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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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「坊主友達いたのか!!」


 フランツが思わず顔を引き攣らせてしまったのもしかたがない。仕分けの賃仕事の面接を受けた所無事に受かったのでアルフォンスと共に倉庫へ向かった初日に出会った男にいきなりそう言い放たれたのだ。

 赤毛で青い瞳の男。辺境でよく見る色だとぼんやりと考えたフランツであったが、隣に立つアルフォンスにチラリと視線を送った。


「同級生だけど」

「お前が仕事紹介するって事はそれなりに信頼してんだろ。お前の紹介だって聞いてヒルダも驚いてたぞ」

「ヴォルフさんにならともかく、なんでヒルダにまで話行ってんの」


 呆れたような表情をアルフォンスはしたのだが、ヴォルフと言う名前を聞いてフランツは思わず姿勢を正す。辺境伯家門の男だと気がついたのだ。そして狂犬と共に学園で嘗て名を馳せていた赤狼。アルフォンスの口から出る名前は大概この男かヒルダなのだ。


「お前に友達いねぇって聞いてたアリーセ様がヒルダに教えたんだよ」

「……アリーセ様って時々変なことするよね」

「まぁな」


 同意するようにヴォルフが頷いたのだが、その後直ぐにフランツに視線を送る。


「フランツ・クラウスナーだったか」

「あ、はい」

「とりあえず一週間よろしく頼む」


 そう言って渡されたのは仕分け用の用紙。創立祭の衣装引取が明日から始まるので、引取予約順に倉庫から移動するのだ。


「坊主はこっちの紙な。まぁ、倉庫は同じだから仲良く運べ」


 倉庫と店舗は離れているので馬車で荷物を運ぶ。毎日仕分け作業があるのは店舗に全ての衣装を置いておけないからなのだ。お陰でアルフォンスやフランツは賃仕事にありつけるわけなのだが、予想以上に倉庫は広く、騎士志望だと言ったら即採用だったのは体力勝負だったからだろう。


「あらあら、ヴォルフ様。追加の子ですか?」

「おう。若ェし体力あっからうまく使ってくれ」

「はいはい。それじゃぁ、その紙にある番号にそって……」


 仕事の説明をしてくれたのは中年の女性で、恰幅が良く愛想も良い。番号と予約者の名前を確認して馬車のそばにドレスや装飾品をセットで運ぶだけであるのだが、それなりに重さもある上に扱いに注意をせねばならないので既に働いている面々も気を使って荷物を運んでいる。

 そんな中アルフォンスが眼鏡を外して自分が担当となる紙を眺めていたのでヴォルフは僅かに眉を上げた。


「大丈夫なのか?」

「これくらいなら平気」

「そうか」


 何が大丈夫なのか、ちらっとそんな事が頭をよぎったのだが、説明を終えた女性がフランツを一番最初のドレスの所へ案内するというので頷いた。


「そっちの子はヴォルフ様が説明してあげてくださいね」

「おう」


 恐らく一回は一緒に作業をして注意事項を教えてくれるのだろうと察したフランツは、満面の笑みを浮かべて、おねがいしまーす!と女性に頭を下げた。




「紙貸して」

「は!?アルもう終わった!?早すぎるでショ!!」


 思わずフランツが声を上げたのだが、アルフォンスは小さく首を傾げて手を差し出す。ヴォルフに手伝うように言われたらしく、用紙の上から作業をしているフランツとは逆に下から作業をすると言われ、ポケットから担当用紙を取り出した。

 それをアルフォンスが眼鏡を上げてちらっと確認した後踵を返して作業に入ったので驚いたフランツは声を上げる。


「写さなくていいの?」

「大丈夫」


 てっきりメモを取るのかと思ったのだがさっさとアルフォンスが作業に入ったので、その背中を唖然としながら見送ったフランツであったが、慌てて作業に戻る。またメモを見に来るだろう、そんな事を考えながらせっせと残りの作業をしていたのだが、結局最後までアルフォンスは再確認しに来なかった。

 本当に大丈夫なのだろうかと馬車のそばでチェック作業をしている作業員に声をかけたのだが、一応今のところ組み合わせに間違いはなかったと言われホッとする。

 そして作業後にお茶を出してくれるといわれ、いそいそとフランツは休憩室に足を運んだ。既にそこではアルフォンスとヴォルフが椅子に座って他の作業員とお茶を飲んでいる所であった。


「お。終わったか」

「遅くなりました……」


 申し訳無さそうにフランツはヴォルフに眉を下げて返事をしたのだが、他の作業員は笑いながら、慣れればもっと早くなると慰めるように言葉を放つ。


「まぁ、そっちの眼鏡の坊主はめちゃめちゃ早かったけどな」

「場所覚えたから」

「もう!?」


 倉庫内には区画ごとに番号が振ってあり、そこから荷物を引っ張り出すのだ。確かに覚えれば移動時間も短縮になるだろうとフランツは納得したのだが、ヴォルフは呆れたようにアルフォンスに視線を送った。


「あんま無理すんなよ」

「これくらいは大丈夫」


 まただ、そうフランツが思ったのは、時折心配そうにアルフォンスをヴォルフが眺めていたからだ。例えば何か失敗をするのではと心配するような視線ではなく、気遣うような視線。その理由がわからなかったフランツは首を傾げたのだが、渡されたお茶に口をつけた。卓には焼き菓子が並んでおり、自由に食べていいと言われれば他の作業員と一緒に遠慮なく手を伸ばす。


「隣の子がお友達?」


 思わず口に含んだ焼き菓子を喉に詰めそうになったフランツは慌てて茶で流し込む。声の主は茶色の髪をした女。


「同級生」

「でもお仕事紹介したんでしょ?」

「そうだけど」


 突然現れた彼女はぽふっとヴォルフの隣に座ると、しげしげとフランツに視線を送る。それに少々居心地が悪くなったフランツは助けを求めるようにアルフォンスに視線を送った。


「フランツ・クラウスナー」

「クラウスナー子爵の所の子ね!!あそこは蛇型の魔物が出るわ!!」

「そういう覚え方なんだ」


 少々呆れたようにアルフォンスは声を出したのだが、それを気にせずに彼女はニコニコと上機嫌に挨拶をした。


「ヒルダ・ノイよ!!眼鏡君と仲良くしてあげてね!!」

「は!?ヒルダ・ノイ伯爵令嬢!?」

「別にヒルダって呼び捨てでいいわ」

「いやいやいやいや……」


 学園内であれば、兄弟などがいる場合が多いので家名ではなく名前呼びでもよいという暗黙の了解があるので咎められることはないのだが、流石にこの場でそれは無理だと困り果てた表情をフランツが作ると、ヴォルフが助け舟を出すように口を開いた。


「あんま無理強いしてやんな。普通は下位貴族が上位貴族呼び捨てにできねぇよ」

「貴方はするじゃない」

「同級生だったし、グラナート関係で腐れ縁だからだよ」

「本当に眼鏡君にお友達がいたのね。良かったわ」

「ヴォルフさんもヒルダも結構酷いよね」

「だって、全然お友達の話聞かないんだもの。うちの討伐部隊も、私もヴォルフも年上だから、同世代とうまくやってるのか心配だったの」

「ヒルダに心配されるとか終わってる気持ちになる」


 アルフォンスが胡乱な表情でそう言うと、ヴォルフは咽喉で笑い、ヒルダは不服そうに口を尖らせた。

 

「あー、アルはちょっと対人スキル微妙だからなぁ……」

「アル!!アルって呼ばれてるの!?」

「勝手に呼んでる」


 名前を省略して呼んだだけで驚きと喜びの表情をヒルダとヴォルフが浮かべたのを見て、どれだけ心配していたのかとフランツは思わず苦笑する。しかしながら、実際問題、アルフォンスは自分から進んで友達を作るタイプでもないし、一人でいることに苦痛を感じるタイプでもないのをフランツは知っていた。嫡男じゃなくて良かったね……と薄っすら思ってしまう残念な対人スキルなのだ。ただ、それ以外はどちらかと言えば優秀なので非常にもったいないとフランツは個人的に思っていた。


「そういやお前も寮生か?」

「はい」


 ヴォルフに尋ねられフランツが返事をすると、彼は小さく頷いて口を開いた。


「俺が倉庫にいる日は送ってやっから」

「え!?いいんですか!?」

「まぁ、創立祭まで大体いるとは思うんだけどよ。日によっては店舗のほうかもしんねぇから絶対とは約束できねぇけど」

「いやいやいやいや!!そんなお気遣いなく!!無理はなさらないでください!!」


 倉庫は少々外れにあるのでアルフォンスとフランツは今日は乗合馬車で来たのだ。申請すれば馬車の代金も支払ってもらえるのでありがたいと思っていたのだが、夜になれば馬車の数も減る。最悪歩いてでも帰れる距離なのだが、送ってもらえると言われればありがたいとフランツはアルフォンスに視線を送った。


「ヴォルフさんは仕事いいの?」

「俺の仕事はグラナートの侍従と護衛っつってんだろ。お前等送る名目で帰んだよ。倉庫に詰めてたらいくらでも仕事振られるし」


 本職ではないとげんなりしたように言い放ったヴォルフであったが、それでも倉庫で仕事をしている他の人間の接し方を見れば、かなりの頻度で出入りしているのだろう事は分かる。


「まぁ、繁忙期だから仕方なく手伝ってるだけだしよ」

「そもそも貴方が毎度毎度服を新調するのもったいないっていい出したから始めたんでしょコレ」

「……それな……」


 ヒルダの言葉に頭を抱えるヴォルフを眺めフランツは瞳を丸くする。そう言えばレンタル業をミュラー商会が始めたのもここ数年の話だと思い出したのだ。

 今まで中古ドレスを扱う店は一応あった。しかしレンタルという形は非常に新しく、貴族社会に受け入れられるか未知数であったのだが、とりあえず創立祭の学生相手に手始めにスタートした所思った以上に当たる。今までドレスを毎年買い替えることができず、自前でリメイクなどをして何とか都合していた下位貴族の学生が殺到したのだ。

 そして今となっては社交期間中のレンタル業も順調であるし、社交期間を過ぎればお針子がリメイク作業を行うので大勢の平民に職を供給する事となる。


「こんな当たるとは思わなかったしよ。アリーセ様も下位貴族が毎年苦労してるって聞いて小規模に始めるつもりだったみてぇだし」


 当時まだ学生だったアリーセが父親であるミュラー伯爵に相談した所、あっという間に彼が形にしてスタートしたのだ。

 一年目はそうでもなかったのだが、二年目以降に注文が殺到した。


「アリーセ様ってそういう所商才あるよね」

「そうだな。発想はアリーセ様。形に落とし込むのはミュラー伯爵とグラナートの仕事って感じだな」

「そうよね!もっとアリーセを褒め称えていいのよ!!」


 なぜそこでヒルダが胸を張るのかとフランツなどは思ったのだが、アルフォンスが大真面目な顔で再度、アリーセ様すごい、と言葉を放ったので彼女は満足そうに頷いた。

 話を聞く限りミュラー商会は安泰だなとフランツは思い、来年も当日は無理でも今日のような準備期間にまた仕事を貰えないだろうかと考える。今日はまだ慣れずに手間取ることも多かったが、きっと明日にはもっと上手くできるだろう。


「うっし。帰るか。あんま遅くなったら寮の食堂閉まるだろ」


 ヴォルフの言葉にアルフォンスは頷く。とはいえ、寮の食堂は朝に比べれば比較的夜は長く開いているのだ。生徒によって帰って来る時間がまちまちなためである。食いっぱぐれても最悪街に行けば飲食店は開いているので金さえあれば何とかなるのだが、貧乏子爵令息を名乗るフランツの懐具合を考えればできれば食堂がいいだろう。

 ヒルダも一緒についてきたので共に帰るのだろうが、本当にアルフォンスの友達を見に来ただけなのかと些かフランツは驚いた。

 そして馬車に乗り込み、ゆっくりと賃仕事一日目の帰路についたのだ。

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