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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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絶望の光

 ――遅かった。


 その後悔が脳裏に浮かんだのは恐慌がこれまでになく凝縮された一瞬を受け止めた時だった。


「……」


 覚束無い焦点の中やっとのことで瞳に映ったのは、残忍に亡き者にされた無数の兵士達。そして身体の所々が切り開かれ赤く滲ませながら地面に倒れ伏しているフェアラスとラノア。その二人の双眸から光を微塵も感じられなかった。


「小娘。舞台は整った」


 それは戦闘の鉦鼓(ゴング)で、狂気の幕開けだった――



 ◆ ◆ ◆



 同時刻。アリスのいる位置から南方に約2キロメートル。

 心を落ち着かせたレンは、川が上流方向を眺めていた。


「あそこは確かアリスの……」

「ジェラルドぉ、どうしたの?」


 怪訝そうな表情を浮かべるレンにルミナが心配の眼差しを向ける。


「いや、今ぶつかったのを確認しただけだよ」

「何が?」


 何も答えないレンにルミナは首を傾げる。


『ジェラルドさん。完了しました』


 耳の中でヴォンヌからの準備完了の通信が響き渡る。

 俺は分かった、と一言その場で囁いてから即座にヴォンヌと合流した。


「ジェラルドさん。もう一度言いますが無理はしないで下さい」

「何言ってるんだよ。見たら分かるだろ? やる気満々じゃん」

「……」


 はぁ、と呆れた溜息を吐くとヴォンヌは自分の得物である大剣(グレート・ソード)を背中から抜き出した。俺は存外フィットしたその大きさに買って良かったなと暖かい視線を向けた。

 すると、()()に勘のいいヴォンヌはジト目でこちらを睨み返してした。


「貴方が壊したんですから、その親が子供を見るような視線はやめてください」

「うっ……。だ、だって有り金(はた)いて買ったんだから!」

「自業自得ですよ」


 先に喧嘩を店頭に置いたのはそっちだろうが、とキレ気味に言い返したかったが抑えた。今喧嘩しても無駄だからである。


「さ、さて。もう動くぞ」

「ええ」


 返事をしたのは灰色ツインテールを両肩に下げた幼い容姿のミシェルだ。


「ヴォンヌ、任せるわ。私とこいつで数を減らす」

「はい、分かっていますミシェル。気を配らなくて良いのでさっさと行ってください」


 薄らと笑みを浮かべ、ヴォンヌは言い返す。

 同じくミシェルもふっ、と笑ってヴォンヌに背中を向けた。


「じゃあ行くぞ、ミシェル」

「突撃!!」


 待った無しとでも言うかのようにミシェルは先を急いで空高く跳躍し、そしてその勢いのまま敵陣ド真ん中に地面を崩しながら着地した。

 自分もすかさずミシェルに続いて敵陣に攻め込む。


「さっきのと比べると余裕だな」

「当たり前でしょ?」


 数十分前の魔剣士と比べると見劣りする一般兵士を見て二人は、蟻を蹴散らす様に敵兵を続々と撃退していった――。



 〇 〇 〇



 フードを被った魔剣士から戦闘の鉦鼓(ゴング)が告げられまだ一分も経っていない。

 なのに――。


「――――ッ!!」


 肉眼では捉えられない無数の剣が宙を舞って襲い掛かる。

 アリスはその不可視かつ膨大な量の剣に劣勢を強いられていた。

 カキーンッ!!、と剣が交じり合う甲高い音が連続で発生する。

 魔法で創られた見えぬ剣が、途絶えることを知らぬ怒涛の勢いでアリスの魔剣との交錯をやめない。


「どうした小娘。私の魔法を見破っただけで終わりか?」

「……ち、……がう!!」


 戦況を細かく分析していた中で、投げ掛けられた嘲笑にアリスは怒りの矛先を向ける。

 だがそんな事を言っても現在の絶望的な状況に変化は無く、アリスは魔剣に備えられている魔力を使って空中の剣を片っ端から切り砕いて行く。


「ほう……」


 震えるような声で意表を突かれた声が零される。

 外套を着た魔剣士の口元、がニヤリと動く。その途端アリスに襲い掛かる蜂の如き無数の剣は、荒れ狂う暴風の様にその勢力を増していった。


「う……、あっ……」


 舞い向かって来る魔法の剣を防ぎきれず、腕や脚、横腹に傷を負う。その痛みからアリスは声にならない苦悶の叫びを上げた。

 だが、手は止めない。止められない。一瞬でも腕を休め隙を作ればこの首は撥ねる。少なくともこの帝国の魔剣士にそれは容易くやれるだろうとアリスには分かっていた。


「こちら、アリス! 救援を……誰か、お願いします……」


 自分一人ではこの場を切り抜けられない。それを悟ったアリスは剣雨の嵐が止む一瞬の隙で応援を要請した。

 だが、返事は返ってこない。


「エイナさん!!」


 焦燥に駆り立てられ目前の魔剣士すらも忘れてアリスは隊長の名前を叫んだ。

 しかし――その応答はいくら待っても来ることは無かった。


「これだけ魔力を攪乱させて、その魔法が届くとでも?」

「え……?」


 そして、アリスは自分の仕出かしていた事に気付いた。いや、背けていた事実にやっと目を向けたと言うべきかもしれない。


「う……、そ……」


 五感ではない別の感覚で辺りを見渡す。すると、そこは爪で掻き乱されたように魔力の暴風が吹いていた。

 絶望の末に失いかけていた意識が覚醒し現実を受け止めまいと必死に失神の信号を発する。

 そして悪魔を呼ぶ運命は更に駆け出していく――。

 突如パリン、と金属が割られたような音が手元から鳴った。


「ふ、逃れようと渇望するが故に魔剣も力尽きたか」


 魔剣は生を終えて悲鳴を上げながら砕け散る。

 それを眺めていた外套を被った魔剣士は一層絶望の淵に染まるアリスを嘲笑う。そして、不敵で下卑た表情を浮かべながら一歩、一歩と地面に手足をついたアリスに近付いた。


「い……、や……」


 手足が震えて身動きが取れない。それは今までに無いぐらいの無感覚で心をも揺らめかせる程だった。

 さらに、魔剣士は接近し杖のようになるまで錆びた魔剣をアリスの白く艶めかしさを放つ首に向けた。


「もう、逃げないのか」

「ひっ……」


 その言葉は最後の慈悲なのだろう。しかし、突きつけられた現実を前に立ち上がる事も喋る事すらも、出来なくなっていた。圧倒的なまでの魔剣士としての強者。所詮、(レン)の創った道を歩んだだけの紛い物では到底抗えない暴力。今の自分では勝機の風すら吹かないだろう。

 黒に塗り潰された思考の中でそれだけが厭厭目立っていた。


「そうか、ならば」


 魔剣士が錆びた魔剣を高く振り上げる。

 アリスの目尻からは水粒が瞬きとともに頬を濡らす。


「……レ、ン……ごめん……ね」


 咄嗟に口から出た最後の言葉は涙と共に溢れ落ちていった……。

大事な用事が山積みのまま向かって来た為、大変投稿が遅れてしまいました。すいませんm(_ _)m


そして、今回の内容ですが

前回言った通り? アリスと魔剣士の戦闘です。

抗えない暴力の差。圧倒的なまでの魔剣士としての経験値。

それら全てがアリスを潰す内容です。

書くならもっと残酷にしよう考えていたのですが、

メインヒロインにそんな事はさせられない!! と自分の中で反発が生じまして、微妙な雰囲気になった次第です。


そして、次回予告ですが……。

まぁ、続きです。

まだ色々と構想中なのでまた投稿が遅くなってしまうかもしれませんが、また読んで頂けると幸いです。


では、

読者の皆さん! 最後まで読んでいたただきありがとうございます。

また次回お会いしましょう!

それではマタネ*˙︶˙*)ノ"。

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