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【本編完結】伽藍洞の君と朱の姫【番外編不定期更新】  作者: 蓮蒔
本編

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 模擬戦の開始前に、観客に向けてのルール説明の時間が取られる。見学常連者であれば承知のことなのだろうが、初めてという見学者も多いので毎回行われているものなのだ。公開演習でなければさっさと開始される。


 そして王太子の開始の合図とともに観客の視線は真上に弾き飛ばされた剣に集中した。

 先に攻撃をしたのは第一騎士団の侯爵令息の方であったのにもかかわらず、その剣を手放したのは彼の方であった。

 そして響き渡ったのは侯爵令息の悲鳴。

 蹲って肩を抑える姿に一同唖然とした。そして我に返った王太子は慌ててアルフォンスの勝利を告げたのだ。


「貴様!!剣を弾く等卑怯な!!」


 一旦開始線まで戻ろうとしたアルフォンスに声を上げて近づいたのは次に試合をする予定であった新人。胸ぐらを掴もうとしたのか手をアルフォンスに伸ばしたのだが、それは一瞬で払われ、次の瞬間彼は地面に転がり脇腹を押さえて泡を吹いていた。


「ナニ学生気分でヌルい事言ってんのお前」


 割って入ったのは第二騎士団の副団長。そして彼は遠慮なく地面に転がる新人を踏みつけると口を開いた。


「襲撃者が正々堂々と戦うと思ってんの?つーか、学生気分と言えばアルちゃん。剣を弾くなら上だと足元に戻って来る可能性あっから遠くにな。そんで肩外すとかヌルい事すんのも減点。と言いてぇトコだけど、模擬戦で骨折ったぐれぇで始末書はねぇって言うの忘れてたから今回は見逃してやる。狂犬の教えた通りやっていい」

「グラナート様は一発昏倒させられなかったら首へし折れって言ってましたけど」


 斬りかかられた時に相手の剣を打ち上げ、すかさず相手の側頭部に蹴りを入れたアルフォンス。しかし体勢を崩しながらも相手が踏みとどまったので、彼は素早く背後に周り利き手の肩を外したのだ。

 騎士団の人間はアルフォンスが何をしたか分かっただろうが、観客席の者はほぼ剣に意識を向けてしまったのではっきりとわからなかったようでざわめきが広がる。


「……首かぁ……首は審議対象になりそうだなぁ。脚にしといて。いっつもアルちゃんが魔物一撃で急所狙えねぇ時は上手に脚狙うじゃん。それと一緒でいい」

「はい」


 ヒュッと息を飲んだのは観客だけではなく第一騎士団の新人もである。


「……魔物といっしょにするのはいかがなものかと……」


 震える声で抗議したのは、肩を外された侯爵令息を運び出そうとしていた新人。その彼の言葉に副団長は眉を上げると、足元に転がる新人を蹴り上げた。


「俺らの仕事は魔物殺す事なんだけど。そんな俺らに模擬戦挑んできたのそっちじゃん。いいよいいよ!中央防衛がお仕事の第一騎士団と魔物を狩り尽くす第二騎士団。最強の盾と最強の矛の対決って訳だ!!」

「それは……」

「俺らは魔物を殺して五十点、生きて帰って百点満点なわけ。うちが基本模擬戦を受けねぇのは、根本的に仕事が違うから。俺以外は手加減下手だから受けられねぇの。だって俺達は殺すための技術磨いてんだし?魔物相手に手加減なんかいらねぇから、手加減覚える必要もねぇんだわ。んなことしたら命に関わるって叩き込むトコからはじめんの。そんなウチの連中がみみっちい嫌がらせ無視してんのは、家格がどうとかじゃなくて、自分が手ェだしたら相手再起不能にしちまうからな訳よ。騎士として魔物相手に剣を振るう事を国王陛下に誓ってっからな。人間傷つけるの避けるのが当たり前って事。うん。うちの子めっちゃいい子じゃん」


 自画自賛するように締めくくった副団長を見て、アルフォンスは呆れたような表情をしたのだが、苦々しい表情を作ったのは王太子であった。

 第一騎士団と第二騎士団の問題は創立以来ずっと続いていた。それを今までは互いの騎士団長や副団長が何とか宥めていたのだが、今年の新人は恐らくやりすぎたのだろうと王太子は察する。

 第二騎士団だけではなく身分関係なく才能のある者を集める魔術師団からも提出されたのは第一騎士団の新人が行った嫌がらせの数々。普段予算会議ではバッチバチにやり合う癖にこの時は結託して書類を突きつけてくるのだ。そして今年も季節の風物詩とも言える家格にモノを言わせた横柄、横暴な態度の数々が並んでいた訳なのだが、今年に関しては追加で第二騎士団から備品の故意による破損に関する報告書まで提出された。これは今までにはなかった事で流石に放置はできないと王太子側でも裏取りを始めた所である。

 証拠に関しては後日提出するがとりあえず報告まで、そんな第二騎士団団長の文章で締めくくられていたモノを思い浮かべて王太子はため息をついて口を開いた。


「先日第二騎士団と魔術師団から提出された意見書を見る限り、お前たちの家格にモノを言わせる態度は騎士の資質を問われる」


 低く響く声に第一騎士団の新人だけではなく、会場にいる者も黙り込む。副団長の言うみみっちい嫌がらせの発言のあとであるのだから冷ややかな視線が向けられたのもしかたないだろう。

 今までであれば、一ヶ月ほどである程度収まっていたのだがそれも恒例の第二騎士団副団長の勝ち抜き戦のお陰である。ただ、今期はそれが行われず、それもあってエスカレートしていった。第二騎士団に落ち度はない。寧ろ今まで第二騎士団に新人の躾を丸投げしていた第一騎士団の方が問題なのだ。

 第一騎士団の団長も副団長も人格的には問題はないタイプであったし、それこそ新人に口酸っぱく騎士とはどうあるべきかと指導していた。指導してきたが口で言っても理解しない人間というのはどこにでもいる。高位貴族令息は生まれたときから傅かれて生きているのもあり、それが悪い方向にでることは多々あった。城下で平民に対する横暴な振る舞いが問題となり懲戒処分になる騎士もいつまで経ってもゼロにはならない。

 第二騎士団や魔術師団は、魔物という絶対強者と戦うのが仕事である。それこそ実力主義で家格など何の足しにもならないと思っているのもあり、第一騎士団との温度差が激しいのだ。

 第二騎士団副団長の先程の態度が粗暴だと感じる者もいるだろう。けれど、彼は国王から第二騎士団副団長の仕事を任されているし、彼は己の役割として配下を守る義務がある。それに抗議するなら、少なくとも第一騎士団の副隊長以上でなければならない。


「はい。重い腰を上げていただいてありがたい限りです王太子殿下」


 重い腰と当てこすりをしてくる辺りが嫌なのだと思いながら、声を発した第二騎士団の団長に王太子は視線を送ったのだが、ぎょっとしたのはその隣に魔術師団の団長の女が立っていたからだ。真っ赤な紅を塗った口元を三日月の様に歪めて己を見ている姿に肌が粟立つ。あの顔をしている時はろくな発言をしないのだ。


「合同演習中にお邪魔いたします殿下」

「……心配せずとも魔術師団の意見書にも目は通している」

「ええ。ええ。裏取りをされていることも存じておりますわ。フフ……うちの可愛いコたちをいじめたバカどもが筋肉バカに血祭りにあげられると聞いて出向いただけですからお気兼ねなく」


 第一騎士団の団長が顔色なくしてるからやめてあげて、と心の中で王太子は悲鳴を上げる。今までは会議室でグチグチネチネチ詰めてきていたのだが、それを見学者のいるこの場所でやられるのは、第一騎士団のイメージ大暴落になるのだ。

 とはいえ、苦情が上がった時点で何かしら処分をしていればよかったのに、結局そのうち第二騎士団副団長が締め上げるだろうと放置した第一騎士団の判断ミスである。今までそうであったから大丈夫だろうと言う甘え。


「でも、まさか新人が血祭りに上げてるとは思わなかったし。しかも魔眼持ち?うちに来な、僕ちゃん。その眼研究したい」

「俺の眼はヒルダ・ノイ伯爵令嬢に任せているのでお断りします」

「ヒルダちゃんと一緒に来ることを許す。あのコも水魔法と風魔法はへなちょこなのに合成で雷魔法使うとか意味わからないことするし。不思議……ノイ伯爵の魔力量にそぐわない火力も研究したい」


 ぶつぶつと独り言のように言い出した魔術師団団長を見て、どう考えてもサイイドとノイ伯爵を足して二で割った感じに近く、関わったら面倒臭い奴だと判断したアルフォンスは会話を一瞬で切り上げて己の上司である団長に視線を送った。


「こちらも遅くなっていました証拠を提出しに来ただけですのでお気遣いなく。模擬戦に関しましては副団長に一任していますので」

「……今?」

「今ですね。早いほうが良いかと思いまして、ちょっと執務室に取りに行った所でばったり彼女に会いまして。他意はありません」


 二人で圧をかけに来たんだろうと、騎士団員は心の中で突っ込んだのだが誰も声には出さない。

 実際観客は第一騎士団の新人がアルフォンスに模擬戦を申し込んだのも見ているし、事もあろうか王太子の判定にいちゃもんをつけるように掴みかかろうとしたのだ。迂闊以外のなにものでもない。

 この辺りが第二騎士団副団長の言う学生気分が抜けていない、という所だ。


「証拠?」


 ボロっと言葉を零したのは第一騎士団の新人の一人。その言葉に第二騎士団の団長は懐から掌に収まる水晶球を取り出した。


「備品の破損や紛失が多いので、ちょっと知り合いに魔具をお借りしましてね」

「……まさか録画魔具か?」

「王太子殿下はご存知でしたか。えぇ、音声は無理ですが、画像の方は二週間分バッチリです」


 露骨に顔色を変えた面々を眺め、王太子は息を吐き出す。証拠を出すとは言っていたが、まさか自国でも王城の一部、そしてミュラー伯爵邸にしかないモノを持ち出してくるとは思わなかったのだ。


「そんなもの!!捏造された映像かもしれない!!」

「安心して下さいな。録画魔具の証拠能力は、以前グラナート・ミュラー小伯爵が起こした貴族裁判で有効と判断され証拠として採用されていますよ。ご存知でしょう?奥方が襲撃された事件。それに南国の第五王子サイイド殿下の花園でもこの魔具を採用していますので、性能に関してははなんら問題はありません。寧ろこの映像を捏造する方が録画魔具を作るより困難らしいですよ。あ、折角ですし今ここで映像見てみます?凄いですよ?これ専用の投影魔具の方も会議用に借りてきていますので……」

「いや。まて。大事な証拠品だ。こちらできちんと保管させてもらおう」


 慌てて王太子は側近を呼びよせ、受け取った水晶球を渡す。証拠品として直ぐに保管庫へと言いつけた後に、息を吐き出した。流石にこれ以上第一騎士団の株を落とすわけにはいかなかったし、本気で彼が一気に片付ける気である事も嫌と言うほど王太子は理解した。


「はい。お忙しいところありがとうございます。では模擬戦の続きをどうぞ」

「……え?この流れで続けるの?どう考えても証拠が提出されたから緊急会議じゃない?」


 思わず素の口調になってしまった王太子に対し、第二騎士団団長は笑う。


「魔術師団の団長がわざわざ見学にいらしたんです。うちの新人自慢したいじゃないですか。アルフォンス君。休憩は十分とれましたか?」

「はい」

「よろしくおねがいします。あと、ボクなら眼か親指を狙いますね。視覚を奪うのは労力の割に相手の能力削ぐ効率がいいですから。対人なら親指切り落とせば武器を持つのが困難になりますし」

「はぁ?そこでアンタがアドバイスしちゃったら、次のやつ対策してくるんじゃないのさ?」

「大丈夫ですよ。アルフォンス君は器用ですから」


 顔面蒼白なのは次にアルフォンスと試合をする事になっている新人。


「アルフォンス君との最後の手合わせですよ。お望み通り、存分に戦って下さいな」


 そんな彼に向かって第二騎士団団長は満面の笑顔を浮かべて言葉を放った。

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