ウラニ村帰宅
丸い太陽は昇り、果てしなく広がる澄み渡った蒼穹。
簡単に言えば晴天。
センテルズ王国の都、セトディンの町並みも一段と活発で南部メインロードでは人々が互いの肩を押し合っている程だ。
それもその筈、今日は英雄が王都を発つ日なのだ。
町の被害を極力抑え切ったレンを称える声も多い。
だが感謝、と言うより魔剣士の新星と風の噂で耳にし胸踊る気持ちで見に来る者の方が多かった。
「うっわぁ......キモ......」
「何よその芋虫を石ですり潰して油で焼き揚げたゲテモノ料理を見るような目と反応は」
おうぇぇぇぇぇぇぇ!!
アリスの突っ込みを想像し吐き気を催しつつも俺は屋敷の敷地外で角砂糖に叢る蟻の様な民衆を眺める。
王都に来てはや三日。日数で見れば薄っぺらいものだが、いざ日記に綴ってみるとと分厚くなるほどの濃い日々だった。
まぁ、どうせ直ぐにこっちに戻ってくるしな......。
そうなると家族の事も考えないといけない。俺一人で王都に引っ越せばの話なのだが、それでは愛しの妹が可哀想だ。
そもそも家族は着いてくるのだろうか? 父さんなら「お前はもう十四歳だしそろそろ旅もさせないとな!」とか言って許可を出してくれそうだが、家族想いの母は......。少し難しそうだな。
考える事、やる事が山積みだが、今では解決策も浮かばない。
そう頭を振って忘れる事にした。
「――てか、そろそろ時間じゃない!? ほらレン、さっさ下に降りて馬車に乗るわよ!」
「行きますかー」
アリスに呼応してベッドに横たわっていた漆黒の魔剣を手に握り取る。
魔剣の柄を握る度に気付くのだが徐々に形と色が変わっていないか?
《はい、ご主人様。私がご主人様に合うように形、色、重量を調整しております》
おっと、久しぶりにレイの声を聞いたぞ。
口数が少ないのは元からなのだろうか? それとも自分が答えられるところにのみ驕り高ぶったりしてくるのかな?
《...........》
どうやら正解の模様。口を噤んだのだからきっとそうだろう。
一人と一振?で話しているとアリスはとっくにこの場から去り外に出ていた。
俺も急いで魔剣を昨日魔力鑑定の寄り道で買った腰掛けの鞘に差し、部屋を出て階段を降りる。
扉を超えて響く民衆の喝采と歓声。
耳栓が欲しいね。
「ほら、レン急いでってば!」
「あ、あぁ。ごめんごめん」
アリスが外から扉を開けて手招きをする。
此奴は分かっていて急かしているのではないだろうか。何時もなら美しい笑みが闇のある不敵な笑みへとチェンジしている。
「「「うぉぉぉ!! 英雄様だぞ!! みんな〜敬礼しろぉぉぉ!!」」」
「「「キャーー!! 英雄様よ!! 此方にサインお願いします!!」」」
流石にこれ程に熱狂だと鬱陶しさを感じる。
まだ奥の方で「あいつが期待の新星か」と視線を向けてくれる人達の方がマシだ。
そもそも、女男女男とケーキの層みたいに並んでいるのは何故なのだ? それに一団の女子らが制服の様に着ている「アイ・ラブ・レン」と書かれた服ってなんだよ!? 見てるこっちが恥ずかしいわ!!
「あれ、レンのファンクラブらしいわよ」
でしょうねぇぇぇ!! あれで違ったら俺の常識がひっくり返るよ!!
そもそもファンクラブって勝手に作っていいものなのだろうか。
ふと、疑問を抱き馬車に乗車しながらアリスに訊いてみた所、「魔剣士を崇拝、愛慕することはざらよ。ましてや数年ぶりの男子魔剣士だもの。あれは当然だわ」との事で、俺は不服ながらも受け入れる事にした。
門が開き馬車が駆ける。
叢る人々も邪魔はせんと道を開けくれた。
「案外しっかりしてるわね。レンよりもね」
「最後のは余計だよ」
ファンクラブの制服を着た人達が俺を窓の外から眺め笑顔で見送ってくれる。
俺も反射的に手を振り笑顔で去って行った。
この調子で王都南部にある城門まで馬を走らせる。
今回も馬車は兵士の合図で止まり数分後俺らは王都を発って行った。
馬車が走り早一時間。アリスとは特にこれと言った会話はしていない、強いて言うなら子供の間で流行っている『しりとり』とやらをやった事ぐらいだ。
ゲームを初めて一文字目は「り」だった。
「じゃぁ......リカバリー!!」
「リアライズ・レヴェリー」
「え、ちょっとリで返さないでよ!? え、えーと......」
とまぁ、開始数秒で終わってしまったのだ。
そして現在、アリスは暇な時間をぐっすりと瞼を閉じて過ごしている。
こうしていれば美人なのだが......。なかなか、残念だ。
その前に居座る俺は暇を持て余し魔剣について悩んでいた。
良くよく鑑みればレイの存在は不条理な物だ。魔剣に意思が宿って使用主を蝕み乗っ取るのならば魔剣士や『グラムウォルフ」などの魔剣使いは有り得ない。逆にそうだとしても、魔剣を握ったあの帝国軍兵はちゃんと理解していた筈だ。なのに彼の仲間は知らないと答えた。無論自白したものらしいので疑ってなどいないが......。
それは兎も角、レイは異常な存在なのだ。
そう言えばだが、魔剣には刻印魔法が施されていたらしい。
これもレイがいた事による副作用なのか?
《はい、ご主人様。あの程度の刻印魔法ならば有っても無くても大差ありません》
ふむふむ。
だが、それでは残りの三つの魔剣が刻印魔法に対応出来た事への説明が付かないのだが......。
《はい、ご主人様。あれらに関しては低級位刻印魔法を短期間で生み出されたポンコツ魔剣に付けただけですので、運良く魔法が暴発しなかっただけかと》
つまり、魔力をあまり秘めていないから意図的に魔力を流さない限り発動はしないという事か。
うん? ってことは帝国は魔剣の自己作成に成功したのか?
更なる疑問が湧き上がる。
《はい、ご主人様の言う通りです》
ちょっっっっっっっと!! そう言うのは早く言えよ!!
突然の暴露に愕然としてしまう。
魔剣の製造は不可能に近いとされていた。魔剣は古代の技術を以てやっとの事で産み出される奇跡の産物だ。その技術、情報を帝国が手に入れたのだとしたら世界の軍事バランスが一気に崩れるだろう。
それだけじゃない。
帝国はその武力と技術力で世界を蹂躙しかねない。それでは世界各地が戦乱の嵐に巻き込まれる。
「これは、不味いな......」
とは言え、恐らくこの情報も国王様は知っているのだろう。
捕虜から聴き出しているに違いない。いや、絶対聞き出している筈だ。
魔剣があの程度の兵士に使われていた時点で勘づいているだろう。
俺はそう自分に言い聞かせて心を落ち着かせた。
「――ってことは、俺のグラムウォルフ入隊もそれが理由か!?」
うわぁぁ......。一枚取られた......。
だとしても、子供に対する扱いが残酷じゃないか?
いや、認められているからだろうか?
......どっちみち面倒くさいか。
「......はぁ......」
結局俺はこの旅路も憂鬱且つ怠惰な時間を過ごしたのだった。
○ ○ ○
――王都出発から五日後。
時は午前七時。太陽が少し昇り窓掛けの隙間から陽が俺の瞼を照らす。
「うっ...........」
眩しい。
眼を半開きにした俺はグサリと刺さる日光に眼を眩ませる。
もう朝なのか。
「あら、レン。おはよ」
「ふぁぁ......。おはよう、アリス」
俺は大きく欠伸をかき背筋を伸ばす。
昨晩、繁栄した町アテシュヌの貴族宿泊施設で一度仮眠を取り、馬を休ませた俺達は数時間経て今日の深夜(午前二時)に最後の旅路を走り出した。
無論、睡眠という人間の欲望に弱い俺とアリスは馬車の中で昏々と眠り、体力を過剰充電させていた。
「......もう着いたのか?」
「ううん。でもあと少しらしいわよ」
まだ目が醒め切っていない俺は惘しながらもアリスに問う。
現在時刻は七時。町を出たのが二時だから......、あと三、四時間ぐらいか?
「変なことが起きない限りあと、三時間で着くわよ」
そう言えばそうだった。アテシュヌに向けて走った時は、沼に嵌ったり、車輪が石にぶつかったりで、事故も多々あった為予定より大幅にズレてしまったのだ。
予定で言えばアリスの言う通り午前十時頃にはウラニ村に着くだろう。
「あと、三時間か〜」
「暇よね〜」
「そうだな〜」
先日と同様。長続きしないタイプの会話を交わす。
だが、今回は違ったようで言葉の糸は途切れなかった。
「あ、そうだアリス。帝国、魔剣創ってると思うよ」
「......へ?」
言葉の意図を掴み取れなかったアリスが素っ頓狂な声を上げた。
無理も無い。突然、世紀の大発明地味た事を告られ動揺を隠して内容を理解するなんて不可能な話だ。
「......え......えぇぇぇ!?」
「お、おう。......理解......した、か?」
「言ってる事ぐらい分かるわよ!! で、でもそんな事って......」
アリスは考える姿勢を取り思考に浸る。
「......確かに、有り得るわね。にしても、貴方そんなに頭冴えてたかしら?」
ギクリ。
此奴は本当に嫌な所を槍のように突くよな。
頭のキレの良さは俺が知ってる中でも随一だが、出来ればその矛先は幼馴染みの俺には向けないで欲しい。
それに、話から大きく脱線させるな!!
「ま、まぁ。それは置いといて、アリスのお父さんも既に確認していると思うが念の為だ。村に帰宅したら魔法を飛ばしておけ」
「そ、そうね。分かったわ」
こちらの目を真っ直ぐに覗き込み冷静に対応するアリスだが、その裏に焦りを感じる。
「焦るな。今焦燥感に掻き立てられても何も変わりはしない」
「べ、別に焦ってなんか無いわよ。それになんでこの時で言ったのよ!?」
「い、いや〜ほら俺ってさ照れ屋じゃん?」
「関係無いわよ! このド阿呆!!」
「お、おい!! 馬車内での魔法は禁止だぞ!? それを止めろおぉぉぉ!!」
と、今回は存外話題も多く騒々し――じゃなくて賑やかだったのだ。
○ ○ ○
――三時間後。ウラニ村入口付近。
一週間程前、村人達は広場に集まりクラーク家の次女アリスとただの一般村人でありアリスの幼馴染みでもあるレンを見送った。
それから数日後レンが生きる怨霊を討伐。その朗報は瞬く間に東端の地、ここウラニ村へと伝達され村一行は沸き上がり宴を開いた。
村人から視線は子供を見守る暖かい視線から情熱に燃える熱い視線へと大きく変化した。
そして今日、英雄(村の希望)となったレンがそろそろ帰って来ると耳にした村人達は彼を称える為、再び宴を催す予定だ。
「......ふぁ〜」
「貴方寝過ぎじゃない?」
俺よりも早く寝て早く起きた奴に言われても何も感じぬ。
俺らは身体が訛りそうな程ただ寝た。
仕方がないじゃないか。暇なんだもん! 馬車から望める景色も見栄えする箇所も無く頬杖をついて無心で眺める程度の物だったのだ。
恋人に良くある「ねぇ! ○○君あれ綺麗ね!」「ああ、君のように可憐で美しい」の様なキャッキャウフフなシチュエーションは俺とアリスには存在しない。
この場に置いて話題提起、発展へと繋げる糸口を持つ者は居なかったのだ。
「もう着く?」
「もう着いたわよ。ほら皆集まってる」
アリスの指差す方向――窓越しである――に目を向ける。
するとそこには俺の家族とクラーク家の従者を含めた村人全員が手を振って歓声を上げていた。
「うわ......」
「だからその、芋虫を石ですり潰して油で焼き揚げたゲテモノ料理を見るような目と反応はやめなさいよ」
「お前もその例文をやめろよ!? 気持ち悪いわ!!」
「でも的確でしょ?」
「否めん」
むぅ。
この例え方は俺が叢る人々を観て「うわ......」と言った際必ず述べられる常套句だ。
この数日間、各町村を通る度に言われて毎回吐き気を催す。一度その料理を見ないと駄目そうだ。
今度アリスにリクエストしてみよ。
「ほらさっさと降りるわよ」
「りょっかーい!」
「嬉しそうね」
当然! この騒ぎさえ収束すれば暫くは平穏が訪れる! 所詮小さな村だから一つの語り種も成長する前に掘り取られて終わる。
ああ、蝙蝠の様な高音声で「キャーー!! レンさまー!!」と言われる毎日に休憩が訪れる。なんて嬉しいのだろう。
「とは言っても直ぐに戻るんでしょう?」
「うぅ...........」
何故だろう。自分の人生を短く感じる。この十四年間これだけ自らの将来に不安を持ったことは無い。これから楽しくなる、と言う期待や高揚感を抱いていないとまでは言わないが天秤に乗せると億劫さや倦怠感がどうしても勝ってしまう。
「もうそれは後々考えるよ」
「あら、素直ね」
「ここで意地張ってどうするんだよ」
それもそうねと言って馬車の扉を開く。
湧き上がる歓声と喝采。
流石に慣れてしまうが煩いのは変わらない。
俺は若干の苦笑いを顔に帯びて馬車を降りるアリスに続いた。
「お帰りなさい。レン!」
母が駆けつけて俺を抱き締めた。
安らぐような母の暖かさを身体中で感じる。
「お帰り、レン」
後ろにいた父がそう言いながら俺の頭を撫でる。
撫でられたのは何時ぶりだろうか。何故だが、新鮮に感じる。
「......おかえり......」
口数の少ない妹が微かな声で囁くように言った。
こちら何時もと変わらずで可愛く愛らしい。
「ただいま!」
俺は胸の奥から溢れ出す安心感を感じながら、そう言って家族と共に家に向かい帰って行った。
もっっっっっっしわけございませんでしたァァァァァァ!
弁明させて頂くとイベントが発生して、それへの対策を立てていた所いつの間にかこれだけの日数が経っていた、と言う感じです!
( ´∀`)ハハハ
次回からは当然ペースを上げますので、
ご勘弁下さい。_| ̄|○ハハァ~
読者さん最後まで読んで頂き有難うございます!
今回はレン帰還と言う形です。バトルシーンも御座いませんでしたのでのらりくらりと日常的に書きました。
恐らく暫くは戦闘は無いと思います......。
多分......。
区切りが微妙な所ですがここまで!
ではまた次回お会いしましょう!




