グラムウォルフ歓迎会!!
アリスの入隊試験から二日後。
俺とアリスはグラムウォルフの隊員が居住している宿舎を訪れていた。訪問した理由としてはこれから上司となるエイナやそのメンバーへの挨拶と移住の話を持ち掛ける為だ。
「ここ......なのか?」
「ここ......らしいわよ」
アリスがあたりの周辺を描いた羊皮紙にもう一度目を通す。アリスが幾度か再確認してから俺は目の前の扉に手を掛けた。
場所は王都の北西部。少し歩けばすぐ近くの王宮と円形闘技場に着ける距離だ。
「お、お邪魔しまーす」
「......」
暗褐色の扉をギイギイと音を鳴らしながら慎重に開くと中には誰一人おらず無人の静けさを保っていた。
「やっぱりここじゃない......のかしら......?」
「なあ、他には何も書いてないのか?」
アリスから紙を受け取り凝める。俺も目を通したがアリスの言ったこと以上の情報は得られなかった。
やはり、この家なのだろう。特に隣家の人に咎められる様子も無かった為試しに入る事した。
「じゃあここは、レディーファーストで」
「あんたが先に行きなさいよ!」
頼りにならない奴だ。真っ暗な扉の先を見て俺の背後に隠れてしまった。
「はいはい......。えーっとー、すいませーん!! 誰かいますかー!!」
自分の声だけが反響し寂寥感が漂う。誰も居ないと思い踵を返そうとしたその時、俺の肩をトントンっと優しく叩く者がいた。
「何だよアリス、怖いからって邪魔するなよ」
再び、トントンっと肩を叩かれる。
俺はもー、と牛の鳴き声のように喚いてから背後を振り返ると、そこに居たのはエイナとその隊員達だった。
「ってエイナさん......連絡しましたよね......?」
「え、えーっと、ね? 実は、一昨日の試験で使われた円形闘技場内の氷の後始末がなかなか終わらなくてね?」
あははと苦笑を浮かべるエイナ。
なら、仕方が無いと思ったがその氷を生み出したのはアリスだと言う事に気付いた俺はアリスに疑問を持ち掛けた。
「なら、アリスが行けば良かったんじゃないか?」
「あれは国の所有物だから基本的に私達が整備を受け持ってるの」
アリスに問い掛けるも答えたのはエイナだ。
恐らく上層部から命令や指令でも出たのだろう。俺は何の疑いも無く普通に納得した。
「ご、ごめんね〜。あはは......」
......何か怪しい。言動と目の泳ぎ方と、その後ろの隊員らがコソコソ話しているところから推理するにこれは多分――。
「......エイナさん」
「は、はい!!」
エイナが凍る背筋をピンッと伸ばす。髪がふわりと揺れた。
「忘れてましたね?」
「...........」
エイナは硬直し無言になる。
俺の矢は見事的を射たらしい。つまりは図星であった。
エイナの代わりに弁明的なことをしたのは後方の青髪だ。
「い、いえ! 私達は食料の調達に行っていたんです!!」
「エイナさんの右手にはアイスクリーム、左手にはクラープって......。説得力無いですよ!!」
「食料調達じゃないかレン君!!」
確かに食料調達ではある。そうだけれども!! 食料調達って、肉の塊や野菜などの材料を買うところからなんじゃないですかね!!
俺は目の前で美味しそうにアイスクリームを頬張り、蕩けそうな頬を見せ付けるエイナに呆然とする。
「も、もういいですよぉ......。それでこれ、お土産です」
「く、クラープじゃないですか! しかもこんなに......。どこのルートで仕入れたんですか!!」
アリスの代わりに弁明した青髪の女性が目を輝かせて問い詰める。
「え、ちょっと待っ――うわっ!?」
後ずさった俺は思わず玄関の扉に踵を引っ掛け倒れそうになるが、青髪の女性が俺の腰へと手を回してくれた為免れた。もし、男女逆だったとしたら女子は目をトロンとさせて全てをレンに預けていた――可能性も無くもなくも無い!! 確かに、そのシチュエーションが目前に迫っているが男女が逆だ。この場において誰も期待など寄せていない。
「ど、どうも......」
「......このシチュエーション......キス......します?」
マジか!? まさかのまさかだぞ!!
俺は不意の告白に頭が混乱し困窮する。
だから、なのだろう。俺は意味不明な乙女の如き返事をしてしまった。
「いい......ですよ......」
「わ、分かりました......! では――」
青髪の唇と俺の唇の距離が逼迫する。見て取れるピンク色の柔らかそうな唇。
嗚呼、何故俺はあんな事を口にしたのだろう。ノリだった事は脳では理解している。だが、ここで俺の処女接吻は奪われても良いのだろうか。こんな......こんな......、初対面の女性に......!!
俺は出来るものならタイプの人にこの俺の『初めて』を明け渡したい。これは俺の切実な願望であり、性であり、慕情だ。いや、生物としての本能だとも言い切れないが、少なくとも今の俺はそう思っている。
「......」
「...........」
数秒が何分へと増幅されて感じる。それ程までに濃い一時。俺は瞼を閉じる。
あれ、そういえばこの青髪の人。案外俺のタイプかもしれない。歳上で俺より背が僅かに高く、ほっそりとスレンダー体型の美人。相合もアリスに負けず劣らず。その顔に合わないノリの良さと大人びた雰囲気。俺の本能を恋のキューピットが弓矢を引き射貫くかの如く、心臓のど真ん中をストレートに刺さる。
嗚呼、俺の処女接吻、ここで奪われてしまっても良いのかもしれないわ!!
真っ暗になった視界が俺の脳を更なる思想へと導く。
「「な、な、な、何やってんのよ!!」」
「痛てえええ!!」
アリスがレンの背後に回り込んで首筋の襟を掴み引き摺って五連往復ビンタ。往復ビンタが五回なので合計十回だ! ははは......。火照っていた頬が別の赤みを帯びた。
青髪の方もエイナに「確かに貴方のタイプにどハマりだけど、過ぎた真似は良しなさいよ!!」とほぼ同じ状相である。
「ちょっと、レン君も同罪よ!! 何が『いい......ですよ......』よ!! 可愛いぐらいに乙女に変貌してたわよ」
「わ、忘れて頂けると......助かります......」
冷静に戻った頭が大きな恥をかいたと自認している。恐らく顔も真っ赤に......。
(い、いやああああああああああああああああ!!)
記憶を脳裏に過ぎらせるだけでも羞恥心で耳と顔が赤く染まってしまう。
一体何してんだよ! 数秒前の俺!
うう......。まさかこの様な日に黒歴史を刻んでしまうなんて。これが未来永劫語り継がれたらどうするんだ。王都を救った英雄の本が出版された時、目次に【乙女英雄――可憐】何てダサい題名が載ってたらどうするんだよ!!
「ああああああああああああああああああ!!」
「ほらほら、レンさん。こういう時は隊長みたいに酒で全部洗い流せば――」
「俺は酒飲めねぇよおおおおお!!」
こうして、寂寥感が漂う無人の宿舎に必要以上の喧騒が響き渡るのだった。
〇 〇 〇
グラムウォルフ隊員専用宿舎内リビングにて。
長方形型の食卓が部屋の中心に陣取りその周りを椅子が均等に列を成している。
下座となる両辺には計八人まで座れ、上座には一人。その反対側にももう一人腰をかけられる。この場合だと、隊長であるエイナが上座でその反対側には――。
「......副隊長だったんですね」
「ん? ええ、そうよ。意外かしら」
目が交差し、会話をする。正直、視線を合わせづらい。先程の一件があった所為か妙に青髪こと副隊長を意識してしまう。
「それじゃあ......まずは自己紹介から始めましょうか! じゃ最初に私から。今更だけど、グラムウォルフ隊長を務めるエイナ・ヴィデーンよ」
「次に私、グラムウォルフ副隊長ウィクトリア・フォードハムです」
副隊長の名前はウィクトリア・フォードハムか......。って、え!?
十二貴族のうちの一族フォードハム家の者じゃないか! だからエイナと負けず劣らずの魔力量を秘めていたのか。胸の内で抱いていた疑問が晴れる。
それより、腑に落ちないのだが最近の俺は貴族と関係を持つ事が増えていると思うのだ。ここ数週間だけでエイナのヴィデーン家、ミユナのアーチボルド家、パトリシアのペーテルズ家、そしてウィクトリアのフォードハム家。総じて四つの貴族と対面している。これは中々経験出来ないこと......なのだろう。......多分。
「では次に隊員です。それではルーラから」
瑞色の髪と瞳をした女性が椅子からそっと立ち上がる。
「私はルーラ・エリシオン。レンさん、アリスさん宜しくお願いしますね!」
「こ、こちらこそです!」
ふむ。ルーラさんですか。アリスやエイナと違ってパトリシアの様な豊満な胸が服によるシルエットでくっきりと浮かびその豊かさを魅せている。顔から懇ろさが溢れ出て、美人や美少女ではなくお母さんと言った特徴だ。
「ベイセル・ノートクビストだ。宜しく頼む」
鉛色の髪色で暗い雰囲気を放つベイセルが椅子を引く。年齢は見た目からして二十歳前半だろう。
だが、以前会った帝国軍兵の様な筋骨隆々とした身体つきが顔年齢と比例していない。如何にも近接戦闘を得意としてそうだ。
ベイセルが椅子に座り次に立ったのは、
「はーい! セシャリ・クラウスです! 趣味はウィクとスイーツの食べ歩き! 宜しくねレン君、アリスちゃん」
「はーい! 宜しくデース!!」
「......貴方、よくあのテンションに対応出来るわね」
アリスが耳元で囁くように褒める。
興奮状態な口調で自己紹介を始めたのは薄紅色の女性だ。この隊の中でも最も低身長且つ子供のような口調によりあどけなさが未だ残っているレアな人だ。
「アリーセ・リースだ。レン殿、アリス殿、宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ誠に、誠に宜しくお願い申し上げます!!」
「わ、私はそんな意味のわからない話し方は携えていない! もっと柔らかく話してくれ!」
折角テンションも口調も合わせたのに、文句が多いな。
古い口ぶりを見せるアリーセは、黒髪ロングでその髪を背中で一本の束に纏めている女性だ。先程の話し方から解るだろうが、かなり癖が強い。俺としては癖が強い方が対応し易いためウェルカムである。
そして最後にアリス家で執事をしているセトディンの上位互換の様な優男フェイスとイケメンを両立した暗褐色な髪色をした男性が椅子から立ち上がった。
「私はシグルス・ヴェッテルだ。宜しく頼むよ、彼の英雄、レン・ジェラルド君。アリス・クラークさん」
「よ、よろしくお願い致します」
「宜しくお願い致します」
過度のイケメンフェイスは明る過ぎて眩暈する。
その眩しさ故、俺は頭が回らずごく普通の返答をしてしまった。
そして、薄々勘づいていたのだが......。
「す、すみません、エイナさん。ここにいる人達って......、その......皆さん貴族の方々です......よね?」
「ええ、そうね。貴族以外から魔剣士に成り上がれる程の人材は殆ど居ないから。そう考えるとレンは前代未聞なのかしら」
ふむふむ。なるほどー。俺しか平民は居ないのか。
視界が白く霞む。眩暈もする。体調が悪いので入隊拒否って事には出来る......筈もないか。無駄な抵抗をつい考えてしまった。
出来るものなら貴族と関係を持つのは出来る限り避けたかった。――勿論、アリスを除いてだ。
貴族と共に闘うのは確かに栄光な事。それだけでも周りにもてはやされる。問題はその点にある。もてはやされるのは実に面倒臭い。俺の本懐としては普通に魔法を嗜み自由に暮らすことだが、充実した人生も決して嫌じゃない。
だが、充実を越えて過度な生活を歩むことも駄目だ。人が腐る。それは嘗ていた友人から得た教訓でもあった。
「うぅ......」
「大丈夫よ。あの人みたいには成らないわ。レンならね」
「...........?」
「はぁ......。まあ、後の祭りだしな。素直に頑張ります」
心折れるレン。アリスの言葉は彼の心を揺るがすだけの説得力を備えていた。
エイナは二人の会話内容が分からず仕舞いだったが流すことにして、座っていた席から立ち上がる。
「さて! 取り敢えず歓迎会から始めましょうか! ベイセル、セシャリ、先に別の料理でも作ってて。その間にウィクトリアが二人に宿の案内をして。既に部屋は割り振られてるからそこも宜しく! 他の者は私とお買い物に行くわよーー!!」
そう言って隊長ことエイナは扉を勢い良く開けて風の如く消えて行った。彼女に続いてルーラ、シグルス、アリーセがいつもの事のように着いて行く。
「さて、レンさん」
「部下になりますし、レンで良いですよ」
「私もアリスで良いわ」
「私は愛称でウィクって呼んで下さい。ではレン君、アリスちゃん。此方へ」
そう言って連れてこられたのは地下の訓練施設だった。
円形闘技場程に広大さは無いにしても十分に宏闊だ。更に――。
「ここは円形闘技場にも引けを取らないぐらいに堅固で対魔法結界も壁や床、天井にも張り巡らされてるから思うが儘に魔法を放てるけど......。万が一にも壊れるかもしれないから......ね?」
レンとアリスの顔を見て取り繕った笑顔を浮かべるウィクトリア。
これは明らかに俺らへの注意だな。壊すなよ? という事だろう。
最近手加減の仕方を脳に叩き込んだので、大丈夫である。
「トイレ、シャワールームは各部屋に配置されてるからそこは心配無いとして......。他に何か気になる事はある?」
「門限とか、規則とかありますか?」
「外出可能なのは緊急時以外、午前四時から午後十二時迄。ルールは......」
眉間に皺を寄せて考え込むウィクトリア。暫くすると思い出した様に顔を上げ人差し指を立てた。
「あっ、そうだわ。基本このメンバーでは敬語禁止。理由としては『親睦を深める事と外で敬語使ってるのに憩いの場であるこの宿舎でも堅苦しくするのは大変だから』だったわね」
成程、同感だ。最近、身分が高い者と交流する機会も多々あった為、実に有り難い。どうやらアリスも同じらしく、胸を撫で下ろしている。
「そ、そうですか。有り難いです」
「だーかーらー! 敬語は無しだって言ってるでしょ?」
「でもさっきまでウィクトリアも堅かったけ......ど?」
「私はこれが本業なので別に良いのです」
それ胸張って言うことか!? 自分も間違ってだだけでしょうが!!
目が宙を泳いでいる。やはり副隊長である彼女も忘れていたのだろう。
「はあ......。じゃあ敬語無しね、了解」
「解ったわ」
「では結構。あ、あと門限を過ぎると次寝た時夜這いに逢うのでご注意を」
「何でだよ!?」
突然の衝撃的告白。一体全体どういう規則なんだよ......。
夜這いと聞いて絶句してしまった。飲んだことは無いがもし紅茶を飲んでいたら盛大に吹き出していた自信がある。
「理由はそこで人生を終わらせる為です」
「そんな人生の終末を迎えてたまるか!!」
「そうなるから誰も破ったりしないんですよ」
「なるほどぅ」
つい合点がいってしまった。このルールはかなりの効力を纏っているようだ。
「それじゃ、貴方たちの部屋を案内しますね」
ウィクトリアの背中を着いて行く。微動だにしない体幹の良さは歩く様子からも見て取れた。
「なあ、アリス。グラムウォルフ隊員っていつも何するんだ?」
隣で並んで歩いていた暇そうなアリスの肩をトントンと叩き声を掛けた。
「確かに......何するのかしら。それも後で訊いてみましょうか」
「主に魔物討伐や遺跡の探索。他の日はさっきの訓練施設で戦闘訓練ですよ」
耳に入っていたらしく、ウィクトリアは振り向かず俺の質問内容に対して簡潔に答えた。
「......盗み聞きは感心しませんよ」
「別に盗み聞きじゃないですよ!」
前方に向かっていた顔が此方に振り向き、髪がフワッと一瞬だけ浮く。
「冗談だよ、それより部屋はまだ?」
「そ、そうね。部屋はあそこになります」
かれこれ歩き始めて数分。時間としては殆ど経過していないが右へ左へと曲がることがあってか感覚的にかなり歩いた気がする。
「おお! 着いたのか――って!? 遠回りし過ぎだろ!?」
「何であんなにくねくねと回り道する必要があったのよ!!」
俺とアリスは目前の光景を目の当たりにして犬のように吠えた。
「ほ、ほら。これも一種の観光であり......」
「「こんな観光があってたまるか!!」」
場所は二階への階段を上り後ろへ曲がってすぐ。
それに対しウィクトリアの歩んだ経路は階段を上って左。その廊下を突き当たり迄歩いて身体を一回転!! 元来た廊下を戻り右へ――例の階段後ろの廊下――歩き数秒してから壁に突き当たり又もやクルッと方向転換!! そしてまたまた元来た道を歩いて到着だった。
「可笑しいと思ったよ!! あれでしょ、ウィクさん部屋忘れてたでしょ!! しかも幽霊の如く彷徨ってたから方向音痴でもあるでしょ!!」
「ナ、ナニイッテルンデスカ」
思わず明瞭な程に口がカタコトになるウィクトリア。
天然では無いにしても少し欠陥的な面が有るようで。微笑ましいような、苦笑いのような......。何だか微妙だ。
てか!! 何で隊長ことエイナはこの人に任せたんだよ!?
「テンプレで返したからって許されると思うなよ!!」
「貴方も彼女が乗ってあげてるんだから潰さないであげなさいよ」
「いいか、アリス。こういう時は潰しに掛かる方が面白いんだよ」
アリスの正面に立ち両肩に手を起いて大人の如く語り掛ける。
だが、しかしアリスには時期尚早らしく意味が分からないわ、とでも言いたげな表現のしづらい表情を浮かべてしまった。
「ま、まあ。それはさておき。早く部屋を紹介しますね」
一瞬、話を逸らすな!! と叫びたかったが溢れ出る想いを胸の奥で塞き止める。
ウィクトリアは俺の魔剣と同じ色――漆黒の扉のドアノブを恐る恐る掴んで引く。
「どうぞ、中へ!!」
「おお! ――埃だらけだ!!」
真っ黒な扉を越えた先は今迄に目の当たりにした事がぐらいに悲惨な汚れと荷物と灰色に染まった部屋だった。
天井には小さくて可愛いことで有名な――主に実験施設で大人気――ハエトリグモが掌サイズに成長して俺をジロっと睨んでいる。
「ここには皆の誇りがあるわね。......あら? こんなゴミ部屋に居たのねハトリー」
「ゴミ部屋? ハトリー?」
鸚鵡返しで尋ね返す。
彼女はええ、そうよと言って俺を未だに睨みつけるハエトリグモへと手を伸ばす。
「ま、まさか......」
「......そ、その今にもかぶりついて来そうなクモがハトリーだとでも言うのか!?」
「二年もの間、行方不明だったんですよ」
「それはもう可愛らしいペットじゃない!! 自然界を二年に渡り一匹で生き抜いて来た狩人だ!」
と、思ったが予想外にもクモ――ハトリーは巣からウィクの腕に乗り移り好意の目を向けている。
あれ......? 案外可愛いかも......。
俺もつられて手を差し伸べる。だが――ガブリと肉を噛む不気味な音。
「痛ってえええ!?」
「こらこら、ハトリー。噛んじゃダメですよ」
俺には敵対心を抱いているらしく、近づくのもままならない。もし近寄ると糸を顔にかけられ、更には一噛みだ。
「それは置いといてー、俺の部屋どうするの?」
「レン君が引っ越すまでには全部片付けるよう皆に報告しますね」
ふむ。でも、俺がこの宿舎に移動するのは明日だ。既に荷物の支度は済ませてある。この部屋の掃除、終わるのだろうか。
私お手製の楽々お掃除魔法セット(仮)。ネーミングセンスは無視するとして、この魔法さえ使えば埃も誇りもポポイと掃き捨てられる。
「いや、もう掃除しちゃうよ」
「あれ、使うのレン?」
「あれって――?」
一人部屋の中に入り扉を閉める。そして、人差し指を突き出した。
その先から小さな竜巻が起こりやがて物を浮かせるほどに威力が増して旋風となる。埃も飛ぶため一段階目は終わりだ。
そして、二段階目。先程の旋風の水バージョンを起こして部屋で野放しにする。これで終わりだ。途中で魔力の供給を断絶すれば魔法はその効力を失い霧散する。だが、アリスの使った《ヘル・インフェルノ》などと言う強力な魔法は例外だ。
「これで終わるのですか? レン君」
「終わりますよ。ウィク」
「魔法としては扱いやすいものなのかしらアリスちゃん?」
やはり気になるのかウィクトリアは何度も質問を重ねてくる。
アリスも親切なもので、俺の代わりに魔法の過程を淡々と述べてくれてた。
「成程〜、便利なものですね」
「魔法は戦う為ではなく日常生活の道具として使う事も大切ですしね」
ウィクトリアは頭をこくこくと頷かせる。
それから数分後。
扉の中を開けると壁、床、天井などあらゆる場所全てが埃を被っていた部屋はその美しさを取り戻し色鮮やかになっていた。
「あとは荷物だけ」
「中身が分からないから後ほどエイナに訊いてみます」
「ありがとう」
「こっちの台詞ですよ。......さて、そろそろ下に戻りましょうか。きっと料理の支度も終わってる頃だわ」
そう言って俺とアリスを手招き。一階へと下りて行き、皆と初めて対面したリビングへと向かう。
すると、既に料理は食卓に並んでおり俺らを待っている様子だった。
「何してるのよウィクー。どうせまた迷ったんでしょ?」
「そ、そ、そんなことは無いデスヨ」
あははと、苦笑いを浮かべながら俺とアリスは指定された席に腰を掛ける。
「さて! 二人の入隊を記念して、乾杯!!」
何の予兆もなく突然、祝杯を挙げられて戸惑いを隠せなかったが皆が笑顔で杯を交わす様子を見て俺も心の中で温もりを感じたのだった。
アリスの台詞が少ない!?
どうも皆さんお久しぶりです。伏綸子です!
今回もなかなか纏めきれず8000文字オーバーですね......。
途中から長くね? と薄々勘づいてましたが何処を切ろうか決められず結局何処も切れませんでした。
しかも、アリスの台詞が少ない!!
もしかしたら今回のメインヒロインはウィクトリアなのでは? ちょっとメインヒロイン交代を考えてみます(冗談です)
それはさておき、
読者の皆さん最後まで読んで頂き有難うございます!
次回は今回と同じ様にほのぼのと描いていく所存ですので気に入って頂けたらそちらも読んで貰えると幸いです。
あと、
評価☆☆☆☆☆やコメントして貰えると今後のやる気、課題になりますので付けて頂けると嬉しいです。
では!
また次回、お会いしましょう!!




