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魔術侯爵家の幼馴染み  作者: 伏綸子
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魔剣姫――エイナ・ヴィデーン

 一面美しい純白、王宮らしい金色と澄んだ水色の装飾が施された天井。部屋の壁際には真っ白なベッドが対称的に並べられ、怪我をした軍兵、又は王国の関係者達が運ばれ休む医療室となっている。

 レンもここに運ばれ身体を休め癒していた。


「魔剣姫様が運ばれるぞ!」


 見回りをしていた兵士が部屋のドアを蹴り開け叫ぶ。

 魔剣姫......?

 レンが頭の隅で疑問に思う。

 医療室で怪我人の治療中だった治療師達は手を止めハッと息を呑んだ。所々では「あの魔剣姫様がッ?!」と、驚愕の声を漏らす者もいる。


「――エイナ様! 起きて下さい! エイナ様ッ!」


 今にも泣きそうな声で名を叫ぶ女性。

 『魔剣姫』ってあの人の事だったのか。

 彼女の呼ぶエイナ様とはエイナ・ヴィデーンの事だろう。魔剣士(グラムラー)が集まる王国軍直属の部隊【グラムウォルフ】の隊長。魔剣を使った闘いにおいて右に並ぶ者はおらず、故に魔剣姫と呼称されている。セルテルズ王国で知らない人は居ない程の有名人だ。


「......うっ......。イライザ、起きましたから静かにして下さい」


 エイナが喚く部下――イライザ・ホルンに、額を抑え苦笑しながら制止する。

 イライザはやっとの事で目を開いた自分の尊敬する隊長に嬉々として抱き着いた。

 まるで何年も会えなかった家族の再開の様だ。


「――ところであの化け物はッ!?」


 朦朧とする意識から脱したエイナが自分を圧倒した生きる怨霊(レイス)を思い出しその行方を訊く。


「は! 生きる怨霊(レイス)と思われる化け物はそこで御休みになられているレン殿が討伐されました」


 彼女を担架で運んで来た兵士が応える。

 うっ......。何故今此処で言う。面倒なことになるだろうが!

 脳内で兵士への愚痴と厭味を繰り返し吐き捨てながら背を向け知らんぷりをする。


「そこの少年が......ですか?」


 注がれる視線。

 いや、突き刺さる視線と表現した方がいいか。

 必死に、寝ている()()をしているレンの背中には冷汗が滲み出ていた。


「冗談はよして下さい。休まれているのに......迷惑ですよ」


 俺の背中に向かって「申し訳ございません」と謝るエイナ。

 寝ている俺はつい反応してしまい背を向けながら「お気になさらず」と返してしまった。


「......やはり起きていましたか 」


 呆れた目で見凝めてくる。

 ギクリ。狡いぞ。この女。

 このエイナとやらは演技にも長けているようだ。いっその事、街の劇場で演劇でもミュージカルでもやればいいのに。

 ついでにエイナにも愚痴と厭味を脳内で吐き捨てる。

 はぁ......。


「すいません。起きてました」


 諦めてベッドから起き上がり寝たフリをしていたことに謝罪を述べた。


「それで、貴方が生きる怨霊(レイス)を倒したのですか?」

「いえ、違います。それでは僕は帰りますね」


 即答。一瞬の間もなく返した。

 隙を与えず立ち去る作戦だ。今までアリス相手には通用していたし今回も行けるだろう。

 そう思っていた。

 魔剣を掴み立ち去ろうとしたその時、


「あら、その魔剣は何ですか?」


 不敵な笑みを浮かべ問い掛けるエイナ。

 魔女見たいだ。事実魔法を使えるから魔女ではあるが......。

 まぁ、それは置いておくとして何となく嫌な予感を感じる。


「確かそれはあの生きる怨霊(レイス)が持っていたはずでは?」


 気絶していた筈なのになんでそんな事知ってるんだよ。

 いやまぁ、十四歳の少年が魔剣を所持している時点で怪しまれるけどね。


「これは......」

「これは?」


 グッ......。隙もなくオウム返ししてきたぞ。

 来世は森の中で棲んでみて見ては如何だろうか。

 きっとピッタリの棲息地だ。


「......」


 兵士さんが「貴方様が倒してたのであれば持っていて下さい!」とは言えないし......。

 他にこの五月蝿い女から逃れる方法はないのか?

 最終的にニッコリフェイスを維持出来ず苦笑いしながら黙り込んだレンは音を上げて事実を説明した。


「そうだったんですか。王都を危機から救って頂きありがとうございます」

「いえいえ。たまたま鉢合わせたので仕方が無くやっただけです」


 紳士っぽく答えた。我ながらに格好良いかも?

 自分に惚けた様な顔をしているレンを傍にエイナは次の言葉を飛ばした。


「ですが、本当に貴方の様な子供が倒したのですか?」


 ムッ。失礼な。ちゃんと自分で倒しましたよ。

 言い返すと俺が不躾な態度を取ったように見られるので中々言いづらい。

 又もや黙り込むレン。


 《ご主人様(マスター)。この女腹が立ちます。殺しましょうか》


 急に喋り始めたかと思えば殺人予告をする魔剣さんだ。

 俺の平穏な日々は何処へ消えていったのだろうか......。


「貴方からはあのレイス(化け物)を倒せる程の魔力を感じませんが?」


 黙っていたらとことん否定してくるじゃないか。

 魔力の滲出を抑えるぐらい当たり前だろ?

 面倒な事は出来る限り避けたい事なかれ主義のレンも口が出そうだ。


 《やはり殺しましょうご主人様(マスター)


 おい、待て早まるな。殺したら家に帰れなくなるだろ!

 此処は無言を貫き全部聞き流し話題を変えよう。

 そんな事より、お前の事はどう呼べば良いんだ?


 《はい。私には「名」と言う固有名詞を付ける者は居りませんでした。ですのでご自由にお呼び下さい。ご主人様(マスター)


 愚問だった。よく考えれば分かる事だ。

 しかし困ったな。名前か......。

 色々思案している内に何となく決まってきた。

 単純だが、生きる怨霊(レイス)から抜き取って【レイ】というのはどうだろうか?


 《ありがとうございます。ご主人様(マスター)。これからはレイ、と名乗らせて頂きます》


 すっごく適当だけど気に入ってくれたようだ。

 抑揚の無い声からそんなのを感じた。

 それで、レイはいつまで俺の中にいるんだ?


 《はい。レイは今後永久に此処に居ます。ご主人様(マスター)


「へ?」


 思わず変な声が出てしまった。

 いや、俺の中に居られても......。

 別に邪魔だと思ったりやら困窮する訳では無い。だが、思案をしていると急に声が脳内に響き渡るのに少しの戸惑いはあった。


 《日常生活に支障は来たしませんので御安心を。ご主人様(マスター)


 お、おう。なら良いや。

 どうせ俺に溶け込み融合した所為で抜け出す術も無いだろうし。

 これからよろしくお願いします。

 一人で脳内会話してると虚しくなる。逆に一人の時は哀しくないのか。


 《はい。ご主人様(マスター)の言う通り出られませんし出たくもありません》


 おっと、予想が的中した。更に引きも籠り宣言も果たしてくれた。

 その分厚い意地に賞賛を贈りたいな。

 レイと脳内会話をしていたらいつの間にかエイナは黙り、涙目で此方を見凝めている。


「......せめてウンとかスンとか行ってくれませんかぁ......」

「スン」

「何ですか!? 喋ったと思えばスンって何ですか!? 確かにウンとかスンとかって言いましたけど意味合いが違います!」


 実力と美貌はあるのに勿体ない人だな。

 半開きの惘れた双眸でレンは視線を向けた。

 エイナさんは本当に十六歳なのだろうか。身長は俺より高いが胸と精神は成長途中なようだ。

 もっと俺みたいにクールな大人に成れば良いのに。

 レンは自画自賛気味な意見を思い付き、それを聴いていたレイは一言も喋らずも無くただ黙っていた。


「それで、俺に他に用はありますか?」


 身体の傷は治療師の方に治してもらった。此処に居座る必要は皆無だ。と言うか早く帰りたい。そう言えば本来の目的の魔力測定は何時だったっけ?


「今は良いです。ですが貴方の正体は調べ上げますからね」

「別に隠してる事も無いからご自由にどうぞ〜」


 知られると危険なやましい事は特に無い......。筈だ。

 せいぜい多種多様な魔法を行使出来たり今レイと融合している事ぐらいだ。その辺に関しては俺以外誰も認知していないので大丈夫。

 レンは胸をそっと撫で下ろした。


「それでは」


 運良く負った傷は掠り傷だけだったがそれを治してくれたのに違いは無い。自分を担当した治療師の元に寄り礼を述べてから医療室を背に向けた。

 王宮からすぐ出る。


 ――筈だった。


「この王宮広過ぎだろッ!?」


 ええ、迷いましたとも。何処を歩いても同じ様な部屋に廊下に階段ですもん。此処は迷宮ですか。迷宮ですね。分かります。

 しかもレイさんはずっと黙りっぱなしだ。自分も知らないのがよく分かる。


 《そんな事は御座いません。ご主人様(マスター)


 ほほぉ。ならこの終焉なき無限に続く巨大迷宮を乗り越える手段はあるのかな?


 《......》


 ほらな。やっぱり知らない。

 それにレンは先程から王宮の構造を調査しようと随時魔法を発動しているが全て反射され不発に終わってしまう。どうやら対魔法の結界が張られているらしい。どんな魔術士が相手でも王宮だけは守りきれるように。レンも結界の要素を知ろうと意識を向けるが黒い靄が掛かったように見えない。

 やはり魔法で王都から出るのは不可能か......。

 他に方法は無いので人に出口を訊いて出る事にした。

 最初からそうすれば良かったのだがそもそも人を見掛けていない。


「あら、先程のレンさんじゃないですかぁ〜!」


 この魔剣姫は何処から現れたんだ!?

 急に背後から現れたエイナが不敵な笑みを浮かべ喋りかけて来た。


「もしかして迷子ですかぁ〜?」


 妙に語尾が引き伸ばされている。

 頭にくる話し方だ。


「そうですが何か」


 こういう時は開き直った様に喋ると良いとアリスに言われた事がある。


「そうですかぁ〜。では私は用があるので、お先に失礼します」

「ちょ、ちょっと待って」


 あれ? アリスから聴いた上流階級での豆知識なのだが、上手くいかない。頼りにならないな......。

 これ以上この迷宮で道草を食いたくないので仕方が無く矜恃を削って願いを請うことにした。


「その......出口を......教えてくれませんか......?」

「なら、貴方が生きる怨霊(レイス)を倒せる程の実力者だということを証明して頂戴」


 更に面倒くさくなってきた。もっと忌避感を持つべきだった。

 でも早く出る為にはこの決闘を受けた方が手っ取り早い。

 レンは頷き承諾した。

 それからレンはエイナに王宮から少し離れた闘技場へと案内された。

 取り敢えず王宮から脱出出来たのでエイナから逃亡するのもアリだと思ったが恨みを買って後々倍返しされても困るので逃げなかった。


「剣は普通のにする? ってレン君は魔剣以外に何も無いか」


 自分が放った愚問に、口に手を添えながら苦笑するエイナ。

 レンは自分が、帝国軍兵から奪った魔剣を腰に提げている事に少し驚いた。(あたか)も、昔から使い慣れた様に自然に持っていたからだ。そもそも王都の兵士に返す筈だったのだが未だに返していなかった。


《返してしまうのは勿体無いです。ご主人様(マスター)


 あらそう?

 自分が長い間棲んでいた魔剣に名残り惜しさを覚え手放すのを躊躇うのも当然なのだろう。この点に関してはレイにも微かな感情はあるらしい。


「そうですね。これで闘います」

「分かったわ。なら私も同じ物で」


 そう言ってエイナも腰に掛けていた自分の魔剣を抜く。

 それに合わせレンも白銅色の魔剣を抜き握り締める。


「もう準備は良いわね?」

「ええ。もう良いですよ。因みに魔法もありですよね?」

「当然。貴方の本気を知る為に勝負を挑んだのだから当然でしょ?」


 当たり前だ、とでも言うかのように嘲笑するエイナ。

 視線と視線が交差する。

 強化魔法『インテンシフィケーション』を互いに発動したその瞬間、剣戟による甲高い音が闘技場を響き渡らせた。

どうも伏綸子です。

三日ぶりですか?

「ぶり」を取つけるほどでもない日数ですね。


今回はスローモードかと思いきや戦闘へと続く架け橋になってしまいました。

あと、レンの魔剣さんに名前がつきました!

とても単純な名前だ......。


次に、

読者の皆さん最後まで読んで頂きありがとうございます!

今回は4500文字と少し少なめでした。

申し訳御座いません。

次回はちゃんと5000文字書くつもりです。

それでは!

早く寝たいので......。

また次回お会いしましょう!

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