グラムウォルフ入隊の件
今日も今日とて心地良い陽射しが差す。瑞色に染まる穹には白い綿毛の様な積雲が所々に浮かんでいた。
――だがしかし、我が家の天候は嵐に見舞われていた。
「王都に行くってどう言うことよっ!?」
母が食卓を思いっきり両手で叩いて立ち上がり怒号を放つ。
現在の時刻は午前八時。少し遅めの朝食を一週間ぶりに家族で囲んで食べていたところ、俺はそれを告げた。
「グラムウォルフもまだ早いわよ!!」
そう。センテルズ王国現国王エグラス・センテルズに任命された王国直属魔剣士部隊グラムウォルフ入隊の件だ。
内心知っていたのでは? と言う疑問も頭の片隅に浮かび上がったがこの場では言えなかった。
「ま、まぁ俺らもその件は知っていただろ、マリー?」
「――貴方! それでもいいの?! レンはまだ14歳よ! それに帰って来たばっかで......」
「......あと、一週間ぐらいなら構わないってあの人......じゃなくて国王様言ってたんだし急がなくても大丈夫だよ」
少しはこの雰囲気を抑えようと口を挟むが母の様子に変化は無い。
やっぱり怒るよな......。
俺は入隊の件を伝える事に躊躇いを覚えていた。
心配されるのは苦手だからだ。
父は俺の味方をしようと精一杯手を差し伸べてくれいるが家族内でもあまり肩身が広くない為か効果はボチボチと言ったところだ。
「......ふぅ。取り敢えずは入隊おめでとうレン」
落ち着きを取り戻した母が祝いの言葉を掛けてくれる。
意外だ。もっとも、怒号を吐き散らし食卓をひっくり返す様な狼藉者を想像していた訳では無い。いや、少し予想はしていた......かもしれない。
それでもこの対応と理性を取り戻す早さは目を丸くする程だった。
「でもね。レン流石に王都にレン一人は行かせられないわ。せめて誰か安心出来る人を連れて行きなさい」
「う、うん」
何を言い出すかと思えばそう来たか......。
すると、
「では、私が一緒に行きましょう!!」
家の扉を問答無用で勢い良く開き声を上げる金髪美女が現れた。
うん。なんで? なんでアリスが勝手に人の家に入り込んでいるんだ?
「あ、アリス様! 良いのですか、家のレンとで......」
「無論です! マリーさん。どっちみち私もグラムウォルフ入隊試験を受けますので」
「そうでしたか......。レン、アリス様と行くのなら許します」
母は突然上がり込んだアリスに何の怒りも無く、逆にいい事を思い付いたとばかりに条件を述べた。
ここで俺は気付いてしまった。いや、あの母とアリスの訝しいほどの目の交差を見てしまったら誰でも気付くのかもしれないが......。
それは良いとしてこの二人は共犯者だ!!
余りにも事の流れが流暢過ぎる。それに茶番劇とでも表せるような大根芝居。これらが確たる証拠だぁぁぁぁぁ!!
「あははは......。分かった分かったアリスと行くから」
「ふぅ。レン本当に気を付けてね? グラムウォルフは戦争が勃発したら最前戦で闘う部隊よ。その分危険が最も多いわ」
母の言葉徐々に小さく、悲観的なものへと移り変わる。
同情では無いが自分の母だ。自分の大切な人を危険に曝すそのやる気無さと不安感は僅かながらも理解出来る。
「だからね......、頑張ってね」
「母さんそんなに心配しないでよ。俺はこれでも強い方だもん」
「それ自分で言う事かしら? まぁ、強さは否定出来ないけど......」
我ながら自分は魔術士の中でも上位の強さを有すると自負している。
それを肯定してくれたアリスに少し照れ臭さを感じながらも俺は母を安心させる為胸を張った。
柄にもなく胸張る俺を見て母は小さく笑ってありがとうと言い、上がり込んだアリスも家族の朝食に混じって食べ始めた。
尚、母は予め用意していたのか台所の方に置いてあったパンとベーコンエッグが盛られた皿を持って来ている。
「それで、グラムウォルフ入隊試験って何だよ」
「そのままの意味よ?」
「そういう事じゃなくて〜何でお前が試験を受けるんだって事だよ」
勘が鈍いフリをして質問に応えない。
別に疚しい事はないと思うのだが?
「それは勿論私の才能が認められたからで――」
「――アリス様が、レンがグラムウォルフに入れるのなら私も入れるわよね? と嫉妬気味に駄々を捏ねてアルベルト様を問い質し最終的に試験を受ける事になったのですよ」
クラーク家に仕える執事、セトディンが家の硝子窓を開けてアリスの言葉を横から遮り淡々と説明した。
つまり、グラムウォルフに入隊した俺を妬んで試験を受けるのか......。みっともないな。
「ほほぉ。アリス、そんなに俺に負けたくないのかね?」
上から目線且つ、嘲笑と挑発の意を込めてアリスに話し掛ける。
セトディンに裏事情を曝露された挙句、俺に嘲られたアリスは若干涙目になりながらも俺の言葉を否定する。
何か可愛い......。
おっと不味い。これでは俺がドS認定されてしまうでは無いか!
話題転換をし水に流す。
「それはさておき、いつ試験を受けるんだ?」
「......二日後よ......」
「おい! お前まさかそこ迄計算して......」
「ち、違わよ! 早とちりし過ぎ! 入隊試験の試験官がエイナさんだから彼女達の都合上、明後日には出ないと行けないのよ」
最悪だ。俺一人では王都に行けない。
何せ、遠いし、お金掛かるし、時間掛かるし、馬車の乗り換え面倒臭いしで様々な面倒事が俺の道を阻むのだ。
その上アリスと一緒に行けば、速いし、無料だし、時間短縮出来るし、乗り換えアリスと一緒で楽だしで「プラスだし」の祭り!
しかし、アリスの出発は明後日。
出来ればギリギリ迄この村――家でもある――で英気を養いたかったのだが......。致し方ない。ここは妥協するしかないか。
「はぁ......明後日か......」
「貴方一人で王都に来ればいいじゃない」
「む〜り〜」
「あれれ〜? かの王都を救ったレンは一人で旅も出来ないんですか〜?」
すぐに調子に乗りましたねこの人。
ま、私は大人なので冷静且つ、理性的に対応しますとも。
「あれれ〜? あれれ〜?」
「ええい! 分かった行ってやる! 一人で行ってやる!」
「言ったわね? もし行けなかったらクラープ奢りなさいよ」
あ......。
どうやら俺もアリスと同類なのかもしれない......。
別に頭がプチッと切れてしまった訳では無い。魔が差しただけだ。
それは良いとして、後々謝り潔くクラープを奢らねば。俺一人で旅をしたら敵国である帝国に着きかねない。はたまた、センテルズ王国から南西に位置する、山脈を越えたある森に囲まれた妖精人の国――エルフェイムとか......。
これに関しては可能性は無限大だ!
「まぁいいわ。それで私は明後日出発するからもう出るわね」
いや、勝手に入って来たのはお前だろ?
俺は普通にドアを開けて去っていくアリスの背中をただ眺めていた。
とまぁ、結果。こうして俺は魔剣士部隊グラムウォルフ入隊試験をするアリスと一緒に王都に戻ることになったのだ。
因みにだが、俺は家族がいない所でアリスにクラープ、一人分の料金を自らのお小遣いから抜き取り交渉をした。これに関しては最早言い様も無く、この教訓を胸に刻むことにしたのだった。
○ ○ ○
――王都出発日。
今日は空が鼠色の雲に覆われ、更に土砂降りの雨。
前回と同じで早く起き、荷物を整えた俺は家族に暫くの別れを告げた後、ザァザァと降り注ぐ雨の弾丸に対物理障壁を自分の上に展開、回避しアリスの待つ馬車に乗った。
無論、魔剣とレイさんも一緒である。
「またかこの馬車だぁぁぁぁぁぁぁ」
「煩いわねぇ、そんなに行きたくないなら断ればいいじゃない」
喚く俺を斜めにアリス呆れた声で正論を述べる。
国王様の御恩に背けるものなら背いてるよぉ......。
この際、御恩は褒美だが俺は良いように扱われているだけにも思える。
《ご主人様。魔剣の調子は如何でしょうか》
お、お久しぶりですね。レイさん。
魔剣の調子は? と訊かれてもそんなに変わってないからな......。
自分の左に置いていた白銅色な筈の魔剣。その鞘を掴み取り剣の柄を握りシャキーンと言う音と共にゆっくりと引く。
すると、今まで大規模な変化は見られていなかった魔剣の剣身は漆黒で埋め尽くされ十字型の柄は白銀、更に剣の先から柄頭まで二筋の溝があり片方は紫紺の輝きを放っていた。
禍々しいと言えば禍々しいが......。その形からか魔剣と言うより妖精人が持つとされる聖剣の様にも窺える。
や、やるじゃないですかレイさん! カッチョイイですよ!
《喜んで頂き有難うござます。ご主人様》
それにしてもまさかここまで変えられるとは......。
俺はアリスに変な目を向けられないように心の奥で称賛と感嘆の声を漏らした。
「ねぇ、レン。貴方はエイナさんと一戦交えているのよね?」
「ん? うん、まぁ......それがどうかしたのか?」
アリスは顔を赤くしモジモジしながら訊いた。
「......闘った時の事を教えてくれないかしら?」
なるほどぅ......。此奴、勝ちたいからその為の糸口を掴ませろという事か。
だが、アリスでは彼女に勝てない。剣術、魔術、駆け引き、その全てにおいて魔剣姫エイナ・ヴィデーンはアリスを大きく凌駕している。
生きる怨霊にエイナさんが敗北を喫したのはただの剣を使用しており、その上不意な魔力の波で精神を錯乱させられたからだろう。恐らく万全の状態ならばエイナさんは生きる怨霊を圧倒していた筈だ。
「良いけど多分勝てないぞ?」
「貴方は勝てなかったの?」
「多分勝てない」
エイナさんと闘った時はかなり手加減されていたと俺は窺っている。
剣筋においては勿論だが、魔剣の扱いも俺より優っているのだ。魔剣士歴数時間の素人に負ける訳が無い。
「じゃあエイナさんの見極めで入隊が決まるのね」
「恐らくだが、そうだろう」
俺は合わせていた目を瞑り大きく頷いた。
「......でも受かるかしら......」
「いけるだろ。俺の弟子だしな」
「貴方の弟子になった覚えは無いわよ。寧ろ、家の書物を貸してあげた私に感謝しなさいよ」
「お前が持ってても宝の持ち腐れだからな」
貶す様にも笑いながら言った。
事実。アリスは魔術の才能があったが書物を読んでも上手く魔法を発動させられなかった。その原因は緻密な魔力の操作が拙なかったからだが、日々の猛特訓のお陰で上達し今では魔術士の中でも上位に上り詰める実力を有している。
「私を貶した罰としてクラープ二人分を奢りなさいよ」
「どれだけ食うんだよ!? てか俺そんなにお金無いよ......」
「それより、早く教えなさいよ」
負けると知ってても全力で挑みたいらしく、しつこく問い質して来る。
俺はその言葉の圧制に押し負けられ結局、エイナの闘い方等を話してしまった。
「成程ね。教えてくれてありがとう!」
「はいはい」
俺は半ば適当に返事を返した。
正直、俺の話にそこ迄の価値は無い。剣を交えた時間もごく数分。その時間内に読み取れる情報では相手の裏を撞く事は出来ない。
その後も俺らは作戦会議とまでは行かないがある程度の方針を決めた。
即戻り!!
読者さん最後まで読んで頂き有難うござます!
今回も戦闘無しです。
何か......微妙ですねw
バトルアニメしか観ない所為か、戦闘シーンを描きたくなっちゃいますね。
さて、次回はアリスの入隊試験にする予定です!
勿論戦闘シーンです。
会議何かで終わらせません( *´꒳`* )
では、また次回お会いしましょう!




