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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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対帝国戦同盟〜後編〜

 ミスティルテイン隊が王都セドウェルに着いてから八日目。

 昨日まで貸切っていた円形闘技場(コロッセオ)は長期間の独占状態により暫くの間、使用を禁じられてしまった。

 特にやる事の無い二隊は、暇を持て余すため外出を試みたが各副隊長の声に脚を停められてしまっていた。


「そろそろゼルメガン軍とオルダー隊が到着しますので、身支度を済ませておいて下さい」


 数日ぶりに見たウィクトリアの顔は(やつ)れていた。

 目元に出来た隈。いつものように健康体なウィクトリアなら、絶対に忘れることは無い筈の彼女の魔剣。それら全てがこの空白の数日間の過酷さを物語っていた。


「うぃ、ウィク……。だい……じょう、ぶ?」


 責任感を苛まれているのか隊長であるエイナが内気にウィクトリアの体調を探る。


「――っ大丈夫な訳無いでしょがああああああああ!!」

「ひぇっ!?」


 急な浴びせられた怒号に俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 対してエイナはこの結末が目に見えていたのか既に苦笑いでペコペコと謝罪を繰り返していた。


「隊長慣れてそうですけどいつもこんな感じなんですか?」


 長方形の食卓(テーブル)を囲む椅子に座っていた俺は隣に居るルーラに話し掛ける。

 セシャリの人柄もこの二ヶ月で大体掴めた。見た目の子供っぽさとは裏腹に戦闘に於いては副隊長の次に指揮を執るのが上手い。事の流れを完璧に把握して全てをある程度思い通りに動かせるぐらいの知恵者だ。

 副隊長に訊いたところによると国からセンテルズ軍の参謀本部への加入を持ち掛けられているらしい。だが、その言葉をひらりひらりと躱しているとのこと。目を盗んで逃げ出される伝達者は呆れ果て仕事を辞めたのも噂になっていた。


「そうだよ〜! あの二人はいつも仲良し!」

「確かに腐れ縁ですもんね」


 戻って来た元気の良い返事に俺は感慨深く頷いた。

 残りの全隊員は叱咤されるエイナに目もくれず各自の自室へと戻って身支度をした。

 無論その間も休む暇もなくウィクトリアは怒号を撒き散らし、この喧騒が静まったのは開始から五分後のことだった。


「今回は智竜人(マアト)です。国が国なのでその軍数も多い。よって各自で動いて全体を仕切ってもらいます」


 そう言うとウィクトリアは皆が円を成して囲む食卓(テーブル)にゼルメガン軍の詳細が載った紙を広げた。


「私はやってくる全軍を仕切るため動けません。またエイナにはオルダー隊、ミスティルテイン隊の皆さんと再度王宮へ言ってもらいます」

「オルダー隊の詳細書類はある?」


 そう言うとウィクトリアは一言「あります」と述べてから無言で丸まった用紙をエイナに手渡した。


「オーケー。じゃあ私はサッと名前を覚えてくるわね」

「では、残った皆さんの担当する連隊を言っていきますのでよく耳を澄まして下さいね」


 ウィクトリアの言ったところ俺は第四連隊を任されたようだ。規模は三千人。大隊長三人で一人が受け持つ兵数は千人と、連隊としての数はかなり少ないが大隊として受け持つ人数は非常に多い。

 今回はその三人に俺も混ざり全体の指揮を執る事になった。要は一人で三千人の民衆を動かすのとは違い、四人で息がかかった三千人を動かすだけなので意外にスムーズと進むらしい。


 ――と、聞いていたのだが……。


「眠いー」

「眠いにゃー」

「眠そうですね」

「グッドモーニングうううううううう!!」


 皆さん眠そうである。

 第一声目を発した少女はミシェル・クリナだ。低身長で灰色ツインテールの子で一見幼く窺えるその容姿だが、実際の歳は百二十歳を超える。見た目は人間でもその血と身体は半分が竜だ。

 次に口を開き語尾が「にゃー」で終わったのは獣人のルミナ・バストさんだ。語尾通り猫の血が入っている。黒い頭の上に茶色のフワフワな猫耳がピクピクと動いているのが印象的だ。実に可愛い。初めて心の底から触ってみたいと思った程だ。

 そして最後に苦笑と共感を込めて二人の状況を言ったのが。


「あ、申し遅れました。私は智竜人(マアト)のヴォンヌ・ワイトです」


 ヴォンヌは優雅な佇まいで一礼した。

 彼女は真面目で知的な雰囲気を醸し出すお姉さん的存在だ。そしてこの中で最年長となる。資料に示したあった年齢は「百七十歳ぐらい」と少し曖昧だったが、途中から数えるのに飽き疲れたのだと解釈した。


「俺はグラムウォルフ隊レン・ジェラルドです」


 そう言って右手を差し出すと、ヴォンヌは快く握手をしてくれた。

 かと、思いきや腕越しに魔力が波のように流し込まれていく。


「あ、あの……」

「ん? どうしました?」


 そんなに笑顔で見詰められても裏に隠されている殺気がだだ漏れです。長い間エイナに指導(リンチ)されていたからか微かな殺意や殺気に反応出来るように順応してきた。


「はぁ……」

「――――――ッ!?」


 その瞬間ヴォンヌが手を離し俺との距離を作った。

 見据えた時には背中にあった筈の大剣(グレートソード)が剣先を俺に向け構えられていた。


「どうしました?」

「今……何を……!?」


 少し逆流させただけでこれだ。歳上の癖に大人気ない。


「あなた方は気性が荒いと聞いていたので。少し、ね?」


 力で全てを決めたがる野蛮人どもは力でねじ伏せるしかない。この際多少荒事になっても文句は言われないだろう。万が一問題になったら正当防衛と建前を付ければ大丈夫だ。


「――――貴様ぁ!!」

「おっと」


 ヴォンヌが怒声を上げた。

 その刹那彼女の姿が霞んで消える。視線を下に移した時には彼女は大振りの大剣(グレートソード)をブォンと俺の胴体目掛けて横に薙ごうとしていた。


 ――その時、カキーーンッ!!と言う甲高い金属音が響き渡り橙色の火花が散った。


「なっ――――!?」


 ヴォンヌの顔が青く驚愕に満ちた。

 そしてそれだけでは無かった。


「にゃッ!!」

「……またか……」


 ルミナの指先に備え付けられた鉤爪型の鉄装備がシュンっと空気を裂き俺の首に向けて伸ばされる。

 それを彼女が動き出す前に察知し避けた俺はヴォンヌの大剣(グレートソード)を魔剣で真っ二つに斬り捨て、無力化してからルミナに対峙した。

 ルミナが殴り掛かる様に左右の腕を交互に伸ばしながら俺に一歩一歩近づく。可愛らしい風貌は何処かに消え去り、残る可愛さは猫耳ぐらいだ。パンチを繰り出す度に耳がピクピクしている。


「可愛い……」

「可愛いって言うなああああ!!」


 しかし可愛い。ルミナが俺の一言に翻弄されパンチの精度を格段と低下させてしまう。最早大きく躱す必要も無い。俺は鉤爪の鋭く尖った部分だけを魔剣で切り落とした。


「ああー! 僕の爪が……」

「僕? あ、ボクっ娘なのね」

「違う!! 僕は男だああああああ!!」


 俺の胸に入り込みポコポコと涙目で叩くルミナ。

 こんなに可愛い男の娘は空想上の存在かと、思い込んでいたが実際に居たとは……。信じられない。

 だが、目の前の喜劇に意識を奪われている暇は無い。

 俺は飛んでくる飛来物を魔剣で振り落とした。


「あれ、防がれちゃった」


 銀色の針を左手の指の間に挟んだミシェルがそう呟く。

 三ステップで大きく距離を作った俺は上半身を横にし右手で掴んだ魔剣をミシェルに向けた。

 ここまで面倒事が膨れ上がると嫌悪感が増す。俺は無意識に発動していた強化魔法インテンシフィケーションの威力を更に伸ばしミシェルが追い付けない速度で彼女の武器を(ことごと)く破壊し無力化した。


「えっ――――!?」

「もういいだろおおお。それに油を売っている余裕も無いんだよおお」


 硬直状態になっていた三人の身体がふぅっと柔らかく動き出す。

 するとヴォンヌが口を開いた。


「分かりました」

「ふぅ……。じゃあ早速指示を出すからその通りに各大隊を動かして下さい」


 やっと気を休める、と俺は胸を撫で下ろしてから場所を移し小さな天幕へと向かった。中には大きな机が一つ置かれ王都セドウェル周辺の地図と第四連隊の移動場所が詳しく、載っていた。

 俺が喋り出すと三人は何一つ不服そうな顔も見せず、黙々と耳を傾けた。仕事に私情を挟まないのはとても有難い。先程の売り喧嘩はちょっとした腕試しだったのだろう。そう思う程にこの時の三人は真面目だった。


 話が終わり第四連隊も移動を開始し始めてから俺は先程の三人を呼び出した。


「何故呼び出したんですか」

「そりゃ、勿論さっきの事ですよ」


 俺は問い詰めるように言葉を並べた。


「確かに貴方たちは戦闘がお好きな戦闘狂だと聞きましたが出会い頭早々喧嘩売るとかなんなんですか!!」


 ミシェルとルミナが顔を合わせて苦笑する。

 何を他人事の様に笑っているんだ、と突っ込みを考えたが面倒なので止めた。


「ちょっと待ってください!! 戦闘狂って酷すぎますよ!!」

「でも書いてあるし……ほら」


 俺は右の後部ポケットに折り畳んであった紙を出し、ヴォンヌに手渡した。

 彼女が顔が徐々に赤く沸騰していく。


「裏情報まで書いてある……」

「でしょ? 寝る時は服が邪魔だから裸で寝てるとか」

「――い、言うなああああ!!」


 俺の口を必死に塞ぐヴォンヌ。

 なるほど、力以外でも屈服させられたのか。最初から隅々まで読み込んで置けばよかった。


「他にもルミナは街を歩いていると良くチャラい男性に連れていかれそうになるとかミシェルは低身長を気にして靴底を厚くしてるとか」

「ああああ、言うになあああああ!!」

「何でそこまで載ってるのおおおおお!!」


 心から悶える姿は腹を抱えて笑えるものだった。


 ある程度復讐も済んだ所で俺は本題に移った。


「今後の事だけどこの第四連隊は俺が指揮を執るから」

「まあ、何も言えませんね」

「そうですね、負けた身で文句も言えません」

「はい」


 納得はせずとも汲み取ってくれたようだ。


「じゃあ今後の事を言うね」


 三人の視線が俺に集められる。


「帝国戦の火蓋が切られるのが二週間後。開戦一週間前迄は戦闘演習を三軍の間で交互に行いながら準備を整えます」

「成程」


 ヴォンヌが小さく頷く。


「そしてこの第四連隊は三日後にそれがあるのでその日はまた指示を出しますね」

「分かりました」


 ルミナが耳をピクピクと動かしながら返事をする。

 可愛い。


「さて、他に質問は?」

「開戦時に於ける指揮者は誰になるんですか? オルダー隊のリロイ様ですか?」

「そう、俺とリロイさんになるよ」

「貴方もですか……?」


 ヴォンヌ、ルミナ、ミシェルが憂わし気な顔を浮かべる。


「何でそんな不安そうな顔をするんだよ」

「だってジェラルドさんは戦闘経験、ましてや指揮官経験も浅はかじゃないですか」

「うっ……」


 ぐうの音も出ない。確かに俺は指揮官としての経験はほぼ無い。ウィクトリアに多少、ご教授して頂いているがそれも基礎中の基礎。指揮官としては産まれたばかりの子鹿程度でしかない。

 だが、レイさんがいる。共有された意識の中で、戦術が得意なレイさんを通して下される判断はウィクトリアにも及ぶ。


「ま、まあそこは大丈夫。俺もある程度頭は回せるから」

「ふ〜ん」

「そ、それはさておきに二週間後は俺が担当するから宜しく」


 俺は最後の締めに机の紙を丸めながら改めて挨拶を交わした。



 〇 〇 〇



 同日の午後五時。グラムウォルフ隊宿舎。

 仕事が終わり宿舎に帰って来た俺は、腕捲りをして台所に立っていたアリーセに呼び止められた。


「レン、料理は出来るか?」

「え、まあ、少しは」


 腰に携えた魔剣を部屋に置こうと急いでいた俺は突然の呼び掛けにぎこちなさを心に感じながらも返答した。

 アリーセの質問だが料理の経験は多い方だと自負している。村に居た頃父や母が帰って来ない日があったがその時は自分で一から料理をしていた。勿論、母がレシピ等を台所の壁に吊るしていたから難無く完成出来たがその後も自分で料理をする機会が多々あった為、今では常人以上に作れる程まで成長した。


「では、手伝ってくれないか? 量が多くてな、いつもはウィクトリアと作っているのだが今日は忙しいらしい」

「了解! 取り敢えずこれ置いたら戻って来るね」


 俺は左腰に付いている魔剣を指差してそう言った。


「そうだな、四六時中身に付けていては荷が重くなる」


 アリーセが口を抑え、共感するように破顔一笑した。

 急いで魔剣を置いて来た俺は腕捲りをした状態でアリーセの元へと戻った。


「それで……俺は何をすれば?」

「う〜ん……」


 呼び止めはしたが何をして貰うか迄は念頭に置いていなかったようだ。

 暫しの時間が流れて思考の末にアリーセが思い付いたのはキャベツの千切りと各野菜の皮剥きだった。


「それだけで良い……の?」

「ふふ。レンこの隊の食材量を甘く見るなよ?」


 そう言ってアリーセがドサッと台所に置いたのはキャベツ一杯の箱だった。


「凶悪的な量だ……」

「だろ? この半分はハトリーが食べるんだ」


 いや、彼奴(アイツ)かよ!? 掌サイズまで成長したとは言えハエトリグモがこの量のキャベツを食べるとは到底思えないのだが……。

 そもそもクモは肉食な筈だ。本当にこれを食べるのだろうか。後で食事風景を拝めてみよう。

 そんな事を考えながらアリーセに言われた通り包丁を握り黙々とキャベツを細かく切り進める。

 箱の中身が半分程消え俺の手が後半に移ろうとした所で玄関の方からドアが開く音がした。


「あぁぁぁぁぁ……」

「ちょっとエイナ、家に着いたからって力を緩めないで下さい!」

「脚がガタガタなのぉ……」


 ふむ。脚がガタガタだそうだ。


「しかも今夜もあるんでしょぉ」


 更に今夜もあるそうだ。


「もうあの男達の相手をするのが嫌になってくるわ!!」


 男と夜……。しかも脚にくると……。

 一体全体何をしていたんだ!?


「あ、隊長にウィク。お帰りなさい」

「うん、ただいま」

「はい、ただいま帰りました。レン君の方はどうでしたか?」


 ウィクトリアは「仕方がないですね」と溜め息を吐きながらエイナを背に乗せ、俺に報告を迫った。


「ありがとー、ウィクー」

「あはは……もう、なんとも言えない」

「やはりそうでしたか」


 ウィクトリアが同情の眼差しで苦笑気味な笑顔を見せた。


「あ、俺はアリーセさんの所に戻るね」

「ええ、私の代わりにお願いしますね」


 ウィクトリアが一瞬だけ視線を台所に見遣ると察しが着いたのか知っているかのようにそう言った。

 台所に戻ると既に残りのキャベツや野菜等は切られ調理の段階まで差し迫っていた。


「ああ、ごめん。任せちゃった」

「別に構わない。代わりにこっちと皿を出しておいてくれないか」

「人数分ね」


 棚から皿を出した後も俺はアリーセの横に立ち料理を作り続けかれこれ一時間程たった頃に再度玄関の扉が開いた。

 次はドサドサと人が流れてくる様子だった為どうやら全員帰って来たらしい。


「ふぅ。ちょうど終わったな。手伝いありがとうレン」

「いつでも言ってくれれば手伝うよ」


 当然のことをしたまで、と若干の照れ臭さを感じながら俺はそう付け足した。

また遅れてしまいました……。

すいません。


本当は一週間以内に投稿する予定だったのですが想像以上にやることが山積みでこちらに手が回せませんでした。


だが、しかし。

次はちゃんと早く書く!!


と考えていますので、許して貰えるとアリガタイデス。


さて、

今回は同盟の後編に移りました。

いや〜、何か中編作った方が良い気がしますね。

今更ですがまだ機会があれば真ん中に新しく入れようと思います(いつになるかワカランケド)


今回はヴォンヌ、ルミナ、ミシェルとアリーセがメインですね。

アリーセはあまり登場シーンが無かったので出してあげました!!

流石にモブキャラでいて欲しくは無かったので(〃ω〃)


ヴォンヌ、ルミナ、ミシェルは見ての通り獣人と竜人です。智竜人国家――ゼルメガンと書いていますが、国自体は亜人が集まって出来た連邦国のような物と言う設定です。後々オルダー隊も登場しますので更に亜人の種族数を増やしたいなと思っています!



最後に、

読者の皆さん最後まで読んで頂きありがとうございました!

次回は少し飛ばして帝国戦開戦数日前ぐらいを舞台にしようと考えています。

良かったらそしちらも読んで頂けると幸いです。


では、また次回お会いしましょう!

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