21話 たまにはほのぼの
マルゲルスの件以来、俺にもできそうな依頼がぼちぼち増えてきた。
何でも、「変態にさらわれたが、知恵と根性で立ち向かい無事に逃げ延びた」とか、「密偵としてある貴族の不正を暴いた」などの眉唾な噂がひろまり、興味が半分、この娘なら任せても大丈夫そうだという判断らしい。
何か納得できないが、これで幼女の姿でも当面の生活費が工面でき、あのド変態に付き合った苦労が報われるというものだ。
内容としては市場が開かれたときの屋台の売り子、落し物の捜索、平民街の掃除などだった。
腕っ節のある奴がしたがらないような仕事が俺に回ってきただけなのだが。
そんな感じで、このクランとしても町の奴らと面識ができてきたある日のことだった。
「何だって?」
「いや、サーヤって知ってるだろ?」
俺は傭兵団の中でも若いトッズに声をかけられた。
「あぁ、パン屋のサーヤだろ?」
「その子に何が好きか聞いてきてほしんだ。」
「は?自分で聞いたらどうですか?」(てめぇで聞けよ、バカ。)
厳つい野郎がモジモジしながら言ったって、気持ちわりぃだけだっての。
「お、俺が直接聞いたらダメだろ。頼む、500ルクスやるから、聞いてきてくれ。」
500か、ガキの小遣いにしちゃ妥当だが…。
「もう一声。」
「くっ、700。」
「2000。」
「なっ!?……1500っ!」
「りょーかい!」
俺は十分すぎる小遣いを手に、意気揚々と商店街に繰り出していた。
商店街と一言で言っても、貴族用と平民用がある。
同じ商店街でも区画が違い、その店並びや雰囲気からして違いは一目瞭然だった。
俺は下町のパン屋を覗き込む。
昼飯時も過ぎた時間帯のため、ちょうど客の姿はなかった。
「あら、クランちゃんいらっしゃい。今日は休みなの?」
パン屋の看板娘、サーヤが俺に気付いて声をかけてきた。
クラインのときからサーヤと面識はあったが、世間話をしだしたのはクランになってからだ。
何度も言ってきたが俺は目つきが悪く、ただ見るだけで相手は睨まれていると勘違いしてびびってしまう。
このサーヤも、俺がパンを買うときは決して目をあわせようとせず、彼女の頭にパンクズがついていたので声をかけようとしたら「ひっ!」と声を上げて、「すいません、すいません、すいませんんん!」と涙目になってひたすら謝り続けるようなありさまだ。
さすがにパン屋のおじさんとおばさんは俺の目つきでビビルことはなく、娘の態度を俺に謝ってパンを何個かおまけしてくれるのがいつものことだった。
クランになってからは気さくに話しかけてくれ、クラインのときはあんだけビビッていたくせにお姉さんぶって話しかけてくるのがおかしかった。
クラインについて聞くと「悪いヒトじゃないのは知ってるんだけど、何か気迫っていうか、悪いヒトを捕まえるときの衛兵みたいな雰囲気で、もう見られただけでごめんなさいぃぃぃってなっちゃうのよね。ほんと、悪いとは思ってるんだけどね。」とウインクしながら舌を出して笑った。
今度クラインとして会うときは、腹に力を込めて対応してくれよ?。
「ねぇ、サーヤ姉ちゃん。」
「な~に?クランちゃん。今日のお勧パンが聞きたいの?」
「違うよ…、人の話は最後まで聞こうよ…。」
この子思い込みが激しいんだよな…。
いざ話してみると、人の話を最後まで聞かないで突っ走るわ、このキャピキャピした感じというか。
確かサーヤの歳は17か18だっけ?
なんちゅうか、おっちゃんジェネレーションギャップを感じちまうわ。
「サーや姉ちゃん、何が好きなの?」
「え?いやだー!お姉ちゃん、クランちゃんのことがだーい好き!!」
サーヤは耳にいたい歓声を上げたあと、しゃがんで俺を抱きしめた。
くそう、ちっとも話がすすまねえ。
「そうじゃなくて、何か欲しいものとか好きなものとかあるかって聞いてんの!」
俺はこのやりとりにかなりイライラしながら、サーヤを引き離して問い直す。
「え?クランちゃん、お姉ちゃんに何かプレゼントしてくれるの?嬉しい~!!」
再度抱きつこうとしてくるのを手で押しのけ、俺はもう怒鳴った。
「ちげえって、俺じゃねえよ!!」
「いやん、クランちゃん、お口が悪い子ぉ。じゃ、もしかして、プレゼントをくれるのって…キース様?」
「ち、が、う!俺の質問にだけ答えてよ!!」
サーヤはお得意のウインクと舌を出すポーズで謝ってみせた。テヘペロというらしい。
「おいおい、この馬鹿娘にプレゼントしようなんて男がいるのかよ!? どこだ?そいつはどこのどいつだ!? 」
パン屋のおっさんが、がなり声を上げながら厨房から出てきた。
この親にしてこの子ありなんだよな…。
「ちょっとぉ、お父さん何勝手に聞いてんのよ!」
「うるせえ、店ん中でぎゃあぎゃあ言ってるから厨房まで聞こえて来るんだよ!」
そのまま俺を無視して二人で親子喧嘩を始めた。
俺、今日休みなんだけどさ、もう帰っていいよね…。
あぁ、どっかに巨乳のねーちゃん落ちてないかなぁ…。
ドガンッッッッッ!!
なかなかの音がして我に返ると、頭を抱えてしゃがみこんでいるおっさんと、パン生地をのばす棒を持ったおばさんの姿があった。
あぁ、下町のパン屋名物『おばちゃんの愛の棒』かぁ。
「クランちゃん、うちの馬鹿どもがごめんねぇ。」
「いえいえ。」
「それでさっきの話なんだけど。」
そこでおばちゃんは俺の両肩をガシッとつかんだ。
「周りの娘はもう旦那を見つけて一緒になっているってのに、うちの馬鹿娘はいまだにいい話がこないんだよね。」
グッと顔を寄せてくる。近い、近い、近い。
「クランちゃん、お願いだから、その奇特な男をうちに連れてきておくれよ。」
「だ、だけどそいつ傭兵団の男で…。」
性格はいいんだが、一般市民にはちぃっと刺激が強いんじゃないか…と続けようした。
「「「お願いしますッ!!」」」
そのまま、俺は何がなんだかわからないまま傭兵団へ戻り、待ち構えていたトッズにありのままを話した。
「えっ!? 何でいきなりそうなったの!? 」
「知らね。パン屋に来いってさ。」
「えええっ!?何それ!? 」
「知らね。行って来い。」
そして1ヶ月ほどたった頃、サーヤとトッズが結婚し、トッズは傭兵団を辞めパン屋の跡継ぎになると報告があった。
「何それ?何それ?ナニソレッ!? 」
そしてもう一つ変化したこと。
トッズの結婚を皮切りに「俺もいけるんじゃないか!? 」という連中が、俺に橋渡しを頼んでくるようになった。
しかも傭兵団の奴だけじゃなく、一般市民のお嬢ちゃんからも頼まれるようになった。
なんでも俺に頼むと恋愛が成就するというジンクスが広まっているらしい。「恋のキューピッドちゃん」だとかいう、クッソ寒いあだ名までついた。
「そんなこと、てめえらでしやがれ!!」そう悪態をついて断った時期もあった。
だがしかし!恋に飢えた連中は貪欲だった。奴らはなんと傭兵団に正式に依頼してきたのだ。
しかも、ただ気持ちを口頭で伝えにいったり、プレゼントを渡しにいくだけで、成功したかは関係なくかなりの報酬があった。
その報酬に負け俺指定のその依頼を受けていった結果…、信じられないことに、独り者だらけだった傭兵団の半分くらいが結婚もしくは彼女もちになってしまった。
「あっはっはっは!こりゃ奇跡だな!この調子で野郎どもみんな、女房がみつかるといいな。
これもお前のおかげだよ!なぁ?恋のキューピッド様よ!」
今日も独身寮を引き払っていく奴を見送りながら、おやっさんが豪快に笑う。
そいつは平民街で暮らしながら傭兵団へ通うことになっている。
「なぁ、おやっさん…。」
上機嫌で俺の肩をバシバシと叩くおやっさんを見上げる。
「何だ?」
「おやっさん、…俺の彼女は?」
「…は?」
「俺の彼女は誰が見つけてくれるんすか?このままじゃクラインに戻っても俺だけ彼女いないままじゃないですか!俺だけ独身寮に永住っすかぁ!!」
おやっさんは一瞬まじめな顔になったが、上機嫌な顔に戻り俺の肩をバシバシ叩き出した。
「俺の息子の嫁に来るかぁ?二人とも出来のいい自慢の息子だぞ!あっはっはっはっは!!」
「おやっさんの馬鹿ぁぁぁぁぁっつ!!」
おやっさんの脛をおもいきり蹴り上げ、俺はわめきながら自分の部屋に駆け込んだ。
ベティちゃんっ、俺を癒してくれぇぇっ!!
後でおやっさんから聞いた話では、俺が錯乱して傭兵団の入り口で「クラインに戻ったら」とか叫んでしまったためにごまかしで言ってくれたのだそうだ。
そうとも知らずに脛を思い切り蹴り上げてしまったことを謝ったが、「だがうちではいつでも嫁にきてくれてかまわんぞ。」と結構な真顔で言われ、頭を下げるのはやめた。
冗談だよね?ね?おやっさん……。




