22話 そうだ!酒場に行こう
「リーシャちゃんが王都に入ったらしいぞ。」
ざわめきのなかその一言が耳に飛び込み、俺は動揺して椅子から転げ落ちそうになった。
その日俺は非番で、することもなく待機所でダラダラ過ごしていた。
今日は長い髪を結い上げず背中にたらし、飾り紐でひとつにくくっただけの楽な髪型だ。
以前子どもの髪型に詳しいという奴に、頭の両側を飾り紐で結んだ『二つの尻尾』という髪型にされたが、動くたびに顔の周りをブランブランと髪が動くのでそれ以降はしていない。
てか、奴は独身なのになんで子どもの髪型に詳しいんだ?
「サイスゥ、お前、それ本当なのか?この前も同じこと言ってガセで、クラインに半殺しにされたばっかじゃねえか。」
そうだ、落ち着け俺。この前もそう聞いて『俺の台所亭』に行ったが、ガセネタだったじゃねえか。
落ち着くんだ。
「おう、この前は頭からハゲ隠しのヴェールをかぶった行商のおっさんと見間違えただけだったろ?そこまでクラインに知られていたらお前、この世にいねえぞ。」
何だと!? サイス聞いてねえぞ!お前あろうことかリーシャちゃんとハゲ頭のおっさんを間違えただと!!
元に戻ったらお前覚えておけよ!!
「ち、違ぇよ!今度はちゃんと『俺の台所亭』の親父に確認したからよ!今夜リーシャちゃんが酒場に来るそうだ!!」
「「「うをぉぉぉぉぉぉぉおぉぉっ!!」」」
応急処置をした壁をチラチラ見ながら断言するサイスの言葉に、傭兵団の広間は野郎どもの歓声につつまれた。
その興奮のまま軽いドツキ合いでも始まると思ったが、野郎どもは一瞬で静まり返り俺に注目していた。
「……ん?…っつ!!」
気が付くと俺は椅子の上に立ち上がり、両手を天に突き上げガッツポーズをしていた。
おぉう、いつの間に!!
急いで何事もなかったように椅子に座りなおす。
「今の騒ぎは何事ですか?」
野郎どもの雄たけびに、キースが執務室から顔を出した。
「サイスさんが賭けに負けたので、酒を皆におごると約束して盛り上がっていたところです。」
「ええぇぇっ!?」
俺は即座にキースに説明した。
「そうそう、心配いらねえぜ。騒いで悪かったな!」
サイスの隣にいた奴が、抗議しようとしたサイスを押さえ込み俺に調子を合わせる。
うまい話に敏感な奴らはこういうときにすぐ乗ってくれる。
「そうですか、ここには一般の方も来られるのですから、あまり騒がないようにしてくださいよ?」
「「「ういーっす。」」」
傭兵団の良心が部屋に消えたところで、俺はサイスのところへ行く。
「ひどいっす、クラン坊も皆も…。」
開放された首を振りながら、情けなくサイスがもらす。
俺は抑え目に、しかし広間に聞こえるよう意識してサイスに話しかける。
「サイスさん、リーシャちゃんとオジサンを間違えたことをクラインに知られたくなかったら、皆さんに酒の一杯ぐらいおごるべきだと思うのですが。」
『そうだ、そうだ、奢りやがれ!』
『クラン坊、良いこと言うぜ!』
『今までクラインに黙ってやった優しい俺たちに感謝しやがれ!』
キースにばれないように小声で奴らもはやし立てる。
一応言っておくが、俺に黙っていたお前ら全員同罪だぞ。
しかし、今はそれどころではない。
「ひぃぃぃぃ、俺そんなに金持ってないっす!」
サイスはクランである俺を抜けば一番の新入りなので、金がないのはよく知っている。
「サイスさん、言いだしっぺの私も半分払いましょう。」
俺は青ざめているサイスに、善良な笑顔を心がけながらささやいた。
「しかし交換条件があります。私も酒場に連れて行ってください。」
そう、リーシャちゃんに会うためには酒場に行かなくてはいけない。
しかし俺は幼女だ。いや言い直そう、俺の姿は幼女だ。
常識で考えて夜の酒場に出入りできない。
そこでだ、かなり強引であるが他の奴を仲間に引き込んでサイスを追い詰め、交換条件に俺を酒場に連れて行かせる、うん完璧だ!
「え?クラン坊、酒場に行きたいのか?いや、それは駄目だよ。こんな小さい子の行くところじゃないよ。」
ちっサイスの奴、以外に常識人じゃねえか。もう一押しか?
「酒場で金が払えずに皆にボコボコにされたり、クラインにばれてボコボコにされたりするのと、私を酒場に連れて行くのとどれがいいのでしょうね…。」
「ぐっ…、い、いいかい、お酒は絶対に飲んじゃ駄目だし、早めに帰るって約束してくれたらいいよ…。」
「はぁ~い、クラン、いい子でサイスさんの言うことを聞きま~す!」
俺は天使の笑顔を浮かべ片手を上げた。ちったぁサイスも持ち上げてやらんとな!
後にヤツは悪魔のような笑顔だったと語る…。失礼な!
夜も帳が下り家々の明かりが消えるため、平民街は闇に包まれる。
そんななか昼間とまではいかないが、明々と夜の住人たちを誘いこむ光と喧騒のなか、俺は頭からローブをかぶりサイスと一緒に酒場まで来ていた。
このローブも奥さん手作りなのだが、ローブとして基本的なベージュ色でありながら縁全てに赤と金で刺繍されており、一見地味ながらかわいらしい作りとなっている。
ちなみにもう一着のほうはフード部分にでかい猫耳がついており結構目立つためにこちらを着てきた。
「あちらの角に行こうか。」
サイスに手をひかれ部屋のすみに移動する。
先に来ている野郎どもは適度に酒が入っており、全身をローブで隠したちっこい俺の姿など気にする奴はいなかった。
俺は壁際に無造作に置かれている椅子に座ると、野郎どもの酒代の入った皮袋をサイスに渡した。
俺にとってもまぁまぁ痛い出費だが、リーシャちゃんの巨乳を拝めると思うとどうってことなかった。
それほどまでに俺の生きがいなのである。
「サイスさん、私はここから動かず大人しくしているので、どうぞ好きなところに行って楽しんでください。ここまで来て子守は無用ですよ。」
本来なら酒場の中も物騒なのだがリーシャちゃんが来ているときは奴らも大人しいし、なにより踊り子の巨乳を見てデレデレと鼻の下を伸ばしているところを見せたくなかった。
人目を気にせずに堪能したいじゃないか!そう、いろいろと!
最後まで読んでいただいてありがとうございました。




