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【本編完結】伽藍洞の君と朱の姫【番外編不定期更新】  作者: 蓮蒔
本編

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 謹慎処分を受けることとなった王妹・クレイ。勝手な人事への口出しが処分理由である。けれどヒルダの辞職撤回は国王と王妃の許可が降りず、王太子は各部署の調整に奔走するハメになったのだが、例え撤回許可が降りたとしてもヒルダが戻ってこないだろうことは王太子も理解していた。

 もう十分でしょ?と言い放たれた言葉は拘束されていたノイ一族への言葉ではなく、魔具研究所への言葉だと王太子が気がついたのは暫く経ってからの事。

 遅れる城内に設置されている魔具の保守点検や修繕。苦情の山。今まで一体何をしていたのだと心底王太子は思うし、甘やかすのはもう十分だろうと割り切った気持ちにもなった。ヒルダが魔具研究所を辞めてまだ一ヶ月経った程度でこの状態なのだ。


「……んで、ミュラー商会と年契組みたいって事か」


 冷ややかな視線を向けられる王太子は正面に座るグラナートに視線を送った。正式な場ではなくミュラー伯爵邸の東屋には珍しい組み合わせで人が集まっている。

 王太子は北国から戻ったグラナートに面会を申し込んだのだが、日程的に南国の第五王子サイイドとの商談を理由に断られていた。王太子は忙しいのもあり中々じっくり話す時間を取れる日程が組めず、今回はしかたないかと諦めた所で、サイイドが満面の笑みで王太子の元を訪れたのだ。同盟者の同行を許すと。


「ミュラー伯爵劇場……見たかった……間に合わなかった事をこんなに後悔したことはない……」


 顔を覆う南国第五王子サイイドにちらりと視線を送った後、グラナートは茶を一口飲むと神経質そうに指で卓を叩いた。


「一年契約だと割高だから、最低三年をすすめる。王城の魔具は多いからな。定期点検もいんならそっちの方がいい」

「点検……点検は……あいつらちゃんとできてるのか??」


 定期点検の契約も包括すれば、いざ修繕となった時に故意の破損でない限り修繕費は契約時の価格に含まれるし、優先的に人員が回される。貴族では割と契約をするところが多いと言いながらグラナートは書類を王太子に差し出した。

 書類に視線を落としながらブツブツと王太子が言葉を零したのを見て、呆れたようにグラナートは先程から静かに座っているもう一人の客に視線を送った。


「手前ェから見てどうだ?」

「第二騎士団専用訓練所の浄水魔具壊れたまま三日放置されてた」

「は!?そうなのか?」

「タンクの方に設置する魔具の消耗部品の摩耗だったけど。研究所に修繕申請出しても中々人も部品も寄越さないから団長と研究所に乗り込んで部品もぎ取ってきた」


 アルフォンスの話だと、訓練所の浄水魔具が不調でも屯所の浄水魔具は使えているのだから暫くそちらを使ってくれと言う返事に副団長がブチギレ、団長がアルフォンスを連れ研究所に赴いたという。


「む?青狼が結局修繕したのか?」

「修繕って程じゃない。消耗部品の交換だけだし、平民の家だとミュラー商会で部品買って自分で取り付ける。でも王城の魔具はミュラー商会から部品買ったら第二騎士団の自腹。基本魔具関係は研究所通せって話だって団長言ってた」


 魔具関係の修繕は研究所を通せば第二騎士団的には無料なのだが、ミュラー商会に頼めばそちらからの請求金額を第二騎士団の予算から払わなければならない。なので三日ほどは我慢していたのだが、アルフォンスがいい加減自分が直そうかと言い出したので団長が部品を取りに行く事を決めたらしい。

 そもそも魔具という構造のわからないものを自分で触って壊してしまったらという感覚は割と一般的である。なのでミュラー商会の修繕部門は人員を育てまくって各地に派遣をしているのだが、中には絵付きの取扱説明書をきちんと読んで自分で消耗品を買いに来るタイプの人間もいる。これは比較的平民が多く、貴族はわざわざそんな事をせずに金で解決する事が多い。けれどこれは消耗品の交換に限った事であり、それ以外の魔具の不具合に関する修繕に関してはミュラー商会を通すことを推奨されている。安全性の保証がされなくなるのだ。

 なので研究所も基本は消耗品の摩耗修繕以外はしない。それでも、たとえば浄水魔具等は通した水の量で部品が摩耗していくので、一般家庭より部品の交換が頻繁になりコストがかかる。そのコストを研究所でペイするのが本来の研究所の立ち位置なのだが、今は上手く回っていないのは末端のアルフォンスでもわかっていた。ヒルダがいた頃は申請を出せば直ぐに彼女が飛んできてささっと修繕して帰っていっていたのだ。


「多分だけど、消耗品の方のヒルダが作ったストックなくなったんだと思う。あんまできが良い部品じゃなかった」


 その言葉にグラナートは眉を寄せ、王太子は驚いた様に瞳を見開いた。

 するとアルフォンスは少し待っていて欲しいと言い、ヒルダの離れに走っていく。今はアリーセと一緒に家具を見に行っているので不在なのだが、鍵はかかっていない。

 そして彼が持ってきたのは浄水魔具の消耗部品を作る一角うさぎの角である。あとは魔術刻印を刻むだけの加工が施されている。


「ミュラー伯爵邸の修繕用部品だけど、使っていいですか?」

「構わねぇよ。後で二本分うちで代金見る」


 グラナートの許可を取ったアルフォンスは頷くと、角に指を滑らせる。浮き上がる模様にも似た魔術刻印に王太子は視線を奪われた。そしてその光は静かに沈んでゆく。


「うむ。大したものだ。綺麗な魔術刻印だ」

「ありがとうございます、サイ様」


 そして二本目の角にも同じように指を滑らせたのだが、先程より魔術刻印の光が弱く、模様によって強さも違う。それに気がついた王太子は眉を寄せてグラナートに視線を送った。


「先程と光り方が違う」

「再現度どん位ェだ」


 眉を寄せたのは王太子だけではなくグラナートもで、その言葉にアルフォンスは小さく首を傾げる。


「割と自信ある」

「だろうな。手前ェのその能力ホント惜しい」


 咽喉で笑ったグラナートは二本目を手にとってそれを王太子に差し出した。


「うちなら検品ではねる」

「……えぇ?もうやだー。不良品じゃん……」

「一応浄水魔具は機能すっけど、魔術刻印が弱い部分に負荷がかかっから摩耗が早い。手前ェ、これ第二騎士団のタンクに付けたのか?」

「つけた。早く壊れるって事は、うちが納品する一角うさぎの消費が激しくなるってことだし別にいいかと思って」

「いやいやいやいや!!アルフォンス・ランゲ!!研究所はコスト爆上がりだからね!?」

「浄水魔具の一角うさぎの角、温水魔具の火蜥蜴の鱗、発光魔具の光蟲の羽は毎回限界まで剥ぎ取りして、たくさん研究所に買い取って貰ってます」

「そんでうちへの納品減ったのか。四割はうち回せ」

「その辺は団長に交渉お願いします」


 要するに、消耗部品が早く壊れるということは材料の発注が増えるということ。第二騎士団としては寧ろ金を稼げるのだ。

 頭を抱えた王太子は、卓に頭を押し付けたままぶつぶつと言葉を零す。


「アルフォンス・ランゲ。第二騎士団の研究所への納品数はやはり増えているのか」

「倍とは言いませんが近いかと。一度魔具研究所の経費内訳を見直すことをおすすめします。ヒルダが作った消耗部品は長持ちしますけど、それが摩耗しきった後は面倒なことになると思います。ミュラー商会との三年契約の金額がいくらなのか知りませんが、一考の余地はあるかと」

「よし。来年の春を目処に仕事ができなさそうなら研究所潰そう。魔具を扱う技術は簡単に取得できないとかごちゃごちゃ言ってたけど、工房の親方が一年、ヒルダ嬢が四年も講師してて不良品しか作れないとか意味わからん。……アルフォンス・ランゲは魔具を触りだして何年だ?」

「三年位ですね」

「……研究所の人間無能すぎないか??武官志望の学生の方が魔術刻印上手に刻むとか……」


 無論、技術というのは金を投じて直ぐに何とかなるというものではないのは王太子も承知している。

 そこでふと気になったことを王太子は尋ねた。


「ミュラー商会の工房は引退した辺境兵が多かったな。武芸達者の方が魔具作成に向いてるのか?」

「んなことねぇよ。やる気の問題だ。引退して家族のお荷物だってしょぼくれてた連中が必死こいて練習してんだ。そんでも体質的な向き不向きがあっから、魔術刻印上手く刻めなきゃ検品作業とか、多少は振り分けしてっけど」


 始めは全てノイ伯爵領の工房で消耗部品も作っていたのだが、魔具が国に広がれば手が足りなくなる。それもあってミュラー商会の工房でも消耗部品は作れるようにしたのだ。長年それだけを作り続ければそれなりに技術は上がってゆく。

 そこまで言ってグラナートはアルフォンスに視線を一瞬だけ向けて更に言葉を続ける。


「このガキも守りの刻印は朱雀の加護のお陰で相性いいけど、他はひたすら練習積み重ねて技術尖らしてんだよ。飛竜丸一匹分の量の鱗に魔術刻印刻み続けて研磨した技術が片手間の研究所の連中に敵うはずねぇだろ。そもそも鳥女がいたせいで危機感が足んねぇんだ」

「どう考えても新型魔具の試作品ヒルダに渡してレポートとか言ってる立場じゃないよね」

「つーか、どんなに素晴らしい魔具の設計図引けても作る技術なきゃ意味ねぇだろ。逆だろ。手前ェの技術で作れる魔具作れよって話だな」


 どんなダメ出しをヒルダがしたのか少々気になるとアルフォンスは思ったのだが、グラナートの方は無意味だとバッサリ切り捨てた。


「……春までの猶予いらない気がしてきた……」


 とはいえ流石に直ぐにとは魔具研究所を支援している貴族の手前難しい。せめて保守点検・修繕が滞りなくできるようになれば魔具研究所を残しても良いと妥協案を出して、支援貴族の方にも魔具研究所の実情をきちんと話してやろうと王太子は考える。

 先ほど少しアルフォンスが言っていたが、もしかしたら支援貴族には順調だと作れもしない魔具の設計図を渡して上手く誤魔化していたのかもしれないと思いだしたのだ。

 彼らが一番最初に掲げた建前を貫き通してもらおう、そんな事を考えながら王太子は椅子に深く座り直した。


「通常価格でこれを買い取らせて貰えるか?」

「構わねぇけど。どうすんだ」

「これを目標にさせる。まぁ、最低ラインはミュラー商会の検品ではねられない事だが……」

「工房の見習いが作ったって言っとけ。名前出して余計なちょっかいかけられんのも面倒だろ」

「……おや?アルフォンス・ランゲには優しいのだな」

「第二騎士団の稼ぎ頭なんじゃねぇの?第二の団長にネチネチやられんぞ」

「優しそうな顔してゴリゴリ抉ってくるんだけどあの団長。魔術師団の団長と組んでこの間死ぬ程嬲られたんだけど私……いや、第一騎士団のほうが嬲られてたけど……」


 顔を覆いながらそう零す王太子の姿にサイイドは同情するように眉を下げる。同じ王族として、常にかけられる責任の重さは理解できるのだろう。次期国王として無難に政務をこなしている様に見える王太子であるが、精神をすり減らせている。


「うむ!元気を出せ同盟者!!漸く先王陛下の許可も降りて王妹殿下の降嫁も臣下に報告できるのだ。来年の春には一つ肩の荷が降りる!!」


 そんな話をこの場所で喋っていいのかとアルフォンスは思ったのだが、王太子が止める様子もないので口外さえしなければいいのかと考えながらお茶を飲む。


「もっと早めたい……速攻で嫁に出したい……でも付き添いの侍女や護衛の選定調整が終わらない……」

「まぁ、一度花園に入ったら里帰りは気軽にできんからな。こればかりは我が国の規則だ。私にはどうにもならん」

「それは承知していますサイイド殿下」


 そもそもお気に入りの侍女や護衛を連れていきたいといい出さなければこんな苦労はないのだとぶつぶつと王太子は小声で零す。サイイドの方で必要ならば人員の選定もすると申し出があったのを蹴ったのだ。

 とはいえ、他国という慣れない環境なのを考えれば一人、二人はとも王太子は考えていたのだが、まさか今侍らせている面々を全てなど言い出すとは思わなかったのだ。


「順番に片付けるしかないかぁ」


 しょんぼりと肩を落とす王太子は、とりあえず魔具研究所の方を詰めようと決めて茶を飲み干した。

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