取りを決める時点で一定年齢以上の王子の中から優秀な者が選ばれる。その選出基準はその時の国の状況によるという曖昧なものなのだ。

 例えば国にどれぐらい貢献したか。外敵から国を守ったか。交易路を広げたか。その時に国に必要とされる能力を持つ者が王に選ばれるのだ。そして国王以外の御三家と呼ばれる名家の推薦も必要である。


「アイツは末っ子だったけどそれなりに優秀だったからな。邪魔だったんだろうよ。そんで、俺がボコボコにしたあと、電撃で傷んだ内臓も修復した」

「……毒で傷んでた部分も直したって事?」

「そーだな。手足の慢性的な痺れも治ったんだとよ。駄目になってた味覚も復活したとか言ってたな」

「まじか。俺そんな話聞いてねぇんだけど。ヒルダが内密に解毒魔具渡したって言ってたからその件で懐いたんだと思ってた。土下座して礼言ってたしよ」


 東雲国風の最大限の礼や詫びをいれる姿勢土下座。それを迷いなくやっていた第五王子の姿を思い出してヴォルフは一瞬遠い目をする。王族に取らせていい姿勢ではない。


「南国は交易先として悪くねぇし、結局執拗にアイツ暗殺したがってた兄弟は他の兄弟に消されて割とアイツと仲良いやつだけ残ったからな。使い道あっからヒルダも解毒魔具渡したんだろうよ。まぁ、半日耐久しきった根性は認めてる」


 アリーセの実家であるミュラー商会の利益になる、そんな理由で結局グラナートもヒルダも第五王子との交流は続けているのだろう。それを察したアルフォンスは納得できたのか小さく頷いた。ヒルダが優先することは今までの付き合いでよくわかっていた。


「気軽にあの女が国境越えて魔物狩りに行けんのも便利だと思ってんだろ」

「普通は手続き面倒だからなぁ」


 そしてノイ伯爵領が南側の国境沿いに位置しているのもあり、南国王族からの依頼と言う名目で砂漠地帯の魔物を狩りに行っているのだ。この国では見ない魔物も多数存在する。


「結局その第五王子はアリーセ様諦めて、別の奥さん娶ったの?」

「まだ正妻はいねぇな。王位継ぐ気がないってアピール的なトコもあるんだろうけどよ」


 返事をしたのはヴォルフ。ただ、南国王族の風習で後宮的なものは彼も持っているという。ただ、正妻と後宮の女は明確な格付けがあり、後宮の女が正妻に繰り上がることは絶対にないし、正妻以外から生まれた子どもは跡取りとはみなされない文化がある。


「そういやまた近い内にこっち来るっていってたな」

「まじかよ。ヒルダが今行ってんなら魔具の調整じゃねぇだろ」

「学園の視察だとよ」

「はぁ?」

「二番目の王子がうちみてぇな学園作りたいとか言い出したらしくてよ。代理視察っつてたな。手前ェも会うかもしんねぇから目ェつけられねぇようにしとけ」


 注意を促すようにグラナートがアルフォンスに言葉を放ったので、彼は驚いたように口を開く。


「一般生徒だけど俺」

「朱雀の加護持ちで、武芸達者ってだけで御庭番に欲しがるだろうよ」

「御庭番?」


 御庭番という言葉に馴染みがなく不思議そうな顔をアルフォンスがするとヴォルフが、あー、と短く声を上げた。


「ヒルダも御庭番にっていってたな殿下」

「どういう仕事?」

「護衛と花園の管理的なやつだな。まぁ、寵愛争いがヤベェ所だから、適当に手入れも必要って感じじゃねぇの。ヒルダは断ってたけどよ」

「後宮に魔物はいないしね」

「魔物はいねぇけど、魔窟らしーからな第五王子の花園は。管理に強いメンタルもフィジカルも求められるんだと」

「手前ェは鳥女と一緒で割と図太ェからな。適任だろうよ」

「魔物狩りできないなら行かないかな」


 小さく首を傾げてそう言い放ったアルフォンスを眺めてヴォルフは、そういうところな、と苦笑した。

 王族からの要請に対して断るという選択肢が出る時点で図太い。しかもノイ伯爵家と言う大きな後ろ盾があるヒルダや、辺境伯子息やミュラー商会という後ろ盾のあるグラナートならともかく、そんな後ろ盾もないのにアルフォンスは言い切ってしまう。それがやや危ういともヴォルフは感じる。

 出会ったころより多少マシになったがそれでもまだ自分の未来に対して希薄なのだ。断って不敬と斬られても気にしない。貴族的ではないし、恐らく貴族社会では完全に浮くだろう。

 グラナートも狂犬と呼ばれているが、政治的なバランスや商売のセンスは抜群であるし、アリーセの為になら折れる選択もする。それが今のところアルフォンスにはないのだ。


「坊主」

「何?」

「困ったことがありゃ俺かヒルダに相談しろよ」

「……今でも十分だけど」


 魔眼を抑える魔具も無償提供され、武芸の訓練を望めばヴォルフがつけてくれる。今のところこれ以上はないと言うようにアルフォンスが不思議そうに首をかしげれば、ヴォルフは彼の藍色の髪をガシガシと撫で回した。


「あんま甘やかすなよ」

「うっせーわ。お前の事ほど甘やかしてねぇよ」


 困惑するアルフォンスをよそに呆れたようにグラナートが言葉を放つと、ヴォルフは主である男にそっけなく返事をした。


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