第四章 【康時】
何だろう…これは…
僕は自分の部屋の床に一人、体操座りをしていた。毛布に体を包めて。
赤城努は中山美花を殺害して、その罪を償う為に自らの命を絶った。
事件は無事、幕を閉じたのだ。
昌子さんは、この結末に余り腑に落ちない様子だったけれど、すぐにそれを受け入れてくれるはずだ。そして、いつもの様にお互いの詩や小説を見せあったり、週末には色々な所へ一緒に遊びに行ったり…そんな楽しい毎日が、これから訪れるはずなのに…
何だろう…これは…
僕は自分の胸を押さえた。
痛みがある訳でも、風邪を引いた訳でも、嫌な事があった訳でもない。ましてや今は、ものすごくうれしいはずなのに…
僕はポケットから財布を取り出して、その中から西村空江の写真を出した。
何かの役に立つかもしれないでしょう?
昨日先輩はそう言ったけれど、実際、今回の事件でこの写真は何の役にも立たなかった。それに第一、こんな不謹慎な物はさっさと捨ててしまわなくてはならない。
僕は写真を掴むと、指先に力を込めた。いや…待て。
捨てる前に、もう一度見てみよう。もしかしたら…
指先の力を緩めると、改めて写真の遺体を眺めた。
頭から吹き出た鮮血。左手の甲についた【×】の真新しい傷跡…
真新しい傷跡?この傷は…
「…まさか…」
僕の頭の中はパチンと弾けたが、体の方はすっと力が抜けた。
「…そんな事が…」
一階の電話が鳴った。
僕は椅子を支えにしながらようやく立ち上がると、ふらつきながらも一階へ行き、その受話器を取った。
「もしもし、康時君?」
やはり、相手は彼女だった。彼女は僕に直接会って重要な事を話しておきたいから、あの公園に来てくれと言った。
「ええ、結構ですよ」
僕も丁度あなたに会いたいと思っていた所なんですから…
受話器を置いて玄関へ向かい、窮屈ないつも靴を履いて、ドアを開けて再び外へと出る。
【西村空江】の写真を片手に持って…
次で犯人が分かります。




