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【本編】伽藍洞の君と朱の姫  作者: 蓮蒔


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「遅くなりました」

「いえ。急な話に対応くださりありがとうございます」


 学園の寮にある応接室。外部からの客が寮生を呼び出す時に案内されるその場所に佇んでいるのは、昨日サイイドと一緒にいた側近の男。

 見るからに南国風の衣装を纏っている事もあり、珍しそうに寮生が視線を送っている。

 しかしながらそんな視線にも慣れているのだろう、涼しい顔をしてアルフォンスに頭を下げた。


「学園の馬車止めにて殿下がお待ちです。少々歩いて頂く事になりますがご了承ください」

「それくらいなら大丈夫……です」


 口調はどうしたら良いのだろうかと一瞬アルフォンスは迷って取ってつけたように丁寧語に直す。すると側近の男はおっとりと微笑んだ。


「どうぞ口調はお気遣いなく。我が主の朋友様に下手に出られてしまいますとチグハグになってしまいますので」

「……そう?」


 国が違えば習慣も違う。相手がそうしろというのならそうした方が良いかとあっさり納得したアルフォンスは小さく頷く。


「では」


 そう言って寮を出る二人。フランツなど朝食の時に心配そうにあれこれ言っていたのだが、ヒルダの転がり込んでいるミュラー伯爵邸宅は馬車で行けばさほど時間はかからない。適当に話を聞いておけばいいかと楽観的に考えていたアルフォンスであるが、昨日少し疑問に思ったことを側近に問いかけた。


「質問したいんだけど」

「私で答えられることであれば」

「俺に好かれる要素あった?」


 フランツ曰く、アルフォンスは公衆の面前で王妹に失礼とまでは行かないが不敬ギリギリの対応をしていたと言われ、彼はそれを聞いて気に入られる要素がないと不思議に思ったのだ。もっとも、人助けは気分がいいというようなことも言っていたので、割って入ってきたのは気まぐれなのだろうが、以降一気に気に入られた意味がわからなかったのだ。


「……端的に申し上げれば……好きなものを共有できると思われたのかと」

「好きなもの?」

「はい。我が主の心の友である狂犬様と朱雀姫様を慕っているという点。そして朱雀姫様に命を救われたという共通点。恐らくこの辺りが殿下の琴線に触れたのだと思われます」

「あぁ……まぁ、え。それでいきなり朋友?」


 薄っすらと理由はわかったのだが、だからといって一足飛びに朋友と言われたのは流石に意味がわからなかった。


「青狼様……どうか末永く殿下と仲良くしていただきたい」

「はい?」


 この人も青狼と呼ぶのかと考えている中の申し出に思わずアルフォンスは疑問形のような返事をしてしまう。

 普通であるなら側近として、身分も国も違う人間など安全面を考えればそばに寄せないに越したことはないだろうとアルフォンスは思ったのだ。


「あの方はこの国にいらっしゃるまで孤独でした。そして漸く友と呼べる方と巡り会えた。その上、朋友まで……あの方に仕えるものとしてこんなにうれしいことはありません。ええ、我々はあの方のお身体を守ることはできても、お心をお守りすることはできないのです!!」


 突然の力説にアルフォンスは少しだけ眉を寄せたが、真剣な表情を見れば本気で側近がそう思っているのだと感じる。

 ただ、アルフォンスとしては何故そこまでという気持ちがあった。

 それが表情に出たのだろう、側近は困ったように少しだけ微笑む。


「……貴方が朱雀姫に救われたように、私を含むサイイド殿下の忠臣は皆あの方に救われたのです」


 兄弟に暗殺されかけていたと言うグラナートから聞いた話をアルフォンスはぼんやりと思い出す。この国と比べれば物騒な国柄なのかもしれないと考えながらアルフォンスは口を開いた。


「孤独だったかもしれないけど、アンタ達がいたことは生きる意味にはなってたんじゃないの」

「……生きる意味ですか」

「物騒な国だって聞いてる。たとえ孤独だったとしても、アンタ達を守るために生きてもいいって思ってたんじゃないのあの人」


 サイイドのことなどよく知らない。けれど、臓腑がボロボロになっても、味覚を失っても、それでも生きていたのだ。半日耐久しきったとグラナートが言っていたので、きっとのたうち回りながらも生きることを諦めなかったのだろう。生き汚いと言えばそれまでなのだろうが、生きることで恐らく守れるものがあることを知っていたのではないかとアルフォンスは思う。でなければこんなに慕われないだろうとも。


「ありがとうございます青狼様」

「……なんで礼言われたの俺」


 声を震わせてそう言った側近に対し、アルフォンスは小さく首を傾げた。




「なんでコドクって呼ばれてるの?」


 満面の笑みで迎えられたアルフォンスは馬車ではサイイドの正面に座る事となる。いきなりの質問であったのだが、サイイドは嫌そうな顔はせず、寧ろ口調が非常に砕けていることに満足して嬉しそうに口を開き話を始めた。

 砂漠の末の王子。兄弟は全て同腹であるのだが、一番歳の近い兄弟から執拗に狙われ続けた。


「まぁ、私は顔も良ければ頭も良かったから妬んだのだろう」


 自己肯定が高いなと思いながらアルフォンスは頷く。チラリと一緒に馬車に乗った側近や護衛を見れば、彼等も頷いている。

 外敵から襲われるような暗殺は忠誠心高い護衛が何度も撃退してくれたのだが、毒に関してはどうしても防ぎきれず何度も生死の間を彷徨った。それでも運が良かったのか生き延びた。そんな人生。

 そしていよいよ王太子を決めるとなった際に、サイイドは隣国であるリーニエ王国へ行くのを決めたのだ。


「表向きは何かしら交易などで有利な条件をもぎ取って国益をと言う形であったがな。私は子飼いの臣下を連れて逃げ出したのだよ」


 笑いながらサイイドはそう語る。兄と敵対するのは嫌だったし王位にも興味はなかった。けれど周りがそれを許さなかったので、やる気があると見せかけて、ほとぼりが冷めるまで何もせず、選ばれないことを選んだ。

 そして学園に編入し、グラナートやヒルダに出会ったのだという。


「……あの者達は私が逃げ出したのも知っていたし、孤独なのにも気がついていた。かわすことばかり上手くなっていた私に正面から喧嘩を売ってきたのだ」

「喧嘩を売ったのはサイ様では?」

「女神アリーセなら私の孤独に寄り添ってくれると思ったのだ。うん。私の方から売ってるな喧嘩」


 可笑しそうに口元を歪めてサイイドは笑う。懐かしむようなそんな緩やかな表情を見せながら彼は言葉を放つ。


「学生時代に呼ばれていた名を大人になってからも使うというのも……こう……中々仲良しっぽくて良くないか?フフ……心友っぽい……」


 恥じらう乙女のような表情でそんな事を言われてもアルフォンスとしては困るのだが、彼にとっては大事なあだ名なのだろう。コドクなど褒め言葉ではないと思うのだが、狂犬呼びしているのでお互い様なのかもしれない。


「どこからどこまでが朱雀姫の仕事かわからなかったから面倒だし全部治癒したと言われた時は驚いたなぁ……口は悪いが狂犬は優しい……。朱雀姫も私に解毒魔具をくれたし……」


 多分本当に面倒だったし、解毒魔具は口止め料だったのではないかとうっすらアルフォンスは思ったのだが、美しい思い出を壊す必要もないだろうと適当に頷く事にする。面倒な人間だから目をつけられるなとグラナートには言われていたが、彼の声色にサイイドへの嫌悪感はなかったので、多分グラナートはサイイドを面倒だとは思っているが嫌いではないとアルフォンスは思う。ヴォルフ曰く、グラナートは基本的に邪魔だと思ったら徹底的に潰す執念深いタイプなのだ。


「狂犬は手紙をくれるし、朱雀姫は私の管理するオアシスに魔物を狩りに来てくれる。私の事を忘れずに気にかけてくれる……優しい」

「南国はこの国にいない魔物もいるから」

「そうなのだ!!朱雀姫を喜ばせる事ができるなら多少の魔物被害も容認できる!!それに不要な部分はホシの資源として返してくれるからな。我がオアシスも潤う」


 ホシの資源というのは魔物を土に埋めたり水源に沈めたりすると一週間程度でその形を失い、土地を豊かにするのでそう言われている。地表に放置したままの場合は不思議と野生動物同様腐敗していき、いくぶんかの養分になるのだが、魔物の場合は圧倒的に土に埋めるか水源に沈めるほうが良い。実際辺境など魔物が多い土地の森林が深いのもこのせいだと言われているのだ。

 しかしながらリーニエ王国では常識であったこの知識は南国では余り知られていなかったらしく、まだ傭兵団をしていた頃のノイ一族が砂漠にオアシスを作ったと英雄扱いされているらしい。魔具を作るために魔物を狩り、不要な部分は全部砂漠の同じ場所に埋めていた。自分たちの拠点を作るための行為であったのだが、痩せた土地にオアシスが発生するなど誰もはじめは信じなかったが、結局三つ目のオアシスを作った辺りで国王に呼ばれ、まだ少年だった頭領フレムデは南国の英雄の称号を得たのだ。

 ヒルダが南国へ気軽に魔物討伐に行けるのは、サイイドとの縁も当然あるのだが、英雄である父親の名も大きい。


「そういえばノイ伯爵は南国では英雄だって聞いた」

「うむ。ホシの資源の事を教えてくれたからな。お陰で交易拠点のオアシスも安定した運営ができる!!砂漠が多すぎるのだ我が国は!!いずれオアシスや緑地も増えるだろうが、魔物の数が足りない気がするな!!」


 とりあえず決まった場所に魔物を埋めてオアシスを作る。そこを拠点にまた魔物を狩ってと気の遠くなるような作業である。それでも何もしないよりはいいのだろう。


「星神を祀る一族同士協力関係が築けて私は嬉しい」

「南国は……白虎?」

「そうだ。国を上げて祀っている。リーニエ王国は神殿の旧き神を主に祀っているから中々大規模な交易もできなかったのだがな」

「旧き神?」

「気を悪くしたのならすまん。我が国ではそう呼んでいる」


 グラナートが土地神の加護が強いとサイイドは褒めていたので、いつか聞いたように、星神と神殿の神とは仲が良くないのでそう呼んでいるのだろうと思いアルフォンスは小さく首をふる。


「俺は拝んでないから」

「青狼は朱雀の加護だからな!!見ればわかる!!」

「俺にはわからないけど」


 ただ、ノイ伯爵が自分を見て加護なしだといい切ったのを考えればそのようなものがわかる人間がいるというのはアルフォンスも理解している。その上国を上げて星神を祀っているのだ。信心深い彼等に加護とやらが見えてもおかしくはない気がしていた。


「サイイド殿下。ミュラー伯爵邸に到着いたしました」


 馬車の外から声をかけられたサイイドはいささか話足りないと言うような表情をしたのだが、馬車に一緒に積んでいた箱を自ら持つとアルフォンスと一緒に降りる。

 その際に側近が一切荷物に手を伸ばそうとしなかった所を見ると、何か大事なものが入っているのだろうとアルフォンスは考えた。王族自ら運ぶ荷物。


「いらっしゃいませアルフォンス・ランゲ様。……えっとそちらは?」


 通い詰めたために門番に顔を覚えられているアルフォンスであるのだが、サイイド達に対しては困惑したような表情を向けているので、アルフォンスはサイイドの方に呆れたように視線を送る。

 基本的にミュラー伯爵邸はその立ち位置上産業スパイなどを警戒して人の出入りは厳しくチェックされているのだ。


「サイ様。先触れは」

「うむ!サプライズ!!というやつだ」

「……とりあえずヴォルフさん呼んで」


 先触れもなしに屋敷を訪れるのはアルフォンスのようにヒルダの元を訪れるなら不要と言われているならともかく、普通であるなら基本マナー違反である。しかも他国の王族。

 そして門番に連れられてやってきたヴォルフは、サイイドの顔を見るなり膝から崩れ落ちた。


「目ェつけられんなってグラナートに言われたろ坊主!!」

「不可抗力。ヒルダに用事あるみたいなんだけど」

「うむ!久しいな赤狼」

「工房にいっけど……作業に集中してたら出てくっかわかんねぇぞ」

「では朱雀姫に伝えよ。所望の物を持ってきたと」

「……わかった。とりあえず工房に案内する。侍従と護衛も一緒か?」

「女神アリーセの滞在する屋敷で問題などおこらんだろう。休ませてやってくれ。なんせ強行軍で来たからな」

「そうか。ちょっと家令に伝えてくっから、坊主、殿下を案内してやってくれ。ヒルダが頼んだモノ持ってきたって言えば出てくんだろ」


 言うことを聞いたほうが楽だと恐らくヴォルフは知っているのだろう、さっさと頭を切り替えると、サイイドの案内はアルフォンスに投げて本館の方へ走っていく。

 それを見送ったサイイドとアルフォンスはヒルダの居座っている離れへと向かった。


「あんまり護衛がべったりなタイプじゃないんだ」

「恐ろしいことに私には武芸の才能もあってな!!」


 自慢気に言い放つサイイドを眺めアルフォンスは意外そうな顔をした。どちらかと言えば細身で武芸に縁がなさそうに見えたのだ。けれど例えばグラナートも、ヴォルフに比べれば色白で華奢なのだがデタラメに強いので、人は見かけによらないと言う事だろうと納得する。


「それでも護衛を頼ることはある。流石に人数が多いと私でもさばききれぬからな。いつも気を張っている彼等も、狂犬と朱雀姫のお膝元なら安心して私から目を離せるだろう」

「……へぇ」


 他国の王城に滞在するだけで護衛などは摩耗すると言われればそれもそうかと納得できた。それが仕事だと言われればそれまでなのだが、臣下を気遣う気持ちがサイイドにはあるのだろう。慕われるわけだ、そう考えながらアルフォンスは視界に入った離れへと歩調早めた。

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