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「はぁ!?だからあの魔具大急ぎで作ってたの!?珍しく手伝えって呼び出されたから何事かと思ってたんだけど」
「ヒルダも手伝ったんだ」
「まぁ、素材の研磨とかそんなのだけど……」
普段は一人で魔具を作成することの多い己の父親に何度か呼び出されたのを思い出してヒルダは思わず声をあげる。そして呆れたように王太子に視線を送った。
「この子の件をきっかけに先王派排除って魂胆な訳」
「否定はしない」
「結局サイ様の花園行きって事か。それなら会うことなさそうだからいいけど……輿入れ自体は他の貴族から異議は出ないの?」
政治的なことは余り興味がないが、花園への輿入れは慶事として扱われていたと思い、それでは罰だと思わない者もいるのではないかとアルフォンスは思ったのだ。彼個人としては二度と会わなければそれでいいのだが。
「王族として華々しく輿入れするのと、王籍剥奪の上側妃の実家令嬢として輿入れでは扱いが違う。持参金も王家は一部しか負担しない。残りはクレイと加害者の実家の負担だ。無論それは君への賠償とは別枠となるし、本来輿入れへの同行により支払われる筈だった彼ら実家への支度金もゼロ」
「政治的な駒を実質国外追放で失った上に、金策できついだろうよ」
王太子の言葉を補足するようにグラナートが付け足せば、成る程と言うようにアルフォンスは頷いた。恐らく傾く家も出てくるだろうと。
「数年前に先王派筆頭侯爵家が失脚してから発言力を弱めていたのだが、派閥が大きくてな。今回でかなりの家が傾く」
「まぁ、政治的な都合って訳だ。手前ェにはあんま関係ねぇけど、王妃殿下辺りが完全排除に動いたんだろうよ」
「へぇ。まぁ、その辺は任せるけど……」
ちらりとアルフォンスは隣に座るヒルダの表情を伺う。自分はいいが彼女は納得しているのかと心配だったのだ。己の事のように怒っていたのもあり、ヌルいと言い出すのではないかと思ったが、彼女は僅かに眉を寄せただけであった。
それに気がついたのか、グラナートが口元を歪めて言葉を放つ。
「纏めて花園にぶち込むで鳥女も納得しろ。コドクが嬉々として対応するだろうよ」
「嬉々として?」
不思議そうにアルフォンスが確認すると彼は笑い言葉を重ねた。
「そーだな。ホシの盟約があっからな。手加減なんぞねぇだろ」
「直接制裁したかった……」
項垂れるヒルダを眺めアルフォンスは僅かに驚いたような表情を作る。思ったよりあっさり彼女が引いたからだ。
「ならばせめて朱雀姫の希望を聞こう!!失意のうちにあっという間に終わるか、最低我が朋友が煩わせた年月細く長く削ってゆくか!!どちらがいい」
「細く長く削りなさい。アンタ得意でしょ?」
「うむ!!心得た」
突然会話に割り込んできたのは扉を勢いよく開けて部屋に入ってきたサイイド。アルフォンスは意味がわからないと言う顔をしたが、王太子は渋い顔をする。
「余り長くすると殿下にご負担は?」
「ないな!!」
ニコニコと笑いながらサイイドは遠慮なくソファーに座るとアルフォンスの顔を眺めて笑う。
「安心して私に任せるがいい。報告は必要か?」
「何の?」
そう言われサイイドは驚いたようにヒルダとグラナートの顔を見る。
「青狼に我が花園の話はしていないのか?」
「御庭番に勧誘したのに説明してなかったの!?」
「本人から聞けって言っておいた」
「うむ。そうか。では我が花園の役割を説明しよう!!」
一番初めは問題を起こした兄の花を引き取った事から始まった。
当時サイイドの花園が空であったので隔離の場所として扱われたのだ。それをきっかけに他の兄からも頼まれ、そうこうしているうちに問題のある令嬢ばかりが集まって来たという。
そうなれば起こるのは花園内の寵愛争い。
サイイド自体は花園に顔は出すが、閨を共にすることはせず、芸事をを楽しんでそれに褒美を与えていた。
元々問題を起こす者はプライドが高いのもあり、相手を蹴落とし、己の優位を確保する為に派閥を作り、毒婦達の食い合いが始まった。
閨などないというのに、あったかのように匂わせられれば相手も負けじと匂わす。褒美を競い合い、己が上だとマウント合戦。
「……とはいえ。まともな娘が同盟などの関係で送られてくる時もある。その場合は我が御庭番衆が査定後保護をして、然るべき後に兄上の花園に送るなり霊廟に送るなりする」
「あ、そのための御庭番衆なんだ」
「素行が良ければよし、悪ければ食い合い。国王陛下も王妃殿下も本人の素行次第ということで当時は納得してくれていた」
「私は確実に後者だと思っていたがな」
本人の素行さえ良ければそれなりに安泰と言われれば、妹を心配した国王等は王太子の説得に応じたのだろう。一方王太子は厄介な叔母を何としてでも中央から出したかったし、花園で食い合えばいいとさえ思っていた。
「まぁ、先王陛下は兄上の花園と同じだと思っていたようなのでそのままにしておいたが」
「先王陛下がごねてたからなぁ。まぁ、蠱毒の花園だって知ってたら承知しなかったろうし」
「蠱毒の花園?」
王太子の言葉をアルフォンスが聞き返すと彼は大きく頷き説明を始める。
それは東雲国の呪術。
毒虫を一箇所に集め食い合いをさせ、一匹残ったものを使って完成する呪い。
「……サイ様のコドクって孤独じゃなくて蠱毒だったんだ……」
「両方の意味をかけているな!!いまだ我が蠱毒の花園は成長中だ。呪いが完成した暁には旧き神をホシから消し……」
「いや、それはうちの神殿困るからやめて。え、そんなに神殿の神って星神の一族に嫌われてるの??」
本気で困ったような顔をする王太子に、サイイドとヒルダは口を揃えて言葉を放つ。
「向こうが嫌ってる」
「えぇ?」
「まぁ、旧き神は冗談として、朱雀姫の希望通り長く細く削ってゆく。うっかり早期退場しないよう御庭番衆にも上手く管理するよう伝えておこう」
うんうんと己の発言に頷きながらサイイドが言うと、ヒルダも任せる事にしたのだろう、不機嫌さを払拭してソファーに座り直した。
クレイやその取り巻きは蠱毒の花園で摩耗していく。細く長く、ゆっくりと削られるように。安寧の夜など彼女たちには来ないだろう。
「では罪人たちを受け入れる準備がある故、私は一旦国に帰る!!」
「わざわざ挨拶に来てくれたんだ。ありがとう、サイ様。薬師の人にもお礼言っておいて」
「うむ」
満足気に笑うサイイドを眺め、思い出したようにアルフォンスは言葉を続ける。
「サイ様に俺の結婚式の招待状送るのは失礼じゃない?」
「……そうか……やったか……我が朋友の慶事だ。喜んで受けよう……」
涙ぐんでサイイドはそう返事をしたのだが、王太子が慌てたように立ち上がった。
「君は婚約者がいたのか!?」
「ヒルダと結婚するんだけど」
「はぁ!?そうなのかヒルダ嬢」
「私がいいんですって。この子次男坊だからうちに婿入り……あ、貴方婿入りできるの?」
「する」
「ですって。あ、中継ぎ伯爵もやってくれる?」
「ヒルダが面倒だって言うなら中継ぎぐらいは引き受ける」
「あら嬉しい。でも中継ぎって相続や資産分与の事前書類面倒だったわよね……」
唖然とする王太子をよそに話を進める二人にグラナートが口を挟む。
「俺の作った雛形があっから使え。とりあえず婚約書類もコイツの両親が中央にいる間に整えろ」
グラナートも婿入りであった為にその手の書類は一式作ってあるのだろう。面倒くさそうな顔をヒルダはしたのだが、アルフォンスは素直に頷いた。
「後で全部整える。ヒルダは最終チェックだけして?」
「やだ!!私のお婿さん超有能!!可愛い!!」
「うむ、結婚式の日取りが決まったら直ぐに知らせて欲しい。必ず参加する!!」
「他国の王族呼ぶならそれなりの準備いんだろ。アリーセと相談しろ」
「話の展開早くないか!?いや、めでたい話ではあるのだが!!というか、私は無理でもせめて王太子妃は呼んでくれ!!」
慌てたように王太子が声をあげると、アルフォンスは首を傾げる。
「王太子妃殿下?俺は話したことないですけど」
「……いや、ヒルダ嬢の方が繋がりがあってだな……こう……王家とのわだかまりはないと言うようなアピールをしてくれればありがたいというか……いや、無理にとは言わないのだが……」
何故この人は王族だと言うのにこんなに腰を低く自分に頼んできているのだろうと思いながらアルフォンスはヒルダに、どう?と確認する。
「アリーセの友達だからたまに一緒にお茶するぐらいだけど……その程度の付き合いで呼んでも失礼じゃないの?忙しいんじゃないのあの子。よく愚痴ってるわよ」
ヒルダ自身はアリーセの友達と認識しているが、愚痴を零すぐらいなら恐らく王太子妃自体はヒルダを信頼も信用もしているのだろうと察したアルフォンスは王太子に視線を送る。
「喜ぶから絶対!!ミュラー小伯爵夫妻の結婚式に呼ばれたのも喜んでたから!!」
「そう?じゃぁ招待状は出すわね。無理はしないでね」
必死に食らいつく王太子を不思議そうに眺めながらヒルダは参加を了承する。己の父親の代はいいが、己の治世になった時にノイ伯爵家にそっぽを向かれるのは非常に困るのだ。少しでも良好な関係を築きたいと王太子が思うのはしかたないだろう。
「話まとまったならコドクも王太子も帰れ。俺もこいつらの婚約書類纏めなきゃなんねぇし」
「それもそうだな。おしかけて済まなかった。暫くは君の周りもバタバタするだろうが、君たちの婚約書類に関しては速やかに承認するよう伝えておこう」
王太子の言葉にアルフォンスはよろしくお願いしますと頭を下げた。
***
二人っきりになった室内。身体の調子も悪くないのでもう寝台にいる必要もないだろうと思ったアルフォンスはソファーに深く腰掛けてヒルダに視線を送る。
「ヒルダ」
「何?」
「後で指のサイズ測らせて」
琥珀色の瞳を瞬かせたヒルダは、小さく首を傾げた後に笑う。
「どうしたの急に」
「俺も指輪贈りたいんだけど」
「もうたくさん髪飾りやら貰ってるわよ?」
「うん。足りない」
「足りないの!?」
驚いたように瞳を見開くヒルダを眺めてアルフォンスは瞳を細めると、彼女の髪を一房すくい上げてくちづけを落とした。
「朱雀の一族の愛は重いって言うけど、伽藍洞を満たされた男も重いよ?七つ目の世界まで追いかける」
それはいつか七つ目の世界で待っていると言ったヒルダへの返事。
「せいぜい長生きしなさい。生きている間は私が貴方を幸せにしてあげるわ」
「死んだら?」
「ホシの海まで貴方の魂を探しに行ってあげる。また出会って貴方を私で満たすわ、伽藍洞の君」
ホシの海というのがどういうものかアルフォンスには理解できなかったが、探しに来てくれるのかと思うと嬉しくなる。
そして自分は何度でもヒルダに出逢えばきっと彼女を好きになる。
そんな事を考えてアルフォンスは嬉しそうに瞳を細めるとヒルダにそっとくちづけた。
おしまい。
以降番外編不定期更新予定。
確実にとはお約束できませんが、この人の番外編読みたいなどあれば、コメントかWEB拍手でどぞ。
(アリーセ・グラナート組の学園編に関してましては、寧ろそっちがこの話の本編なんで完成しましたら公開予定。予定は未定)




