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案内された部屋を見渡し思わず王太子は驚いたような表情を作る。離宮に戻ったと聞いていたサイイド、そしてノイ伯爵が同席していたのだ。
「あの……ノイ伯爵も同席されるのですか?」
困惑したように王太子が言葉を放つと、国王と王妃は同時に頷く。ならば王太子として何も言うことはないと彼は椅子に座り言葉を待った。
「サイイド殿下から話は一通り聞いた。調書はまとまっているか?」
「こちらに」
王太子は国王に促されて調書を差し出した。概ね話は聞いていたのだろう、ざっと目を通すと国王は悲しげに眉を下げたのだが、逆に王妃は眉を吊り上げた。ピリピリとした空気の中、夜会で出されていたものと同じ茶菓子を遠慮なくつまんでいるノイ伯爵の姿が王太子には異様に映る。
そして小さくため息をついた国王は王妃に目配せをした。
「頭がよくないと思っていましたがこれほどですか」
「……学園まで遡ればまだ出てくるかと」
「でしょうね。そちらに関しては取り巻き含め後で処理します」
王妃のりんとした声に思わず王太子は背筋を伸ばす。処理、という言葉がずっしりとのしかかってくる。
「それじゃオージサマの話も終わったしいい?」
「ええ。この子にも説明して」
王妃の了承を得ると、指を布巾で拭きながら朗らかに声を上げたノイ伯爵を王太子が凝視する。
「これが新しい魔具。もう少し装飾に凝りたかったんだけど、オーヒサ……あ、オーヒデンカだっけ?ヘイカ?」
「公的な場所ではないから好きに呼びなさい」
「オーヒサマが直ぐに持って来いって言うから」
「母上が?」
そう呟き王太子はノイ伯爵が卓に乗せた四角い箱に視線を送る。滑らかな表面にいくつか印のような物がついている以外はこれと言って特徴がない箱。箱と呼ぶには蓋がないかと王太子がぼんやりと考えていると、満面の笑みを浮かべてノイ伯爵が口を開いた。
「親子鑑定魔具」
「はぁ!?」
パチパチと呑気に拍手をするサイイドとは逆に王太子は立ち上がらんばかりに驚き、まじまじと魔具を眺める。
「以前ぼくが作ったのは種なり母体の兄弟・姉妹が相手だと誤作動起こしちゃっててね。これは!!東雲国の神殿にいって向こうの神鏡現物見せてもらって改良した。一卵性双生児じゃない限りは大丈夫だし、同じ親同士なら兄弟鑑定もできる」
「先日東雲国にミュラー伯爵と渡っていたのは……」
「現物見せてもらうために向こうが喜ぶ出し物準備したりしたかいがあったよ!!南国の霊廟の方は王族以外触れないから海超えるはめになったけど」
「うむ。申し訳ないが、あれは神具扱いで形状なども王族以外には公開できなくてな」
申し訳なさそうにサイイドが眉を下げるがノイ伯爵は小さく首を降った。
「多分見ても難しかったと思うねぇ。白虎は過去を司る星神だから、親子鑑定なんて片手間レベルでできる能力あるし。朱雀は未来を司る星神だからこの手の能力苦手なんだよねぇ。青龍が司るのは現在だからギリぼくでも扱える構造だったかな。現在と未来は近いし」
言ってる意味はよく分からなかったが、南国の親子鑑定の神具は非公開であるために、東雲国のものを参考にした、という事だけは王太子は理解できる。
「しかしこれは……発表したら色々と……」
思わず青ざめたのは今までこの国に正確な親子鑑定をする方法がなかったからだ。東雲国は各地の神殿に必ず鏡があるので、お布施をすれば平民でも親子鑑定を受けられる。それを初めて聞いた時は王太子も驚いたものだ。
しかしながら、明確に親子鑑定をされてしまうと困る後ろ暗い人間も存在する。手を付けた使用人が孕んだと屋敷を追い出す貴族、逆に貴族に孕まされたと屋敷に押しかける者、ほんとうに自分の子かと疑い冷遇する者等上げればキリがない上に、今は親子鑑定の手段がないために有耶無耶になったり、泣き寝入りしたりと言うことが多かったのだ。
例えばこの魔具を使用すれば、家そのものの相続や後継云々がひっくり返る所が出る可能性があった。
そこまで想像して青ざめた王太子を眺めて王妃は小さくため息をつく。
「暫くは宝物庫入りです。けれどこの手の魔具を作ることが可能だと言うことをじわじわと認知させていきます」
「ええ……そうしてください……」
鑑定方法があるとわかれば、それなりに無茶を控える者も出てくるだろうし、逆に備える者も出てくる。
「可能であるという事を周知するだけで不貞の抑止力にはなるな。我が国の花園は不義密通ならば鞭打ちだが、不義の子を孕めば縛り首だ。そして確実に鑑定する方法を持っているがゆえに言い逃れはできない。神具があるお陰で罰せられるのが女だけということもない」
「女は孕めば露呈するからねぇ」
「うむ。慈悲深い星神は不貞を犯したものを公平に罰せられるよう、神具を与えてくださったのだ」
慈悲深いのか厳しいのか微妙だと王太子は思ったのだが、種を撒いた男のほうが逃げおおせるというのも確かに公平ではないと考える。
「うちの領地でも動作確認したし、さっき近衛やら侍女やらでも確認したから!ばっちり!!」
そうやって試運転を城内でワザとすることで、その魔具の存在を少しずつ認知させようと言う魂胆なのだろうかと王妃の方に王太子は視線を送る。すると彼女は心底面倒くさそうに口を開いた。
「私の注文通り魔具を作ってくれたことに感謝します、フレムデ」
「まぁ君の言う通り、いつまでも友達困らせるのぼくも苛つくし。いいよいいよ。で、どうする?使う?使わない?」
最後のノイ伯爵の問いは王妃ではなく国王に向かっていた。すると国王は少しだけ困ったように笑う。
「王妃に心労をかけて、君には手間をかけさせて、本当にすまない」
「いいよ。友達だし」
「使おう」
誰に、一瞬そう王太子は問いかけようとして、言葉を飲み込む。
まさか。そんな馬鹿なと彼の良識と常識がその言葉を吐き出すのを引き止めた。
「明朝、父上とクレイの親子鑑定を行う」
「……父上……それは……」
悲しそうに国王が瞳を細めたのを見れば何かしら確信があっての事だと察して、王太子は青ざめながらも頷く。
そんな様子を眺めながら王妃は口を開いた。
「フレムデがね、君の妹じゃないんだからちゃんと引き取った先王陛下に面倒みさせたら?って何年か前に聞いてきたのよ」
「は?え?既に親子鑑定魔具が形になっていたのですか?」
「ぼくは見ればわかる。けど、それはぼくにしかわからないから誰から見てもわかるように魔具に落とし込めないかってオーヒサマに言われたから作った」
あっけらかんとノイ伯爵に言われれば王太子は唖然とする。するとサイイドは頷きながら言葉を添えた。
「うむ。私も白虎の加護持ち相手なら親子鑑定は可能だ」
「はぁ!?」
「君は白虎の愛し子だからねぇ」
「うむ」
いや、二人で納得して頷き合わないで欲しいと本気で王太子は思ったのだが、その二人を眺めていた王妃は呆れたように口を開く。
「フレムデは貴方も知っての通り、金にも利益にも興味はない。ただ、友達の事を心配して聞いてきただけ。陥れようと言う気持ちは微塵もない」
「それは……はい。わかります」
「だって、センオーサマが引き取ったけど友達夫婦には関係ないと思ったし」
子供のように口を尖らせてノイ伯爵は言葉を放つ。本気で友人の心配をしただけなのだろう。そして王妃は、妹ではないと証明できないために妹として扱っていると彼に説明をしたという。
「母上は……叔母上の出生をお疑いに?」
「フレムデに言われるまで微塵も疑っていなかったわよ。あの子母親似だったし」
「そうですね」
先王の愛した側室によく似ていたのもあり寵愛された姫。寧ろ己に似ず側室に似たことを先王は喜んでいた位だ。ただ、フレムデが嘘をつく理由もない。だからそこで初めて王妃は出生を疑ったのだ。見ればわかる。そんな馬鹿な事を信じても良いと言う程度に王妃はフレムデと国王の友情を重く見ていた。基本こちらから依頼しなければ自発的に動かない男が、何故面倒事をわざわざ抱えているのかと聞きに来たのだ。
「……では……花園への輿入れは白紙に……」
思わず王太子が項垂れたのもしかたないだろう。アレだけ苦労して調整したというのに水の泡なのだ。しかも血の繋がりのない人間のために時間を割いたと考えると膝から崩れ落ちそうになる。
「その件に関しては国王陛下と王妃殿下と話をさせてもらった。先王陛下の返答次第というところだな」
「いや!!王族でもない娘の輿入れなど……」
驚いて王太子がサイイドの方を見ると、彼は瞳を細めて口元を歪める。それはいつもの朗らかな笑顔ではなく、どこか冷ややかな表情で思わず肌が粟立つ。
「……我が花園の本質を同盟者も存じておろう。私は私で我が朋友との盟約を果たさねばならんのでな」
助けてください。そうサイイドの朋友は願った。それを思い出した王太子は小さく頷くと、明朝の段取りをしましょう、と背筋を正した。




