魔剣士部隊――グラムウォルフ
王都セトディン中心部王宮付近。
宏闊な土地を有する王都セトディンの中心には王宮が建てられており、その敷地の広さは王都の一割を占めている。
王宮の敷地内には各領土を統べる十二貴族や王族による政治用の会議室、応接室以外にも宮殿、貴族宿泊施設が設けられていた。例え緊急時でもすぐに会議を催し対応策を練るためだ。
そして王宮の敷地から西には王国軍兵の兵舎、訓練施設、闘技場が備わっている。広さも王都の敷地と同程度。殆どの軍事施設は地面を掘り地下へと逆三角錐の層状に造られている。その総敷地面積は王宮の敷地の約四倍。
地上から見ると王宮と兵舎関係だけで王都の二割を占めているのが、総面積で数えるなら王都の五、六割ぐらいだろう。
軍事施設の広さの理由としては魔法や剣術の訓練をする際、王宮へと被害が届かない為だと言われている。
他にも王宮の敷地全体をドーム状に囲う様に展開された対魔法障壁と物理障壁やその他諸々を含めた効果を持つ結界の維持の為だとも言われていた。
そしてレンは地表に出ている軍事施設の中で最も強固な建物――円形闘技場にて魔剣姫エイナ・ヴィデーンと剣を交差させていた。
カキーンっと鳴り響く剣戟音。
額から汗が滲み地面へと滴り落ちる。その汗は砂地の地面に丸いしわを造りだした。
「貴方、魔剣使いにしては随分と使い方が甘いわね」
エイナの魔剣の刀身を人差し指で撫でる様に触れると白銀一色な刀身から紅蓮の炎が燃え盛った。そのままエイナはレンへと剣を縦に勢いよく振り下ろす。
「――ウッ!」
迫り来る炎の魔剣をレンは自分の魔剣で防ぐ。
試合開始から今まで剣術に頼りきりだ......。
何せ魔剣をこの手に握ったのは昨日が初めてで使い慣れていないからだ。魔法を使えば良いと言われるかもしれないが、魔法を使おうとするとその一瞬の隙で懐に入り込まれる。魔剣の扱いに慣れれば魔法のタイムロスを防いで行使する事が可能だ。だが、昨日の今日で魔剣の扱い方をマスター出来る筈がない。
更に言うと剣戟に関しても防戦一方だ。
日々鍛錬と戦闘試合をし、剣術と魔法を両立させた魔剣士はいついかなる時の闘いにおいても手強い。
しかも、相手はあの魔剣姫エイナ・ヴィデーンだ。
魔剣士のトップに君臨する強者。
レンはその巨大な対敵者に悪戦苦闘を強いられていた。
《横のブレイズ・フラップです。ご主人様》
エイナが大きくバックステップし燃える魔剣を、シュンっという風切り音と共に横に振る。
刀身の紅い炎は魔剣から離れ鳥の如くレンへと襲いかかった。
すかさず左手を前にし対魔法障壁を前方一体に展開する。
紅蓮の鳥が障壁と接触した瞬間、障壁は鳥を捕らえる網の様に囲み閉じ込めた。
魔力が尽きた障壁網の中で紅蓮の鳥は黒い煙を上げて焼失する。
《魔力の供給を断絶し消すとは、流石です。ご主人様》
レイさんも流石だ。一目で分かってしまう。まぁ、俺と融合しているから思考も共有されているのかもしれないが。
取り敢えず、一難を逃れた。だが、一難去ってまた一難。
すぐに次の攻撃が来る。
再び防御態勢に入ろうとするレン。
すると、レイが口を開く。
《ご主人様。魔剣は私が操作します。なので剣戟に集中し反撃して下さい》
魔剣が操れるのか? それもそうか、元はと言えばレイの身体だ。棲み慣れた家は住人が一番知っている。
レンは言われた通りに魔剣姫エイナとの間合いを考え剣術にのみ意識を向けて防御態勢から攻撃態勢へと移る。
脚の強化魔法『インテンシフィケーション』の効果を大幅に上げエイナとの距離を肉薄させた。
エイナが目前に迫り魔剣を左に引いたその刹那、突如レンの魔剣が蒼白く発光すると共に相反した涅色の炎が巻き付いた。
だだっ広い円形闘技場を蒼白い光で埋め尽くすほどの光量。予想範囲外の魔法を発動させられたエイナは目をやられ、視界を一時的に喪う。
《そのまま背後へ。ご主人様》
それは言われなくてもやる。
レイに指示を受ける前にエイナの背後を取ったレンは禍々しい炎を纏う魔剣を勢い良く振り下ろした。
――だが、その魔剣はエイナには届かなかった。
背中を護るように展開された対魔法障壁にぶつかり、攻撃が空振りに終わる。
「もういいわ」と言い右手を上げて降参。レンの方へと振り返るエイナ。
「このぐらいの実力者なら倒せるわね」
嬉しそうに笑顔でエイナは言った。
突如湧き上がる歓声。
闘いに集中していたからか、円形闘技場に他の軍兵達が入ってくるのに気付かなかった。
○ ○ ○
レンは観客に見守られながらエイナに手を引かれ円形闘技場から退場、屋外に設置されていた腰掛けで休みを取った。
「正直良かったわ。見た目より強くて」
コイツまた貶したな......。慈悲の心は無いのか?
レンを無視して鉄製の水筒を革製の鞄から取り出し水をゴクゴクと飲むエイナ。
その横顔をレンはボーッと眺めていた。
金髪ロングでアリスと似た髪型だ。顔立ちは整っている。貴族らしいと言えば貴族らしいが彼女には儚さを感じられない程の憧憬がある様に思えた。
するとエイナが沈む陽を眺めながら話し始めた。
「......貴方は数年前の帝国との戦争を覚えている?」
傾く夕日。
それに語り掛けるようにエイナがレンに訊く。
「確か七、八年前だっけ。僕はまだ幼かったから殆ど知らないけど西側地方ではかなり被害を蒙ったらしいね」
「......そう。あの戦争は悲劇だったわ。誰彼構わず皆殺し。血の雨。村中が叫び声で染まったわ」
笑顔は消え失せ、俯いて哀しそうにエイナは言った。
ただ、その顔に怒りや憎しみなどの憎悪は感じられない。
レンも何も言わずに耳を傾けた。
「私は家に居たわ。自分の部屋で、父の書斎にあった魔術に関する本を読んでいたの。私に優しかった侍女に本を持って来てと言ったらそれを渡されてね。それ程面白くは無かったけどやることが無かったから黙々と読んでいたわ」
エイナがクスリと笑い、顔に笑顔が蘇る。
だが、すぐにその表情も曇ってしまう。
「――そんな時だったわ。もう外が闇に埋もれた時間、叫び声が響いたのは」
レンが何か察して顔を俯かせる。
「驚いた私は自分の部屋の窓から、叫び声が聞こえた方を覗いたわ。そしたら鉄鎧を着た大量の兵士が村を襲い、火を放ち、村人を惨殺していたの」
言葉を紡ぐ度にその声が憎悪を帯びていく。
「その兵士達はうちの屋敷にも入り込んだわ。そして......」
その先をエイナは言わなかった。
「でも私は生き残ったの。私を可愛がってくれていた侍女さんがいてね。私を誰も知らない押し入れの奥の空間に隠してくれたの。お母さんの様に強い笑顔で『お嬢様、頑張って下さいね」って」
エイナは穹に浮かぶ夕陽に照らされた雲を見上げた。
「私は数時間、その場に籠ったわ。聞こえてくる断末魔の叫びに怯えて。そして私が部屋から出れたのは魔剣士達が助けに来た頃だったわ。助け出された時、感情が一気に溢れ出て脚が震え歩けなかったの。そしてそのまま気を喪って起きた頃には家族に囲まれていたわ」
「じゃあ......、村は......」
レンが気不味そうに訊く。
「ええ。焼け野原だったわ。だからこそ貴方がこの街を救ってくれてうれしかったの。少しだけ驚いたけどね?」
エイナが満面の笑みで言った。
レンも失笑し強張っていた顔が元に戻る。
「さて、そろそろ戻りましょうか!」
「そうだね」
ん? あれ、てか俺、何処に行けば良いんだ?
元来た道はもうほぼ記憶に残っていない。
《私が覚えています。ご主人様》
お、流石レイさんだ。
暇乞いをエイナにして帰ろうとすると、
「貴方は、こっち」
エイナがレンの襟を掴み引く。
え? なんで?
特に身に覚えのないレンは頭の中が疑問で埋まる。
「貴方、エグラス様に呼ばれてるのよ」
「......はぁ......」
国王の名を出されたレンに拒否権は無く、結局レンは王宮へと否応無く引き摺られて行った。
○ ○ ○
王都セトディン中心部王宮。
王宮には会議室や応接室以外にも玉座の間がある。
大抵、国民が謁見する時は此処で行われている。
玉座の間は王宮の中でも空間が広く部屋の至るところに国の象徴であり国旗にもなっている金色と水色の三日月が施されていた。玉座から扉迄は、端が金色のレッドカーペットで、一定の感覚で中央に三日月が装飾されている。
部屋はレッドカーペットを軸として線対称になっており、白い柱が八本並べられていた。その何れも旗が掛かっている。
そして王が座る肝心の玉座は赤では無く金色と碧色だ。センテルズ王国をより美しく見せている。王都セトディンの街風景を宮廷化したような感じだ。
この玉座の間はあまり使われない。謁見するにしても一般市民が中々お目に書かれることは無いからだ。
だがこの日は二、三週間ぶりに玉座の間が使われていた。
「レン・ジェラルド。君は帝国軍兵の強襲阻止に多大な貢献をしてくれた。私が王都の民を代表して礼を言わせてもらおう。本当にありがとう」
「え、えっと......。勿体なきお言葉......?」
レンはエイナに引き摺られ、アリスと合流。四、五分打ち合わせをした後、何かしらの受賞式へと強制参加させられていた。
そして気付けば自分が主役となっていたのだ。
受賞式そのものに興味が無かったレンは打ち合わせで聞いた話を右から左へ受け流していたのでぎこちない返事してしまう。
「ちょっと! もっとハキハキ言いなさいよ!」
アリスが跪きながらレンに向けて囁く。
分かってるよ! もう。
本当に耳が痛い話だ。これぞ自業自得と言うのだろうが、そんな事を考えていても仕方が無い。
レンはそう考え次の国王の言葉を聞いた。
「して、君には何かしら贈与したい。君は何を望む?」
「では、この魔剣を下さい」
即答。欲望を曝け出す様に答えた。「欲しいものは?」と訊かれたのだから正直で良いのだろう。
横でエイナとアリスが「何をしている!」、「この馬鹿!」とでも言いたげな顔をしているが全無視だ。
「良かろう。その魔剣は君に授けよう。既に気に入っているようだしね」
あら。いいのかしら? 貰っちゃって。
駄目だ、と断られるとレンは思っていたが、予想外の返答を聞き調子に乗る。
だが、戦場の支配者――エグラス国王は一筋縄では行かなかった。
「更に君にはグラムウォルフの一員としての地位を授けよう!」
「え......」
「良かったわね。レンた・い・い・ん」
エイナが満面の且つ不敵な笑みを浮かべて強調しながらそう言った。
○ ○ ○
レンが生きる怨霊を倒し街を救ったという報せは、兵士から街の役人。役人から王都の民達へと風の便りの如く伝わり、瞬く間に知れ渡った。
そして夜なのにも関わらず王宮の付近ではレンの功績を讃えるべく民衆が集まっていた。
レンは群がる民衆を見て「うわ......」と露骨に嫌味を吐き、別の道を通り荷物を置いたクラーク家の屋敷へと帰ってきたのだった。
「ふぅ......。何だよあの角砂糖に群がる蟻見たいな人達は」
「何よその例え。貴方を感謝を伝える為に来たのよ?」
レンの問い掛けにアリスが呆れ気味に応える。
因みにエイナとは王宮で別れている。
レンとしては不本意極まりないのだが......。
彼女はどうせ後々会うのだから、と言って手を振り宿舎へと帰宅路に着いた。
「でも大袈裟じゃないか?」
「......貴方ね......。それ私への皮肉?」
アリスが持っていた木製スプーンを両手で握り折った。
怖い怖い。エイナもだが、どうしてこう、貴族の金髪令嬢は顔は良くても中身が微妙なのだろうか。もっとお淑やかに過ごしていればレンにも魔法への探究心以外の恋心という物が芽生えるかもしれないのに。これは周りの環境が悪いのだろうか。
生憎だがそれは誰にも応えられない。
「い、いや。別にアリスに言った訳じゃないから......」
「ふーん。あっそ。じゃあ私はお先に」
「あ、うん。おやすみ......」
寝間着姿のアリスは洗面所へと向かい就寝の準備をし始めた。
レンも現在は寝間着姿だ。まだ夕食を食べていなかった二人は貴族宿泊施設の食堂で注文し、レンの部屋で食べた。
アリスはレンの部屋で食べる必要はないのだが、部屋が隣だと言うこともあり、一人で食べるより二人の方がいいと言って部屋に入り込んで来たのだ。
「うん。おやすみなさい。あ、そうだレン。今頃だけどグラムウォルフ入隊おめでとう」
「もういいから、戻れ!」
思い出したくも無いことが蘇ってしまい、声を荒らげる。
舌を出して無邪気な笑顔を見せたアリスはそのまま隣の彼女の部屋へと帰って行った。
「はぁ......」
グラムウォルフとか面倒臭い......。
魔剣士が集まるセンテルズ王国直属部隊は国の大きな戦力だ。故に一日一日の訓練もハードだと噂されている。
グラムウォルフについてある程度の知識を持っていたレンはこの先降り掛かる面倒事に頭悩まされ、憂鬱になるのだった。
ふぅ。
皆さんお久しぶりです。伏綸子です。
もう最近色々あって投稿遅れてしまいました(ㅠ.ㅠ)
ホントすいません......。
本題に移りますが、
今回はどうだったでしょうか?
前回に引き続き決闘から始めましたがサラッと終わりましたね(笑)
途中で出てきたエイナの侍女さんですが今後もエイナの回想として出す予定です。
なんか思い出深そうですし、お寿司。
そういえば最近自分の総合ポイントを数ヶ月ぶりに見たら読者さんご評価していて頂いてとても嬉しかったです!
あまりの歓喜に部屋でジャンプしたら開いていたドアの角に足の小指をぶつけました。
痛かったです。
最後に!
読者さん最後まで読んでいた頂き誠にありがとうございます!
これからもレンの物語は続いていきますので、読んで頂けると幸いです。
あと、評価をして頂けると有難いです。
ではこれからも精一杯楽しんで書きますので、よろしくお願いします!




