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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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 ヒルダの滞在する離れに使用人は侍っていないので、遠慮なくアルフォンスは離れの中に入っていく。玄関先で声をかけたところで作業場にいるヒルダには聞こえない。勝手に入っていいと許可を得ているのだ。

 そして作業場の前ではじめてアルフォンスは扉を叩いた。


「ヒルダ。いる?」

「いるわよー。どうしたの眼鏡君」


 反応が早かったので休憩中だったのかもしれないと考えながら扉が開くのをアルフォンスは待つ。直ぐに開かれた扉から顔を出したヒルダは、満面の笑みを浮かべてアルフォンスの横に立つサイイドに視線を送り驚いたような表情を作った。


「どうしたのコドク」

「所望の品を持ってきた!!」

「え!?早いわね!!」

「朱雀姫のためなら例え火の中水の中……と言いたいところだが、まぁ、霊廟に行ったら割と早く手に入ったのだ」


 得意気に胸を張るサイイドを眺めヒルダは淡く笑う。

 そしてサイイドの手によって開けられた箱に収められているのは純白の牙と爪。それを見たアルフォンスは小声で言葉をこぼす。


「星神の素材?」

「うむ!!朱雀姫が所望だと霊廟に報告にいった翌日に枕元にこれだけ置いてあった!!我が星神は太っ腹なのだ!!」

「思ったより多めに手に入って良かったわ」


 サイイドから素材を受け取ったヒルダは満面の笑みを浮かべていそいそとその素材を大事そうに棚にしまい込む。

 それを眺めながらサイイドは口を開いた。


「我が朋友青狼の魔具に使うのか?」

「朋友?」

「……俺のことらしい」


 余り馴染みのない単語にヒルダが首を傾げると、補足するようにアルフォンスは言葉を添える。そこで漸くヒルダはアルフォンスとサイイドに接点がない事に気がついた。


「どこで会ったの?」

「学園で王妹殿下に絡まれてる所を助けてくれた」

「うむ!!朱雀の加護が強いのはわかったからな!!朱雀の一族を助けるのは当然だ!!」


 血統的にはノイ一族ではないのだが、朱雀の加護が強ければサイイドの中で一族判定されるのだろうかとアルフォンスは不思議に思ったのだが、ヒルダはそれで納得できたのだろう、アルフォンスの方へ視線を送った。


「無茶言われてない?この男は話長いでしょ?」

「大丈夫」


 興味がないことは右から左へ流しているし、興味のあることは頭に入れている。そもそもサイイドはグラナートやヒルダの話が多いのでアルフォンスも退屈はしないのだ。


「我が朋友は魔眼持ちと見た。うむ!!早めに持ってきてよかった」

「……話したの?」


 驚いたようにヒルダがアルフォンスに尋ねたのだが、彼も少しだけ驚いたような表情を作ったので話していないのだろうと察した彼女はサイイドに視線を送る。

 すると彼は満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「眼鏡は魔具。先の短い己の命を救ったとなれば、恐らく魔眼の中でも負荷の高い未来視等のホシの図書館経由の能力だろう。ならば星神の素材が必要なのも納得できる」


 ホシの図書館という聞き覚えのない単語にアルフォンスは眉を寄せたが、ヒルダは少しだけ感心したようにサイイドに視線を送る。


「うむ!!概ね正解のようだな。我が国の霊廟にもホシの図書館経由の能力持ちはいる」

「ヒルダ、ホシの図書館って?」

「お父様の言う虚空よ。私も貴方の能力を調べる過程でそんな呼び方を知ったんだけど……」


 南国の星神を祀る霊廟に仕える魔眼持ち。その中にいるホシの図書館への接続能力を持つと言われる者は、未来視の力が強く出る者が多いらしい。いわゆる予知能力者。


「とはいえその能力を使えば大概死に至る故、国の危機以外では使用を禁じられている。死ぬまで使わない者も多い。それでも基本的に長生きはしないのだが」


 少々沈んだ声色で言うサイイドの様子を見れば国としても余り乱用したくないのだろう。


「もしも朱雀姫がその能力を抑える魔具を作成しているのなら是非我が国にも融通して欲しい」

「魔具の流通に関してはミュラー商会や国の許可がいるんだけど、人道的な部分を押し通せば例外的に流せるとは思うわ。あと、虚空接続……えっと、ホシの図書館への接続封じ自体はもうお父様が作ってる」

「なんと!!我が国の英雄殿はまたもや我が国の民を救うのか!!」

「眼鏡君は未来視と過去視だけお父様の魔具で封じてるの。私が作るのは虚空接続を経由した映像記憶封じの魔具。貴方の国は未来視が多いからお父様に話を持って行った方がいいわ。対価は要求されるでしょうけど、白虎の民を見捨てる事はないと思う」

「そうか……素材はやはり白虎の贈り物でよいのか?」

「眼鏡君のは白虎と朱雀素材で作ってるけど……未来視なら朱雀の方が良いんじゃないかしら。まぁ、天才だし星神素材なら何でもそれなりの形にするでしょ」


 天才だからで片付けていいのかとアルフォンスはいささか呆れたが、サイイドの表情を見れば希望を持っているようである。多少厳しい条件を突きつけられても民を救うために彼は飲むだろう。


「それでは後ほど英雄殿に面会せねばならんな」

「未来視持ちってサイ様の国では多いの?」

「うむ。ホシの図書館への接続者は同時期に一人、ないし二人というところだな。魔眼持ちの青狼は承知しているだろうが、余り長く生きられないのもあって、いない時期も当然ある。一番長生きした未来視持ちは三十歳前だったか。二つ程魔具を作ってもらい、霊廟にて管理が無難だろう」

「思ったより長生きしてた」


 アルフォンスが驚いたのは彼が自領にいた時に魔術師が集めてくれた資料では、二十歳を超えた記録すら稀だったからである。

 常時発動型の映像記憶と未来視では違うのかとも思ったが、ヒルダは納得したように口を開く。


「霊廟にいるなら星神の加護が強いでしょうからね。安定するのもまぁ分かるわ」

「うむ。それでも霊廟の外に出た場合はもっと早く摩耗する。一番長生きした者は殆ど霊廟から出ることはなかった。……個人的にはそれもどうかと思うのだ」


 あくまで限定的な保護なのだと言われれば魔具を欲しがるのもアルフォンスにも理解できた。


「うちの国では虚空接続者あんまりいないんだけど、何故か南国は多いのよねぇ。だからお父様は実際に能力者見て、魔術刻印書けた訳なんだけど」


 アルフォンス以前にノイ伯爵にとってのサンプルがいたと言われれば準備が良かったのも納得できる話である。元々は南国を拠点とした傭兵集団だったのだ。


「ちなみに過去視の場合は不思議と未来視より長生きする。それでも最長で四十前後だが」

「え?そうなの?長いね」

「うむ。理由は私にもわからん!!」


 驚いたように言うアルフォンスに胸を張って返事をするサイイドであるのだが、ヒルダは小さく首を傾げて口を開いた。恐らく星神の相性の問題だろうと。

 一番最初にノイ伯爵が作ろうとしていた虚空接続封じは三つの星神の素材を使う予定であった。朱雀・黄龍・白虎。手に入りやすさも選択の一因ではあるのだが、白虎の素材は過去視と相性が良く大きく負荷軽減をする。


「あ、そうなんだ。朱雀は未来視と相性がいいの?」

「そうよ。本来は貴方の映像記憶封じは全部黄龍か青龍の竜種素材で作るのが一番良いのだけど……私の腕じゃちょっと加工が厳しくて。私が加工しやすい朱雀と白虎で補助能力底上げするつもりなの」


 アルフォンスは多少魔術刻印の事を教えてもらっているが、例えば素材相性的な部分はわからない。

 けれど、ヒルダが難しい所に挑んでいることは薄っすらとアルフォンスにもわかった。


「そう言えば俺みたいな映像記憶能力者はいるの?」

「それが余り我が国ではいないのだ。未来視が一番多くて、次点が過去視だな」


 とはいえ、虚空接続者の能力単独権限は最終的に本人の体質的な相性の問題であるのはアルフォンスが証明している。彼は映像記憶が常時発動しているのでそれが目立っているが、やろうと思えば過去視も未来視もできるのだ。ただ、一つは無意識に使えたが、他はやり方を知らなかった。それだけの話である。

 恐らく南国の魔眼持ちもホシの図書館への接続者はアルフォンスと本質的な部分は同じだろう。


「うーん。もういっそ完全な虚空接続封じ作ってもらった方が良いわねそれ。この子はわざと分割してるだけで、お父様は元々は全部封じるつもりだったし」

「専門的な事は私にはわからん!!しかし我が民が健やかに過ごせるようにして欲しい」

「……わかったわ。後でお父様に手紙かいとく」

「恩に着る」


 深々と頭を下げたサイイドにアルフォンスは驚いたような表情を向ける。王族がそのように頭を下げる事が意外だったのだ。


「いいわよ。白虎素材融通してもらってるし」


 ひらひらと手を振ってヒルダが言い放つと、サイイドは嬉しそうに笑った。

 そんな中響いた声はヴォルフのもの。


「話すんなら座れ!!そんで茶位だせ!!」


 恐らく側近や護衛への対応が終わったのでこちらに来たのだろうヴォルフは扉を開けるなりそう言い放つ。それにアルフォンスは瞳を丸くしたが、確かに他国の王族に立ち話はないと思いヒルダに視線を送る。


「お茶淹れてこようか?」

「そうね。ヴォルフと行ってきて。青い箱の焼き菓子も出していいわよ」


 そう指示を出したヒルダはサイイドを応接室に案内することにする。基本的にここに来る人間は限られているので、作業工房の休憩室で事足りているのだが、ヴォルフの剣幕を見て一応客人対応をしようと思ったのだろう。普段は余り入らないのだが、清掃は行き届いている。

 そして向かい合ってサイイドとヒルダは椅子に座り、サイイドが長い足を組んでくつろいだところでヒルダは口を開いた。


「急かしたつもりはなかったんだけど助かったわ」

「いや、創立祭に合わせるつもりだったのでな。丁度いい」

「そんな時期なのね」


 ヒルダも学園に通っていたので一応行事は頭に入っているのだが、サイイドがそれに合わせてこちらに来た理由はわからず僅かに眉を寄せた。

 その反応にサイイドは苦笑すると口を開く。


「王妹殿下の件でな。同盟者から依頼があった」

「……あまり私は彼女の事は知らないんだけど」


 同盟者というのはリーニエ王国の王太子の事である。ヒルダやサイイドより一つ年上の男で、彼の妃がヒルダ達と同級であったのだ。王太子妃の卒業とともに盛大な結婚式をあげた上に、早々に懐妊したのもあり今のところ次期王として問題らしい問題はない。

 ヒルダもグラナードも王太子に関しては一応付き合いはあるのだが、その年下の叔母にあたる王妹に関してはほぼ接点がなかった。


「うむ。先王陛下の溺愛が過ぎて扱いかねてる上に、降嫁先がな」


 あぁ、とヒルダが納得したのは、高位貴族の降嫁先がほぼないという事情を知っていたからである。

 高位貴族だけではなく、貴族という貴族が王太子や年子で生まれた第二王子に合わせてせっせと子作りに励んだのもありヒルダの年代は非常に子どもが多い。側近候補、婚約者候補に己の子どもを送り込みたいという目論見があったのだ。

 そして無事に妃の卒業を待って王太子が結婚してしまえばあっという間に高位貴族は縁談をまとめていく。婿入り、嫁入り等の参考に家の格だけではなく学園での成績や素行を参考にするので、学園卒業までは候補は揃えても、婚約者を決定しない事が多い。うっかり婿に迎える者が無能でも困るという事だ。ただ、グラナートとアリーセの様に家の都合で早くから婚約を結ぶ家もないわけではない。ただ、王太子と同世代だった令嬢などはギリギリまでワンチャンを狙っていた。

 そんな流れの中早々に王太子妃の懐妊が告知されたために、次世代の席を狙いあっという間に高位貴族は婚約、婚姻をまとめる。

 そして王妹の降嫁先は、公爵家は全滅、侯爵家も没落寸前の名ばかりの家しか残っておらず、裕福な伯爵家が最低限の所になってしまった。一応高位貴族の未婚子息は残ってはいるのだが、次男以下の家督を継がないもの、継いでも家の持つ下位の爵位を継ぐものばかりでやはり王妹の降嫁先としてはやや厳しい。


「アンタの所に正妻にって言われたの?」

「旧き神の加護が強い娘は我が国では正妻になれない。花園に入れる分には構わんのだがな」

「あ、そうなの?」

「うむ。女神アリーセは土地神・八咫烏の加護が強かったから問題がなかったが、あの王妹殿下は駄目だ。今上陛下は鵬の加護が強いのに不思議なことだ」

「鵬は王妃殿下の土地神じゃないの」

「それでか」


 そもそも中央に神殿を信仰する者が多いというだけで、国が神殿の神を祀っているわけではない。あくまで国の機関として協力関係にあるというだけの話である。各地で教会や孤児院を運営する事でセーフティとして機能していたり、治癒能力者を他国に流さないように保護していたりする。

 神殿の神ではなく、土地神や星神を信仰することも国は禁止していないのだ。辺境などは赤狼の霊廟を作って大々的に祀っている。

 けれど南国は国を上げて白虎を祀っているので、土地神や星神はともかく、神殿の旧き神を嫌っていた。


「ともかく、我が花園へ何とかと言われているのだが、先王陛下も本人も頷かん」


 花園へ降嫁させることを推し進めているのは王太子。国王も先王の許可があればと消極的ではあるが賛成しているとサイイドは瞳を細める。


「しかし先王陛下の溺愛が過ぎて手放すのを嫌がる」

「まぁ、アレだけいた子どもが王位争いでほぼ息絶えて、早々に当時の婚約者の所に逃げ込んで息を潜めていた今上陛下しか残らなかった中、遅くに生まれた娘でしょ?」


 好色であった先王には正妃以外にも側妃が山のようにいた。今の国王は後ろ盾が弱い王子であったのだが、彼の婚約者に充てがわれた娘が強かったのだ。共倒れする王子たちを眺め、ここぞという時に己の伴侶を王太子にねじ込んでそのまま王位に押し上げた剛腕。国王自体は気のやさしい男であるのだが、ここぞという時の決断力は悪くないので、王妃と二人三脚で国を運営している。

 そして国王にしても唯一残った妹という事で、先王の気持ちを汲んでという形にしているのだろう。


「お父様はなんで国王陛下があそこまで彼女に気を使うのかわからないって言ってたけど」

「うむ。まぁ、その辺りは性格的な部分や環境もあるだろうな。しかし、先王陛下の溺愛が過ぎて問題も起こりそうでな」

「へぇ」

「見目麗しい男を侍らせているらしい」

「血って怖いわねぇ……国王陛下は王妃殿下一筋なのに」


 元々護衛騎士に見た目の良い男を選び近衛騎士団長を悩ませたのだが、学園へ入ればそれが更に学生令息にも及んだ。

 とはいえ王妹である。気に入られればゆくゆくは近衛騎士団、そして護衛騎士と出世できるだろうという家の下心もあり、侍る令息の婚約者が泣き寝入りという状態が既に起こっているのだ。いっそのこと婚約破棄にでもなれば王太子も口を出しやすいのだろうが、令嬢の方も実家から我慢しろと言われてしまえば口を閉ざしてしまう。

 無論婚約者のいない令息の場合も多いのだが、これはこれで王妹に侍る姿を見てしまえが令嬢が嫌がるとまとまるものもまとまらない状態。


「そういえば青狼もロックオンされてたぞ」

「あー、あの子顔いいわねぇ」

「うむ。颯爽と私が助けに入ったがな!!本人も心底どうでもいいと言うような顔をしていた。我が同盟者としては大きな問題になる前に我が花園へ出荷したいようだ」

「まぁ、気持ちは分かるわ。学生時代の火遊びですむうちに出荷先決めたいって話なのね。難儀ね」


 呆れたようにヒルダが零したのもしかたがない。そして、サイイドの花園が選ばれた理由も納得できた。あそこなら性格や素行に難があっても問題はないだろうと。


「なので創立祭でエスコートなどをして、先王陛下に問題がないとアピールでもしようかと思ってな」

「アンタのそういうマメな所偉いと思うわ」


 褒められれば嬉しいのだろう、表情を緩ませたサイイド。その表情を呆れたようにヒルダは眺めた。

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