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西の離宮を訪れた面々に先王は心底嫌そうな顔をする。己の娘のやらかしは深夜に齎されたのだが、所詮伯爵令息相手である。子飼いの貴族に命令してもみ消すつもりであった。その前に押しかけてきた息子夫婦に先王は言葉を放った。
「話は聞いている。伯爵令息とやらに賠償が必要なら好きなだけ握らせれば良い」
「……第一声がそれですか父上。本当に残念です」
眉を下げて国王は小さく首をふり、彼が合図を送ると部屋には追加で人が入ってきた。拘束された先王の娘。そして孫の王太子と南国の第五王子。
「お父様!!」
悲鳴のように声を上げた愛娘を見て先王は彼女の扱いに抗議をしようと思ったのだが、サイイドの名を騙ったという罪状を思い出して口を噤む。南国では王族の騙りは縛り首であるのを思い出したのだ。流石に花園への輿入れは白紙であっても、他国王族への不敬に関してはなんとかせねばと言葉を探した。
「ひさしぶり、センオーサマ」
「貴様……なぜ?」
そんな中脳天気な声が聞こえて思わず先王は顔を顰める。魔具という奇跡の力をこの国に齎し、己の治世の最後の、そして息子の治世の最初を輝かせるのに一役買った男、フレムデ・ノイ伯爵。
「ぼくが不思議だと思ってた事を解決する為かな?」
「……相変わらずイカれた男だ。コレを連れてきた理由は?」
魔具という奇跡は国としては利用しやすかったが、それを作った男は扱いにくいのを知っている先王はさっさと話の相手を息子である国王に切り替えた。
「親子鑑定をしていただきます」
「は?」
「センオーサマの子じゃなかったら王族じゃないし、後の処理変わってくるからねぇ」
「馬鹿なことを!!クレイは私と側妃の娘だ!!」
先王が怒り出すのは想定内であったのだろう、彼の隣にいた側妃と、拘束されている彼の娘以外は表情を変えない。
「それを証明していただきます。先日フレムデが東雲国の神鏡を元に作成したものです」
「……それは魔具か」
東雲国の神鏡が親子鑑定ができると言うのは先王も話に聞いていたし、南国にも神具として非公開であるが存在している。
「そんな事できるはずはありません!!クレイは私と陛下の子です!!」
「側妃殿はご存じないようですが、我が国にも神具として存在しますよ。我が国は正室や花園の女が不義の子を孕めば縛り首ですからね。王族に子ができると使用します」
もっとも、花園の女が孕んだ所で籍は実家となるし王位継承権は与えられないので、花園の娘たちは避妊薬を使用するか、胎を使えなくしてから花園に入ることが多い。それは彼女たち実家の判断なのだ。
側妃の抗議の声はサイイドの声によって鎮圧され、彼女の顔色が悪くなるのに気がついた先王は、まさか……と声を落とす。
「いえ!!いえ!!陛下との子です!!信じてください!!言いがかりです!!ノイ伯爵の陰謀です!!私を陥れようと!!」
「黙れ」
側妃の言葉を先王が冷ややかな声で遮った。
「わかった。親子鑑定を受けよう」
「陛下!!」
急に掌を返したように親子鑑定を受けると言い出した先王に王妃は皮肉げに口を開いた。
「さすが名君と名高い陛下。判断がお早いですね」
「……陰謀?陥れる?この男が?金にも地位にも名誉にも靡かず、魔具と言う奇跡を生み出す以外興味がない男がそんなつまらんことに時間をさかん。おい、フレムデ・ノイ。貴様はいつから娘の出生を疑問視していた」
この男は己の疑問を解決するためだけにここに来たのだと先王は察したのだ。
「お披露目の時だけど。センオーサマは娘いなかったから貰ってきたのかと思ってた。けど、ぼくの友達には関係ないのに迷惑かけてる意味がわからなかった」
「……本当に貴様は扱いにくい。大方王妃が証明できる魔具を作れと焚き付けたのだろう」
「疑惑はないに越したことはありませんから。ではお願いします先王陛下」
息子を王位にまで押し上げたのは王妃と奇人。ここまで堂々と乗り込んで来たのだから確証はあるのだろうと先王は己の娘……元娘に視線を送った。
「お前も協力するように」
「お父様!!」
アレだけ可愛いと思っていた娘が今は煩わしくなった先王は不快そうに眉を寄せるとフレムデの説明を聞く。
箱に手を置くだけ。親子ならば青、兄弟姉妹なら黄、それ以外なら赤の光を放つ。
「あ、センオーサマは双子の兄弟とかはいないよね?」
「おらんな。いたら殺している」
「なら大丈夫!!」
わかりきっていたが箱の光は赤。
「違います!!そんな筈ありません!!」
取り乱し泣き崩れる側妃と、呆然とする元王妹・クレイ。
「側妃を拘束しろ」
「陛下!!違います!!」
半狂乱になりながら縋り付く側妃に先王は冷ややかな言葉を送る。あれだけ寵愛していたというのに冷めるのは一瞬だなと王太子は呆れるのだが、余りにも甲高い声で喚くので猿轡でも指示しようかと考えていると、フレムデが顔を顰めて口を開いた。
「煩いなぁ。ぼくの魔具が信じられないなら胎調べてみれば」
「は?フレムデ……それはどういうことだ?」
驚いたように国王がフレムデに尋ねると、彼は心底面倒くさそうに言葉を放つ。
「そのソクヒサマの胎にセンオーサマ以外の人間の魔力の残滓がある。昨日だか今朝だかまぐわってたんじゃないの?医者だったら子種残ってるの確認できるでしょ?この国ってソクヒサマの不義密通に対する罰則あったよね。煩いからとりあえずそれで黙らせてよ」
「毒杯か、幽閉後病死かしらね。医師と立会人の手配を……」
「バケモノ!!お前が何もかも無茶苦茶にした!!」
素早く指示を出そうとする王妃の声を遮るように、側妃は声を上げてフレムデを罵る。そしてバケモノと呼ばれたフレムデは一瞬きょとんとした顔をしたが、直ぐに笑い出した。
「何もかも無茶苦茶にしたのは君でしょ?ぼくの友達もお嫁さんも、センオーサマだって君のせいで色々無茶苦茶にされたんだから。楽しかった?センオーサマ無能だって男と一緒に笑って」
「……フレムデ・ノイ」
「何?センオーサマ」
「相手の男はわかるか」
「そっか、そっちも罰さないと不公平だね」
そう言って笑ったフレムデが指さしたのは離宮の護衛騎士。先王のお気に入りであった男。
「センオーサマと仲良いみたいだから子供くれたのかと思ってた」
「捕らえろ」
今更抵抗する気も起きなかったのだろう、泣きわめく側妃とは逆に護衛騎士は素直に拘束される。そして呆然としていたクレイは震える声を上げた。
「うそ……お父様の子じゃないの?」
「そのようね」
冷ややかな王妃の言葉にクレイは涙を浮かべる。今まで己を守ってきたものが何もなくなった事に漸く気がついたのだろう。
絶望したのか、言葉もなくただ震える。
そんな元娘に視線を送ると、先王は口を開いた。
「この娘はどうするつもりだ」
もう一切庇う気はないのだろう。寧ろ己の汚点とすら思っているのが察せられる冷ややかな声色にクレイは震え上がり俯く。
「提案があります」
「言ってみろ」
そして国王が口にしたのは、不義の娘だと公表し、側妃と護衛騎士は即刻処刑。娘は今回の拉致監禁や違法薬物使用、他国の王族の騙り等で修道院行き。それに協力した面々に関してはそれぞれの罪状に合わせての処理という至極当たり前の形。
それに対して先王は妥当だと言わんばかりに頷いたが、国王は小さく笑う。
「ただ、この場合父上の汚点となります。托卵され、それに気が付かず寵愛した無能と」
「貴様……」
忌々しそうに先王が零したのもしかたないだろう。他の兄弟を出し抜いて王位につき国を安定させ、後継者争いはあったもののなんら瑕疵のない息子にその地位を譲って勇退した輝かしい彼の治世。
まさか彼も引退後にこんな汚点をつけられるとは思わなかっただろう。
「ですのでコレは取引です」
「何?」
托卵を伏せたまま、クレイは今回の騒動の罰として側妃の実家へ王籍剥奪の後に引き取らせ、そこから南国の花園へ輿入れ。
側妃と護衛騎士は療養のため中央から離れさせて後に表向きは病死という名の毒杯。
そしてクレイの協力者に関しては花園へ同行させ以降帰国を禁ずる実質クレイと共に国外追放。
無論被害者伯爵令息に対する賠償などは王家含め協力者実家が負担。
「……王家の汚点を隠すか」
「父上の汚点ですよ。ただしこの場合は貴方に完全に引退していただきます。僕はどちらでもいい」
「……」
無能、節穴の王と後に嘲笑されるか、ここで一切合切捨てて名君のまま終わるか。選べと国王は先王に突きつける。
「……サイイド殿下は花園へクレイを迎えることに異議はないのか?」
「王家の姫がいなくなる以上こちらとしては次に推挙されるのはこの国の貴族の娘でしょうし、貴族籍があるなら構いませんよ先王陛下。無論、交易部分で優遇措置は提案いただきましたので、タダでというわけではありませんが。それに、我が花園にはその手の娘もおります故、兄上も文句はつけません」
瑕疵のある娘も受け入れる事ができるとサイイドが言えば、先王は迷わず己の保身を選んだ。




