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【本編完結】伽藍洞の君と朱の姫【番外編不定期更新】  作者: 蓮蒔
本編

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 結局そのまま一名が予定外に副団長に昏倒させられたために、三名の新人がアルフォンスと対決することになる。

 決して第一騎士団に入る事は簡単ではないし、第二騎士団に劣る訳では無い。ただ、常に前線に身を置く人間の技術は日々研ぎ澄まされる。例えわずか二ヶ月足らずであっても、遠征に明け暮れた第二騎士団の新人と第一騎士団の新人は経験値が違いすぎる上に、危機感が違う。

 一歩間違えれば命を落とす。そんな場所で研磨し続ける人間と、まだ学生気分が抜けない人間。

 元々学園の武芸大会連続優勝を果たしているアルフォンスが更に技術を研磨していったのだ、敵うはずがない。

 そんな事を考えながら王太子は審判をしていたのだが、案の定、三名の試合はあっという間に終わる。

 今までなら第二騎士団副団長が相手をしていたのもあり、新人が勝てなくてもしかたない、一人で新人相手とはいえ勝ち続けるのは凄い、そんな空気が見学者にも流れていた為に、共に名を落とす事もなかったのだが新人同士である。

 ここまでとは……と言葉を落としたのは第一騎士団の団長。差に愕然としている様子であった。悪い人間ではないがヌルい。気長に育成を積み重ねるという方針も悪くはない。悪くはないが、その過程で周りに多少迷惑をかけることもしかたがないと言う態度は、第二騎士団と魔術師団の犠牲の元でなりたっていると言う意見を、もっと深刻に受け取るべきであった。

 そしてここまで問題が公になってしまえば、早急に証拠品を確認して会議で処分を検討せねばならない、そう判断した王太子は午後の公開演習の中止を取り決める。

 そして観客席に残した護衛や側近と合流しようとした所で、膝から崩れ落ちそうになった。

 すっかり頭から抜け落ちていた王妹の存在。

 その彼女が護衛騎士を引き連れてアルフォンス・ランゲに声をかけていたのだ。


「とても素晴らしい試合でしたわ。このあと昼食を一緒にどうかしら?」


 ただでさえ注目を浴びているアルフォンスである。午後の演習中止を聞いて帰宅しようとしていた面々も足を止めてそちらに注視している。


「申し訳ありませんが、午後からの緊急会議前に我が新人団員は最終聞き取りがありますので」


 アルフォンスが口を開く前に割って入ったのは第二騎士団の団長。元々垂れ目がちなのだが、それを更にたれさせて愛想よく王妹・クレイにうやうやしく言葉を放った。

 それに僅かに不快そうな顔をクレイはしたのだが、流石にあの騒ぎの後の会議である。騎士団の新人がそれに関わることも理解できたのだろう、直ぐに残念そうに眉を下げた。


「そう。残念だけれども、王太子殿下のお仕事を邪魔するわけにはいかないわね」


 大人しく聞き分けの良い王妹の顔でそう言葉を放つと護衛騎士を引き連れてその場を後にした。そうなれば周りもバラバラと演習場を後にする。


「お手数かけました」

「いえいえ。これもボクの給料の内なのでお気になさらず。けど申し訳ありませんが新人の方々は王城の食堂でテイクアウトして、寮の食堂の方で食事をお願いしますね。ご家族の差し入れがある方は気兼ねなく持ち込んで下さいな」


 最終聞き取りとやらをするのかと新人たちは素直に頷き皆食堂へ急ぐ。独身寮の食堂は昼間は場所として開放されているが、食事の提供は朝と夜のみなのだ。そして思い思いの昼食を抱えて寮の食堂へ足を踏み入れると、そこには団長と副団長、そしてヒルダ・ノイ伯爵令嬢が待っていた。


「はい。皆さん食べながら聞いて下さいな。倉庫の映像魔具の件は事後報告になって申し訳ありませんでした。まぁ、皆さんちゃんとお仕事してたのでうちに関しては問題ありませんでしたが」


 他は問題があったのだろうと察した新人は、遠慮なく昼食を食べながら話を聞く。魔物討伐時にはよくある事なので行儀が悪いというものはいない。


「第一騎士団からのみみっちい嫌がらせに関しましては、相手の名前がわからないパターンもありましたので、ちょっと顔のほうを確認して頂こうと思いまして」


 その言葉と同時に僅かに食堂が暗くなる。それに驚き新人たちは辺りを見回したのだが、次の瞬間壁に映し出された映像に絶句する。


「とりあえず第一騎士団の新人の顔をこれで投影して、名前を言いますので、今副団長が配っているあなた達が提出した報告書で、名前がわからなかった相手が埋められそうなら埋めてくださいな。はっきり覚えていない場合は空欄で構いません」


 そして順番に映し出される第一騎士団の新人の顔。恐らく今日の公開演習のものであろう。


「ヒルダ嬢、次お願いします」


 新人の名前を読み上げ、暫く時間を置いてヒルダに次の画像を出す様に指示を団長は出す。


「あ、その髪が長い人拡大できますか?……はい、彼の名前は……」


 画像をアップにすれば少々画像はボケるのだが、それでも顔の確認は十分できる。とんでもない魔具だと皆思ったのもしかたない。


「以上です。埋まりましたか?ヒルダ嬢ご協力ありがとうございます。投影自体の操作は覚えたんですが、拡大とか静止とか覚えきれずお手数かけました」

「投影魔具自体が試作品ですもの。しかたないわ」

「え!?それ試作品なの!?」


 びっくりしたように声を上げたのは副団長。回収する用紙を握りしめてヒルダに視線を送った。


「元々水晶玉自体を覗き込んで録画した映像を見る仕様なの。けどコド……サイイド殿下が皆で見たいって言うから」


 大人数で覗き込んで水晶球を眺めるのも疲れると言う話を聞いたヒルダが、再生用の魔具を改造したのだ。その試作品なので操作もまだ落とし込みがされておらず複雑なのもあり、今日はヒルダが操作を引き受けたのだ。この後の会議にも同行する予定である。


「まじでー。っていうか録画魔具もヒルダちゃんから借りたの?」

「そっちはグラナート・ミュラー小伯爵ですねぇ。納品後速攻で割れた砥石不良品じゃないですよね?って確認したら貸してくれました」


 要するに、元々の品質の問題なのか、管理の問題なのか白黒つけたいので録画魔具を貸してくれと団長はねだったのだ。無論、品質に問題はない事も第一騎士団が嫌がらせに備品を破損させているだろう事もグラナート・ミュラー小伯爵は察していたが、その建前で魔具を貸してくれた。

 そして団長はその魔具を設置する許可を合同で備品倉庫を使っている第一騎士団と魔術師団の団長に取ったのだ。はじめは第一騎士団の団長に関しては渋い顔をしていたのだが、、魔術師団の団長は、これで備品の扱いに問題がないと証明され、納品された商品の方に問題があれば金をミュラー商会から引っ張れるとノリノリでサインをした。そう言われれば、まさか自分の部下がバカなことをしていると全く考えていなかった第一騎士団の団長もサインする事となる。

 そして通常の扱いを見るためなので団長以外には設置を内密にという取り決めをし、その場は解散となったのだと皆にようやく経緯を説明する。


「……備品の取り扱い確認の為に設置した魔具に偶然写っていた、って風にしたのかー。エグい」

「悪いことってバレますよねぇ」


 呆れたように副団長が言ったのだが、団長は悪びれもなくそう言い放つ。しかも無断での設置ではなく、他の団長まで了承しているのだから陥れられた等と言う言い訳もできない。実際に砥石の破損に関してはミュラー商会に一式引き取ってもらい、商品に問題がないという証明書まで出して貰っているのを考えれば。完全に追い込みをかける体制である。

 備品破損に関しては任せておいて欲しいので、通常通りチェック作業をするようにと通達があったのはこのためかと一同納得した。


「はい。ではボクと副団長は会議に行きますので、皆さんは通常訓練でお願いしますね。ボク達が戻ってこなければ定時解散で問題ありません。先輩の言う事をよく聞いて、怪我なくお願いしますね。ヒルダ嬢は申し訳ありませんが会議までお付き合い下さいな」

「ええ」


 一旦解散となった中、アルフォンスは少し迷ったように視線を彷徨わせてからヒルダの方によってゆく。それに気がついた彼女は淡く笑った。


「眼鏡君もお疲れ様。絡まれて大変だったわね」

「学園の時もあったから。ヒルダもわざわざありがとう」

「丁度見学のタイミングで良かったわ」


 てっきり会議を団長がねじ込む為にヒルダが呼ばれたのかと思っていたアルフォンスは少しだけ驚いたような表情をする。


「朝に赤狼が公開演習あるって教えてくれたのよ。今まで見たことなかったから日程知らなくて。差し入れ持ってくるのも知らなかったから手ぶらでごめんなさいね」


 ヒルダも来ていることだし証拠も揃えた。そんな理由で団長はこの公開演習での吊し上げを計画したのだろう。尤も、ヒルダが来ていなかったとしても呼べばいいだけの話なのだが。


「いいよ、来てくれただけで嬉しい」


 アルフォンスが口元を緩めてそう言い放てば、周りのものは驚いたように彼の顔を凝視する。しかしヒルダはそれに気が付かなかったのだろう、苦笑した。


「それじゃ会議に行ってくるから。訓練しっかり頑張りなさい」

「わかった」


 そして団長と副団長と一緒に投影魔具を抱えて彼女は食堂を出ていった。


***


「……で。結局処分は?」

「書類の通りになりました」


 お茶を飲みながら確認するのは王妃。僅かに眉を寄せてため息をついたのもしかたないだろう。備品破損に関わっていた騎士団の新人が五名懲戒免職となるのだ。ほか、嫌がらせだけの面々は減給と謹慎処分。第一騎士団の団長と副団長は監視不行き届きの責任で減給。

 証拠を片手にゴリゴリと詰めてきた第二騎士団の団長と魔術師団の団長の様子を思い浮かべて、王太子は思わず顔を顰めた。感情的に怒鳴られて詰められる方がまだ気分はマシで、ああやってねちねちやられるとズルズルと相手の土俵に引きずり込まれて毟られる。それを嫌と言うほど感じた。

 その上同副団長組は普段の賑やかさはどこに行ったのか、だんまりで止める様子もなかったのだ。尤も止める理由などなかったという方が正しい。

 そして近衛騎士団の団長も、流石にここまで証拠や書類を揃えられてしまえば、第一騎士団の甘さを厳しく叱咤する立場を取る他ない。ほぼ近衛騎士は第一騎士団から抜擢するのもあり、引き締めを図る為の助力も惜しまないと言ってくれたことに王太子は本気でありがたいと拝みたくなる。近衛騎士団は王族の護衛任務が多いために余り他の団とは関わりがないのだが、それでも団長自体が第一騎士団上がりの古参であるがゆえに思うところもあったのだろう。

 元々家格のせいで起こるトラブルは武官だけではなく文官でも起きていた。それもあって、この処分を機に色々と引き締めを図っていかねばならないと王太子は考え、王妃に視線を送る。


「……魔術師団の団長から嫌味を言われましたよ。折角五年前に腐った先王派閥を切り落としたのに手入れをしなければまた同じことの繰り返しだと」

「痛いところを当てこすって来るわね。まぁ今回の事は良い口実になるでしょう」


 書類をテーブルに伏せた王妃は口元を歪める。


「一掃しましょうか。いい加減老害の相手も面倒だわ」

「……先王陛下が口出しして来るでしょうね」


 衰えたとはいえまだ影響力のある先王。側妃と離宮に引きこもっているだけならば放置もできたが、まだ先王にすり寄る連中も存在するしそれを許しているのが王妃には邪魔であった。元々彼女は先王が好きではないのだ。ある程度の政治手腕は認めるが、子である彼女の夫を軽んじる傾向にある。元々期待されていない王子が即位したのも面白くなかったのだろう。それでも影響力を最小限に抑えるために国王と協力して離宮へ押し込めた。


「ご退場頂くわ。丁度フレムデも東雲国から帰ってきたし」

「あ、戻られたんですかノイ伯爵とミュラー伯爵」

「ええ。土産物を持ってきたわ。暫く自領の工房にこもるそうよ。楽しみね」


 新しい魔具ができればまた父である国王は喜んでそれを息子である自分に自慢するのだろう。私の友は凄いのだと。

 友達自慢するような癒やしの時間が欲しい。そんな事を考えながら王太子はテーブルの書類を回収した。

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