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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
28/29

不可視

 青く雄大な空に不死鳥(フェニックス)が飛ぶ。

 敵国の魔剣士、エイナ・ヴィデーンの魔法だ。通常なら敵陣目掛けて放ち、死を呼ぶ鳥となる。だが、開戦式に於いては合図として利用された。

 そして、その壮大な殲滅魔法に目を光らせる妖精がいた。

 帝国軍五帝士の一人。魔剣士アンダー・ルーンだ。

 妖精の美貌を兼ね備えた緑髪のアンダーは得物を鞘から抜きだす。

 (ガード)がクルリと巻かれ葉脈を綺麗に再現した片手剣型の魔剣だ。一目見るだけで森を象っていることが理解出来る。

 聖剣にも思える美しさを醸し出しているが、そこに妖精や神の類いの神性は宿っていない。

 アンダーは魔剣を抜くと背中で士気を高めつつ待っている軍兵らに視線を向けた。


「エドゥアルド、もう良いのですか?」


 それから心配そうな視線を自分より小さい男の子に向ける。

 エドゥアルドと呼ばれた少年が「はい」と小さく微笑み返すと彼女は口を綻ばせて視線を戻した。

 それから深く息を吸っては吐いてを、二回繰り返すと再度大きく息を吸って喋りだした。


「これから私たちは、経験上最大の苦しみを味わいます」


 拡張された声が横長に隊列を組んだ総勢三十万人の兵士の耳に入る。

 すると、帝国軍兵達の注目は自然と帝国最強の魔剣士(グラムラー)で、聖女と謳われるアンダー・ルーンに集められた。


「その苦渋は痛みだけのものではありません。仲間や誰かの死、終わりの見えない暴虐の繰り返し。そこから生まれる生命の恐怖は心の根幹を貪り尽くし、崩壊させてしまうかもしれません」


 美しい声音で語られる彼女の演説は不確かな未来を見据えた内容だった。


「そんな時は逃げても構いません。身の危険を、心の危険を感じたら逃げて下さい。ですが、その恐怖はいつしか貴方に立ちはだかります」


 逃れらない恐怖を、定められた運命を。


「そんな時こそ私たちを頼って下さい。私は何処にも逃げません。例え共に戦う仲間が次々と居なくなっても私たちには護るべき人がいる」


 自分はなんの為に犠牲の上で戦うのか。

 それは見知らぬ誰かを、血肉を欲する運命(さだめ)そのものから護るため。


「だからこそ私たちは己の身を犠牲にしてでも戦うのです。さあ、今こそ決戦の時です!!」


 その号令と共に紅色の鎧を見に纏った兵士達が雄叫びを上げて駆け出した。


「ふう、流石にこれは大変ですね。以前の魔剣士団長はこんな事をしていたのですか?」

「そんな事僕に訊かれても……」


 エドゥアルドはその幼き容姿で頭を掻きながら「あはは」と空笑いをした。


「それもそうですね」

「アンダーさんは、いつ出るんですか?」


 足を動かさずただ立ち尽くすその聖女にエドゥアルドは疑問を溢した。

 後輩のようで弟のようにも見えるエドゥアルドに質問を投げ掛けられ、アンダーは微笑みを向ける。


「私は親玉が出たら出るつもりですよ」


 この会話に於ける「出る」と言うのは出陣の意を込めての「出る」だが、一向にアンダーは動かない。


「エイナ・ヴィデーンならもう出てますよ?」

「えっ!?」


 エドゥアルドからの衝撃の告発を耳にしてアンダーは素っ頓狂な声を上げてしまう。

 その声を聞いて駆け出す兵士達にも思わず足を止める者が出てしまった。


「暗殺などの技術(スキル)に長けた者なら分かりますがグラムウォルフ隊隊長は既に前線で暴れ回ってますよ」

「え、でも魔力の波が全く感じられないけど……」


 アンダーは索敵魔法を半径五キロ圏内にまで拡大し発動するも、エイナの魔法を感じない。


「そりゃ武力だけでうちの兵士を叩き落としてますからね」

「はぁ……?」


 呆れの溜息か、怒りの溜息か、或いはその両方か判別の付かない中途半端な溜息を吐く。


「こういう時ってどちらかが優勢を勝ち取るまで首を洗って待つんじゃないの?」

「いや、それは初耳ですね」

「……」

「……」


 凝め合ったまま無言の時が流れる。


「っていつまで見てるんですか!?」

「なんかエドって可愛い……ですよね」

「――!?」


 エドゥアルドの顔が一瞬で赤く火照る。

 子供のよう――実際にまだ子供なのだが――な初々しさを匂わせる反応にアンダーは聖女の如く可愛らしく微笑んだ。


「冗談ですよー」

「むかー!!」


 猿のようにキィキィと叫ぶエドゥアルドにアンダーは面白可笑しく笑った。



 ◆ ◆ ◆



 帝国戦王国陣営最前線北部側。

 レンとは全くの逆の方向。そこに配置されたレンの幼馴染みアリスは帝国の魔剣士を相手に苦戦を強いられていた。

 

「これじゃ埒が明かないじゃない!!」


 アリスは苛立っていた。もうムカムカである。これなら魔法抜きでお湯を沸かせそうだ。

 とは言え、彼女の頭が熱くなってるのも理由がある。

 敵が弱いくせに回復力と進行速度だけは一丁前に早かったからだ。

 こちらは一向に前進出来ず、ある意味立ち往生とした具合であった。

 同じ敵を周期的に斬り捨てては回復し、また斬り捨てる。不死者のような戦法を前に為す術が無かったのだった。


『アリス……猿かよ』


 レンから挑発の声が飛んでくる。


「だ、だってこっちの奴は……」

『取り敢えず、燃やしてみたらどうだ?』


 煽らて不貞腐れた気持ちもあるがアリスはそれを耐えてレンの言う通りに行動に移した。


「【灼熱(ブレイズ・)地獄(インフェルノ)】!!」


 忽ち炎が渦を巻いて敵を呑み込む。

 すると、不死身にも思えた帝国軍兵らの進行は止まり灰燼に帰った。

 味方兵から希望の声が上がる。


「これなら……!」


 不死者と例えても比喩は比喩だ。原型を留めず灰燼に帰った人を文字通り生き返らせる事は不可能。

 内心、流石レン! と称賛を送りたかったが、先程の不貞腐れた気持ちが心の約七割を占めていたため何も言わなかった。


「フェアラス、ラノア。同じ様にやってちょうだい」

「はい、アリスさん」

「良いわよ」


 アリスと行動を共にしていたエルフェイム出身の幼馴染み二人組みに命令を出す。

 同時に巻き起こる高温の炎は王国側の兵士の進行路を開き続けた。


「あいつは、まだかしら……。二人とも例の魔剣士が出て来たら私に着いてきて貰えるかしら?」

「はい、勿論です!」


 銀色の髪が弧を描くとフェアラスは元気よく頷いた。


「ありがとう」


 ラノアも前を向いたままだが反応を返さないので着いてくるのだろう。

 そして、その時は直ぐに訪れた。


「貴方が、魔剣士ね」


 アリスは見つけたぞと言わんばかりに指さした。その指先の向こうには討伐対象の魔剣士が口を噤んだまま杖を握って佇んでいた。


「……」

「二人とも」


 何か異様な雰囲気を放つその姿にアリスら一同は警戒心を剥き出しにする。

 魔剣士は細身の長身で赤黒いフード付きの外套を纏っている。フードを被っている所為で顔や目は見えないがこちらの動きを観察しているのには間違いないだろう。

 隠された素顔の中からギロリと白い眼光が向けられたその瞬間、アリスは咄嗟にその場を退いた。


「――――ッ!!」

「アリスさん!」

「大丈夫!?」


 アリスの急な回避行動に目を開く二人だが此処で、棒立ちするほど愚鈍では無い。二人はアリスに一秒遅れ、大きくバックステップをして距離を取った。


「……?!」


 突然の出来事に神妙な顔を浮かべるフェアラスとラノア。二人の知覚では認知出来なかったのだろう。

 だが、当のアリスにはしっかり()()()()()

 ――魔法で形成された不可視の剣を。

 それも一本や二本ではない。少なく見積っても百は下らない無数の見えざる剣が自我を持っているように自由自在に宙を踊っていた。


「これは確か……!!」


 アリスはレンとの間柄上、彼の好きな事にも興味を示す癖がある。その彼は書物を読み漁り魔法の知識を蓄える事が趣味だった。つまり、アリスもレンには劣るものの、それなりの魔法知識を知らず知らずに頭に叩き込んでいたのだ。

 そして、アリスは気付けば自分の図書館から該当する魔法の名前を叫んでいた。


「古代の魔法……【無窮不剣(アルゴス・グラディス)】?!」


 外套に隠されたシワシワの口元がにっとりと不敵に笑う。

 その瞬間、戦慄が駆け巡った。

 魔剣士は挙動も見せずその場から一歩も動いていない。

 本当に、一瞬であった。数多の不可視の剣を行使するのに身体を動きは必要ない。


「貴方たち、逃げて――!!」


 アリスが警鐘を鳴らす。

 たが、熟練した魔法の使い手に一秒、二秒もの隙は致命的な攻撃を仕向ける分には十分な時間だった。

あ、え〜っと……。

更新しました!!

はい。

今回は前回お伝えした通りアリス視点になっております。

前回の更新からかなり間があいたのでほぼ覚えていないのですが、確かゲームのイベントでやらなんやらと言っていたと思います。

今回も同様デス。


さて、次回ですが引き続きアリス視点で例の魔剣士と戦わせていこうかなと思っています。意外とレンと最初の魔剣士の戦いはあっさりとしていたのですが、今回は伸ばし戦闘シーンを多めにかけたらいいなと考えています。

宜しければそちらも読んでいただけると幸いです。


では、最後に!

読書の皆さん最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回こそ、早く投稿できるように精一杯励みますのでよろしくお願い致します(_ _*))

それでまた次回お会いしましょう。

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