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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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07

 その赤い羽根が俗に言う星神からの贈り物だとわかったのは魔物討伐の休憩時間。

 工房の人間が多いと聞いていたので気難しいタイプかと思っていたが、ヴォルフが一緒についてきたこともありアルフォンスは好意的に迎えられていた。

 そして休憩時間に魔術刻印の刻み方を教えて欲しいと言えば、我先にと指導したがるのでアルフォンスは面食らう。

 そこで朱雀の贈り物の話を聞いたのだ。土地神か星神のお守りがあれば比較的楽に刻めると言われた時に、その職人が赤い羽根を見せてくれた。


「……待て坊主。お前昨日まで加護なしだったろ」

「朝起きたら枕元にあった」

「まじかよ!!星神の加護ってそんな簡単に貰えんのか!!」


 ヴォルフは驚きながら声を上げたが、周りの人間は笑いながら朱雀に気に入られたんだろ、と言葉にする。比較的星神の中では加護を貰いやすいらしい。逆に気難しいのは黄龍や青龍の竜種。かなりきちんと祀らないと駄目だと言われれば、手を合わせただけで加護をくれた朱雀は気前がいいとアルフォンスは考える。


「東雲国は青龍の加護が強いらしいけどな」

「へぇ。そう言えば俺の魔具にノイ伯爵が星神素材使うって言ってたけど、星神って会えるの?」

「俺は自分んトコの土地神も会ったことねぇけどな」

「ちょっとまて。頭領が坊主の魔具作るのか?」

「そう。魔眼封じ作ってくれるって。ヒルダが作った眼鏡があるから困ってはないんだけど」


 驚いたように男が声を上げるとソワソワとしたようにアルフォンスの顔を眺める。


「その眼鏡は姫さんの魔具か?」

「映像記憶の魔眼封じ。見る?」


 そう言ってアルフォンスが眼鏡を外して渡すと、わっと人が集まって来た。


「流石直系だな……こんな細かく刻んでる……」

「レンズの強度もギリギリ攻めてるな……相変わらず頭おかしい……」

「それより、かなり刻印圧縮してるけど、これで機能するのか??」


 何を言っているのかわからない。そう思いながらアルフォンスが眉を寄せると心配そうにヴォルフが声をかけてくる。


「外して大丈夫なのか?」

「ちょっと位なら魔力制御で抑えられる」

「そうか。あんま無理すんなよ」


 虚空接続の魔眼持ちだと公にすれば、それを利用しようとする人間も出てくるし、酷使すればあっという間に廃人になる。だから表向きは映像記憶の魔眼のままで、そう決めたのは昨日の夕食時。

 未来視など便利そうに見えるが、負荷が一番高いのでヘタをすれば一発でジャンクである。


「頭領はどんな形の魔具作るって?」

「ピアスって言ってたけど」

「まじか!!相変わらず狂人じみた作業平気でするなあの人!!俺が百年かかっても無理だ!!」

「やっぱ難しいんだ」

「小さいからな。ぶっちゃけ大きい魔具ってのは作るのそんな難しくない。小型化のほうが魔術刻印刻むスペースがないから難しいんだよ」


 やはりスペースの問題なのかとアルフォンスは納得する。そもそも映像記憶の魔眼封じの魔術刻印をピアスに刻むだけでも狂人じみていると言い放たれているのだ。一◯五九字と言ったら倒れるのではないかとぼんやりとアルフォンスは考える。


「その上星神の素材だろ?あれはそもそも帯びてる魔力強すぎて、刻印刻みにくいんだよ。うちの工房でも親方位じゃねぇかな」

「あー、うちは白虎の牙はいけたけど、爪はだめだったな。羽根の補助ありゃギリいけるけど」

「だよなー。星神や土地神の素材に刻印できたら工房持てるわ!!」


 ゲラゲラと笑いながら一同素材談義をするのだが、アルフォンスの感覚としては、神様を素材扱いしていいのかと少々反応に困る。

 ちらりとヴォルフに視線を送ると、彼はそんなアルフォンスの反応に気がついたのか少しだけ口角を上げた。


「牙とか爪とか角とかは神様からの贈り物だから良いんだよ」

「あ、そんな感じなんだ」

「生え変わる時にくれるとか言われてっからな。でもそうなると辺境の赤狼は毎日牙やら爪が生え変わってる事になっけど」


 子どもが七つの時に貰う贈り物。人口がどれくらいなのか正確なところをアルフォンスは知らないのだが、赤狼は辺境伯だけではなくその家門が祀っているので子どもの数はやはり多いのだろう。


「まぁ坊主は朱雀の加護もあるし、練習すりゃ赤狼よか上手く刻める様になんだろ」


 アルフォンスに眼鏡を返しながら男が言うと、彼は首を傾げた。


「ここでも赤狼って呼ばれてるんだ」

「ヒルダがそう呼ぶからよ。グラナートなんて狂犬呼ばわりだぞ」

「……怒らないんだ」

「狂犬なの自覚してっからなアイツ」

「そういや狂犬は魔術刻印刻むの上手かったな」


 男の言葉にヴォルフは思わず顔を顰めた。同じ様に練習をしたというのにグラナートの方が上達が早かったのだ。


「アイツ性格的にはゴリゴリの武闘派だけどよ、体質的には魔術師よりなんだよ」

「そうなんだ。俺は会ったことないけど」

「そうだっけか。今度会わすわ」

「魔術使えるの?」

「……アイツの魔術特殊でよ。自己治癒っつーのか?常に身体巡ってる魔力が治癒魔法かけてっから怪我も病気も毒も直ぐに治る。いや、痛いし苦しいんだけどよ、死ぬ心配はあんまねぇんだわ。あとは氷魔法も使えっけどこっちはコップ一杯分が精一杯だな」

「……そんな治癒魔法はよそで聞いたことないね」

「おう。治癒能力者に一応分類されるんだけどよ、外部出力できねぇから神殿登録もしてなくてよ。そんでも、魔術刻印刻む練習したら条件付きで他の人間も治癒できるようになった。ただし、魔力相性悪いとめちゃくちゃ痛い」

「どっちが?」

「治される方。俺はあんま痛くなかったんだけどよ、昔アイツが無理矢理治癒かけた相手はのたうち回ってた」

「えぇ??使いにくいね」

「そーだな。だから結局神殿登録なしでよ」


 要するに神殿としては治癒能力者は確保したいが、尖りすぎていて登録したところで使い道がないと思われたのだろう。基本治癒能力者は希少なので、他国への拉致などを防ぐために平民貴族関係なく神殿に登録して後ろ盾になる事が多いのだ。けれど辺境伯令息なら後ろ盾として不足はなかったのだろう。


「俺も魔眼は自分の内側に向く魔力だから似てるかな」

「そーだな。まぁ出力のコツさえつかめば上手く刻める様になっかもな」

「お、坊主うちの工房来るか?」

「弟子になるならヒルダがいい」

「あー。頭領のトコはなぁー、天才肌多いから指導に向いてねぇぞ」

「そーそー。完全に感覚で魔具つくってっから」


 それは残念だ、そんな事を考えながらアルフォンスは口を開いた。


「でも魔物討伐はここの人に教えてもらうつもり」

「おう!任せろ!!今まで討伐やったことねぇんだっけか」

「実践は今日が初めて」

「そんじゃ初獲物は解体もして素材剥ぐか」

「そっちも教えてくれるんだ」

「いいぞー。そもそも俺等それが目的だしな!初めて自分で仕留めて剥ぎ取った素材は家族とか師匠に渡す事多いからな。弟子になりたきゃ姫さんにプレゼントしろ!!」

「そうする」


 弟子にしてくれるかどうかは分からないが、どうせなら役立てて欲しい。そう思ったアルフォンスが素直に頷くと、一同笑いながら、任せとけ!と人懐っこい笑顔を浮かべた。

***


 三泊四日の討伐を終えてノイ伯爵家の屋敷に戻ったアルフォンスはヒルダのこもる工房へ向かう。


「あら。戻ったの」

「うん」


 そもそもヒルダがノイ伯爵領に戻ったのは、父親から古龍の卵素材を譲ってもらう為で、それを使って彼女は工房で新しい魔眼封じのレンズを作っていた。ただ、それとは別に虚空接続封じの魔具の試作もここ数日行っている。


「どうだった?初めてでしょ?魔物討伐」


 アルフォンスの故郷はあまり魔物の出る土地ではなかったので、ヒルダのいう通り初めての魔物討伐となった。

 一匹も一人で狩れなかったと言っても恥じることはないのだが、アルフォンスは元々武芸方面の才能があったのと、ヴォルフがうまくフォローをしてくれたのもあり無事に一人で魔物討伐を果たした。


「お土産」

「一角うさぎの角?あ、すごい!!根本ちゃんとある!!」

「途中で折れると使い勝手が悪いって聞いたから解体のしかた教えてもらった」

「教えて貰っても中々できないのよ!貴方器用ね!!お土産って事はくれるの?」

「そう。魔具の素材に使って」

「せっかくの初戦利品なのに私に渡していいの?」

「ヒルダに貰って欲しい」

「そう?じゃぁ遠慮なく」


 一角うさぎ自体は余り強い個体ではないので、集めようと思えば簡単に集められる素材であるのだが、アルフォンスが初めて獲得したものである。ヒルダが嬉しそうに笑えば、彼も口元を緩めた。


「また来ていい?」

「討伐部隊の人はなんて?」

「また来いって」

「じゃぁ好きになさい」


 気の良い職人が多かったし、魔物の解体や魔術刻印を刻むことを嫌がらなければ、皆よってたかって構ってきた。アルフォンスとしては余りなれない環境ではあったのだが、ヴォルフがうまく間に入ってくれたし、人との対話が余り得意ではないアルフォンスに対して、彼らは気を悪くすることもなかったのだ。そもそも彼らも好き勝手魔物を狩って好き勝手魔具を作る気質である。多少の対人スキルの低さなど気にならないのだろう。

 騎士団に入ったほうが良いとヴォルフには言われたのだが、もしも技術的にこの魔物討伐部隊で足を引っ張らないようになれれば、こちらにという気持ちがアルフォンスに芽生えた。


「……お父様が虚空接続封じの魔具完成させたわ」

「早いんだ」

「そうね。天才だからあの人。でも本当にいいの?お父様なら完璧に虚空接続封じられるわよ?」


 心配そうな表情でヒルダがアルフォンスにそう言い放ったのは、過去視・未来視に関してのみの虚空接続を封じる魔具をフレムデ・ノイ伯爵に彼が頼んだからだ。ピアスの左右に一つずつ接続封じの魔術刻印を刻む。寧ろ一つのピアスに刻む刻印は減るので制作者側としては楽になるから構わないとフレムデはあっさり了承したのだが、アルフォンスの身体を考えれば虚空接続自体を全て封じる魔具の方が安全なのだ。


「映像記憶封じはヒルダが作ってくれるんじゃないの?」

「作るつもりだけど……何年かかるかわからないわ。それにピアスに落とし込むってなったら更に時間もかかる」


 今は擬似的に視覚情報を圧縮して検索不良を起こしている魔具なので、言ってしまえば魔術刻印自体を完全に組み直さねばならない。それ自体はフレムデが基本的な部分は組み上げているのでゼロから組み上げるよりは時間はかからないのだが、それでも刻印を更に改良して圧縮するか、ピアスに刻めるまで技術を上げるかととにかく時間がかかるのだ。


「……映像記憶もうまく使えばそれなりに便利だし」


 一番負荷が軽く、アルフォンスの体質的に非常に相性がいいというのは、加護無しでここまで生き延びた事を考えれば明白だとフレムデは言い放ち、その能力を残すことに反対はしなかった。実際ヒルダの作った現在の魔具でも一応制御はできているのだ。

 ただ、技術者としてベターではなくベストを目指したいというヒルダとしては、虚空接続自体をどうにか遮断したいと高みを目指している。ただ、それにアルフォンスを付き合わせるのは彼への負荷を心配して躊躇っているのだろう。

 天才フレムデならば、完全に虚空接続を封じて普通の人間としてアルフォンスに真っ当な人生を歩ませることができるのだ。


「でも……」

「ヒルダが作るって言った」

「言ったけど」

「待ってる」

「え?」

「ちゃんと生き延びて待ってる。その間暇だし、ヴォルフさんに武芸仕込んでもらって、魔物素材集めてヒルダの手伝いもする」


 驚いたようにヒルダは瞳を瞬かせアルフォンスの顔を眺めた。


「せっかく俺が将来の事考えたんだから、ヒルダも協力して?助けたんだから最後まで面倒見てよ」

「……もう。仕方ない子ね」


 小さくため息をついたヒルダは作業机においてあった眼鏡を彼に渡す。


「古龍の卵で作り直したの。もういらないかなとも思ったんだけど」

「今のとどう違うの?」

「レンズを通さなくても大丈夫的な?眼球とレンズの間の空間にも作用してるから。そもそも古龍の卵って言うのは、幼竜を外界から守るために……」


 だんだん早口になっていくヒルダを眺め、いつもの調子に戻ったとアルフォンスは安心してその新しい魔具を早速身につけてみる。


「……うん。なんか不思議な感じ」

「私としては貴方は映像記憶なくても大丈夫だと思うんだけど」

「そう?」

「多分ね、長い間映像記憶を使ってきたから、貴方の身体は覚えること自体は慣れもあって得意なんじゃないかと思うわ。メニュー表もドリンクは全部覚えてるって言ってたでしょ?」


 一番最初の眼鏡を貰った時かとぼんやりアルフォンスは思い出す。


「言われてみれば、授業もあんま困らないかな。覚えようと思えばそれなりに覚えられる」

「そうよね。成績下がったとも聞かないし。だったらやっぱりお父様に……」

「ピアスが無理なら、とりあえず腕輪とか、指輪とかだんだん小さくしていったら?」

「は?」

「討伐隊の人が、最終的には魔術刻印を刻む面積の問題だって言ってたから。だんだん小さくしていく感じ。ノイ伯爵がピアスに魔眼封じ刻むって言ったらドン引きしてたし」

「……まぁ、そうよね。いきなりはさすがに厳しいのは自覚してるわ」

「別に一番最初は眼鏡でもいいし。でも大きい装飾品になると素材面が難しい?」

「最低核になる魔術刻印だけ星神の素材に刻めばほかは別素材でも……多少刻印増えるけど連結で……そうなると……相性の良い……」


 ぶつぶつと考え込んで自分の世界に入りだしたヒルダを眺め、アルフォンスは満足そうに笑った。


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