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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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6/21

06

「何その眼!!古びたお守り一つで、土地神の加護も星神の加護もないのによく生きてたね!!君が死んだらその眼ぼくに頂戴!!」

「え?嫌ですけど」


 夏の長期休暇にノイ伯爵領を訪れたアルフォンスは、ノイ家本邸でいきなりぶつけられた言葉に短く返答をした。

 古びたお守り云々は意味が分からなかったのだが、年齢や容姿を見るにヒルダの血縁者なのはわかったし、発言もややヒルダに似ている。そんな事を考えていると隣にいたヒルダが怒ったように口を開いた。


「お父様!!急に何いってるの!!」

虚空(こくう)接続の魔眼持ちとかどこで見つけてきたの?南国の霊廟?」

「……俺の魔眼は映像記憶ですけど」


 奇人と名高いノイ伯爵だったのかと気がつけば発言の奇抜さにも納得できるのだが、まさか本気で眼を欲しがっているとは思わず、隣に立っているヴォルフも顔を顰めた。


「あ、映像記憶が一番出てるんだ。だから眼鏡で抑えてるんだね。でもそれなら使う素材古龍の卵の方が良くない?」

「お父様が十年前に狩ってから出てないの!!わざわざ北山まで探しに行ったのに、欠片も残ってなかった!!」

「そりゃ全部ぼくが持って帰ったし」


 しれっと言い放つフレムデ・ノイ伯爵の発言にヒルダが恨めしそうな視線を送る。言い合いになっているが、気軽に発言ができるということは仲は良好なのだろうことはアルフォンスにでもわかった。


「一番出てるってどういう意味だ。坊主の魔眼他にも能力あんのか?」


 自分が聞きたかったが親子会話に口をはさみにくかったアルフォンスの代わりにヴォルフが言葉を放てば、フレムデは小さく首をかしげた。


「虚空ってわかる?」

「いや、わかんねぇ」

「ありとあらゆるものがあって、ありとあらゆるものがない場所なんだけどね」

「矛盾してんだろ」

「概念的な?まぁ、そこに接続する眼なんだよねそれ」


 アルフォンスやヴォルフもだが、ヒルダも首を傾げているので余り一般的な概念ではないのだろう。


「うーん。わかりやすく言えば、君の魔眼は過去・現在・未来にフルアクセスできる。できるけどそんな事したら脳がパンクする。容量が足りない」


 そう言うとフレムデはポケットからメモ帳を取り出してそれに何かを書きつける。そしてそれを破って折りたたむとアルフォンスの胸ポケットに詰め込んで彼の眼鏡を外した。


「いい?今から一分後。場所はリーニエ王国ノイ伯爵領。書いたのはフレムデ・ノイ。インクは濃紺。天候は晴れ」


 更に延々と言葉が続くことに困惑したアルフォンスであるが、四十秒ほど経った頃にトントンと胸ポケットをフレムデに指で突かれる。


「このメモに何が書いてある?」

「……君に星神さまの加護がありますように」


 脳にちらついた映像は広げられたメモ。そしてその文字を口にした途端アルフォンスは久しぶりに酷い頭痛と吐き気に襲われ思わず膝をつく。

 それに驚いたヒルダが手を差し伸べようとしたが、フレムデはそれを制してアルフォンスのポケットからメモを引き抜いた。


「それが未来視」


 そして広げられたメモにはアルフォンスの口にした言葉が書かれており、アルフォンス本人だけではなく、ヒルダやヴォルフも言葉を失った。


「情報を山ほど入れて、ごく近い未来視でもその負荷だからね。使い続けたらあっという間に廃人。そんじゃこのメモ帳五ページ目は今朝ぼくが書いたんだけどね……」


 そうしてフレムデの放つ言葉は恐らくフレムデがそのメモを書いた時の部屋の様子や気候。

 途中でアルフォンスの焦点が合わなくなって来たことに気がついたヒルダが慌てたようにフレムデからアルフォンスの眼鏡を取り上げようとしたが、長身の彼はひょいと片手を上げて眼鏡を高く掲げる。


「お父様!!」

「はい。何が書かれてる?」


 悲鳴にも似たヒルダの声に意識を引き戻されたアルフォンスはうずくまったままフレムデを見上げてその濃紺の瞳を細めた。


「……虚空接続封じの魔術刻印。文字数は一◯五九。素材は星神。朱雀・黄龍・白虎が無難」

「それが過去視。未来視より負荷はマシかな?」

「はい」

「大丈夫?」


 ぴょこぴょこと飛び跳ねてアルフォンスの眼鏡をなんとか取り返したヒルダは心配そうに彼に眼鏡を手渡す。するとアルフォンスはそれをかけたあと立ち上がってフレムデに視線を送った。


「……結局どういう事だ」


 ヴォルフの言葉にフレムデは瞳を細める。


「彼は見たものを脳に焼き付けてるんじゃなくて、己の得た情報を元に虚空からセカイの記録を引っ張ってきて脳に焼き付けてるんだよ」


 例えるならば図書館。本の情報やジャンル、図書館そのものの収納方法。情報があればあるほど目当ての物を探すのは楽になるし、本当に欲しいものが絞り込める。

 アルフォンスはといえば見たものを覚えているのではなく、視覚情報を含めた五感を使って虚空を検索し、セカイの記録を脳に落とし込んで焼き付けている。

 そういう意味ではヒルダが魔具で視覚から得られる情報を極限まで圧縮しているので、情報不足による検索不備を擬似的に起こしている状態なのだとフレムデは説明した。


「ベターだけどベストではないかな。彼の映像記憶はあくまで虚空接続能力の副産物だからねぇ。過去視も未来視もやろうと思えばできちゃうし」


 ぐっとヒルダが唇を噛み締めたのに気が付きアルフォンスは思わず驚いたような表情をする。悔しそうな、そしてどこか申し訳無さそうな表情を見る機会が今までなかったのだ。恐らく自分が魔眼の本質をきちんと理解できていなかった事を恥じているのだろう。


「……それでもヒルダの魔具のお陰で負荷は減ってます」

「うん。視覚情報ってのは一番検索に有利だからねぇ。過去視も例えばぼくがメモを書いた部屋に君が直接行けばきっともっと負荷は少なくてすんだ」


 ニコニコと笑いながら言葉を放つフレムデにヒルダは真剣な表情で言葉を放った。


「私はお父様に映像記憶の魔眼だって伝えたけど、虚空接続封じの魔術刻印を準備してたのよね」

「そうだね。未来視、過去視、映像記憶は単体魔眼が多いけど、中にはいるからねぇ虚空接続者。まぁ、いてもあっという間に廃人になる事が多いから念の為にレベルで準備してた」

「……お父様。この子に魔具作ってあげて」

「ヒルダがくれた魔具で十分だけど。もともとあんまり長生きする気も無かったし」

「貴方には長生きしてもらうわ。そうね、私が貴方用の虚空接続封じを作るまで」

「……は?」

「一◯五九字!?やってやろうじゃないの!!絶対作る!!作ってみせる!!」


 文字数を聞いてもアルフォンスはその難易度が明確にわからなかったが、以前ヴォルフが飛竜の鱗に一文字しか刻めないと言っていたし、ヒルダは百倍以上刻めるとも言っていたので桁が違っているのは理解できた。


「お父様は魔具の形何にするつもりだったの?眼鏡?」

「え?ピアスだけど。騎士志望だって聞いてたから邪魔じゃないように」

「はぁぁぁぁぁぁ!?ピアス!?」


 ヒルダが声を上げたのでアルフォンスは小さく首を傾げて口を開く。


「ピアス良いと思うけど」

「良いわよ!!最高に良いわよ!!それに一◯五九字刻めれば最高よね!!」


 やけっぱちのように声を上げてヒルダは頭を抱える。そう言われればあのメモにあった細かい刻印も紙にみっしり書いてあったとアルフォンスは思い浮かべた。要するにあれをピアスに刻むのだと言われれば、そんな事本当にできるのか?と思わずフレムデに視線を送った。


「とりあえずの魔術刻印だからねぇ。もう少し時間あれば圧縮はできると思うけど、四桁切れれば御の字かなぁ」

「あ、伯爵。一ついいか?」

「なに?赤狼君」


 フレムデも赤狼と呼んでいるのかといささかアルフォンスは驚いたが、手を上げて質問をするヴォルフに視線を送った。


「土地神も星神も加護がないのにって坊主に言ってたけど、加護があれば負荷は軽減できんのか?その……虚空?接続に対して」

「できるよ。できれば星神がいいかなぁ。星神は虚空接続できるから相性がいい。負荷を肩代わりしてくれる。土地神なら純粋に彼の耐性を上げてくれる感じかな。ぶっちゃけね、虚空接続できる土地神が星神なんだよね。元々は同格の神様だったけど、虚空から落ちてきた神様の力を分け与えられたのが星神みたいな?」

「え?そうなの?」


 びっくりしたようにヒルダが声を上げたので彼女も詳しい事は知らなかったのだろう。それに対してアルフォンスは至極真面目な表情で口を開いた。


「ソラでセカイを支えていた神竜の力が六つにわかれて、それを得たのが星神だって昔絵本で読んだ」

「そう、それそれ。その絵本まだ流通してるんだ」

「うちの書庫にはあったけど」


 アルフォンスの言葉にフレムデは少しだけ驚いたような表情を作る。ヒルダやヴォルフの反応を見るに、彼女たちは読んだことがないのだろう。

 アルフォンスがぼんやり思い返すのは異国の言葉で書かれた古びた本。

 現当主の曽祖父が古い知人に会いに行くと言う旅の魔女に貰ったとアルフォンスは聞いていた。長くランゲ家の書庫に眠っていた本であるのだが、子供の頃にアルフォンスがそれを繰り返し読んでいたのを知っている現当主が学園に行く為に領地を離れる彼に持たせてくれたのもあり、寮に今も置いてある。


──いつかコレを気に入ったアンタの子孫のお守り代わり位にはなるわ。


 そんな言葉と共にずっと書庫で眠っていたモノ。


 古びたお守り、とフレムデが言ったのはアレの事だろうか、しかしながらフレムデ・ノイが魔女の事を知っているはずがない、そんな事をアルフォンスが考えていると満面の笑みを浮かべてフレムデが口を開いた。

 

「……君……えっと、名前なんだっけ?」

「アルフォンス・ランゲです」

「アル君さ、朱雀の加護もらっとく?」


 いきなりアル君呼びされていささか驚いたような表情をアルフォンスはしたが、すぐに困惑したような表情を作る。


「朱雀って星神ですよね。そんなに簡単に加護貰えるんですか?」

「神殿の神様も祀ってなさそうだしくれるんじゃないかな」


 極端な話土地神ならば追加で星神の加護を新たに得る事もできる。ただ、神殿に祀られている神の加護を持っている場合は難しい。そんな話をフレムデがすると、ヴォルフは瞳を丸くした。


「神殿の神様は駄目なのか」

「駄目。星神と仲悪い。土地神は話せばわかってくれるけど、あそこの神は話通じない」

「そもそもうちの一族が嫌いよね神殿って」


 心底嫌そうにフレムデとヒルダが言ったので思わずヴォルフは呆れた様な表情を作った。元々魔具を毛嫌いしていたのは神殿なのだが、どうやらノイ一族も嫌っているらしい。本来は領地に一つはある神殿の端末である教会すらノイ伯爵領にはないのだ。


「朱雀ってノイ一族の星神なの?」

「そうよ。うちの家紋も朱雀だし。割と土地神とか星神の模様入れてる家多いわよね。うちの場合は魔具にも入れてるわ」


 そう言われたアルフォンスは己の眼鏡を外して視線を落とす。フレームの耳の辺りに描いている絵。


「……ひよこだと思ってた」

「朱雀よ!!朱雀!!」


 正規流通している魔具にはノイ伯爵家の家紋と工房、及び製造番号などがかかれているのだが、アルフォンスの魔具の様に個人的にノイ一族の作った魔具にはそれぞれ個人のデザインした朱雀をモチーフにした絵が描かれている事が多い。


「悪ぃ。俺もひよこだと思ってた」

「……なんてこと……」


 ヴォルフにまでダメ出しをされたヒルダは頭を抱える。まさかひよこだと思われていたとは想像がつかなかったのだろう。


「と、ともかく!!後で朱雀にお祈りでもしときましょ。加護くれるかもしれないし」


 話を逸らすようにヒルダが声を上げるとアルフォンスは小さく頷いた。

 そして案内されたのはノイ伯爵邸近くの広場。

 どんと置かれているのは石像であった。


「あ、これ朱雀だったんだ」

「そうよ!ノイ一族が祀ってる星神ね!辺境の赤狼なんかは完全に土地密着型の神様だけど、朱雀はうちの一族にくっついて来てくれてるの」

「へぇ」

「元傭兵集団だしなノイ一族。流浪の一族は割と土地じゃなくて一族密着型の神様祀ってる事多いし」


 ヒルダとヴォルフの説明を聞きながらアルフォンスは朱雀の像を眺める。実際土地神や星神を見たことなどないのだが、加護とやらがあったほうが良いと言うのならそうなのだろうとアルフォンスは手を合わせた。それと一緒にヒルダとヴォルフも手を合わせる。


「ヴォルフさんは朱雀拝んでもいいの?」

「土地神と星神は仲悪くないって伯爵言ってたしいいんじゃねぇの?っていうか、俺今までここの討伐隊と同行する時いっつもおっさんらと拝んでから行ってるし不都合はねぇだろ」


 実際何かしら問題が起こった事はないし、討伐の流れで朱雀を拝むのはいつものことである。そんな風にヴォルフが言ったのでアルフォンスはふぅん、と言ったように朱雀に視線を送った。




 そしてその夜アルフォンスは夢を見た。

 ヒルダは夕食後にフレムデと一緒に魔具工房に籠もってしまったのでヴォルフに少し明日の魔物討伐の注意事項をアルフォンスは聞いていたのだが、何より体調を万全にするのが大事だと言われて早めに就寝したのだ。

 余り夢など覚えていない性質なのだが、その日の夢ははっきりと覚えている。

 黄金色の瞳をした赤いひよこ。

 とてとてと枕元を歩いていると思ったら、ぴょいっとアルフォンスの額に飛び乗ってきたのだ。これは動いたら落ちてしまうのではないかと思いじっとしていると、そのひよこはまた、ぴょいっと小さな足を踏ん張ってアルフォンスの額から枕に飛び降りた。

 ふわふわとした羽が彼の頬をくすぐる。

 くしゃみがでそうだ。そんな事を考えているうちに目が覚めた。


「……羽根??」


 そして枕元には赤い羽根。少なくともあの小さなひよこのものとは思えない程立派なもので、羽ペンにでもすれば見栄えが良いだろう。そんな事を考えながらアルフォンスはその赤い羽根を手にとって首を傾げた。

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