第四章 【昌子】
「やっぱり、赤城が犯人だったんですよ」
警察署から出る際、康時は私に言った。
赤城の首吊り遺体を発見したという康時は、すぐさま公衆電話で警察と救急車を呼んだ。その後、数時間ほどここで事情聴取を受け、ようやく私達は解放されたのだった。
「でも、玄関であなたの帰りを待っていた時、何となくあの部屋のポストを覗いてみたら、なぜか扇風機のリモコンがぽつんと入っていたんだけど…」
「【中山美花を殺したのはこの僕、赤城努です。なので、死をもって償います。】という手書きの遺書が机の上から見つかって、その上、部屋に入ってすぐにあった扇風機の足元にあの部屋の鍵が見つかった。つまり、ほぼ誰も出入りのできない密室で赤城は死んだんですよ。自殺以外に何が考えられますか?事件はもう、終わったんです」
「…だといいけど…」
それから私達は言葉を交わさなかった。
数時間前、康時が鳩に餌をやったあの公園まで来ると、一つの人影が私達に近づいてきた。
康時のお母さんだった。
警察から連絡があって向かえに来たのだろう。その表情は不安に包まれている。
私達は彼女が口を開ける前に頭を下げた。
「ごめんなさい…心配掛けてしまって…」
「いえいえ…あなた達のせいでこうなってしまったんじゃないんだから…ともあれ、二人とも無事で良かった…」
「………」
これからは軽率な行動を慎む様にしよう。私は胸にそう刻んだ。
「そうだ」
さっきの表情から一転。お母さんの表情は、またいつもの様な朗らかな表情に戻った。
「昌子さん。今日も家で食べて行きませんか?遠慮しなくていいですよ」
どんな形であれ、知っている人がまた死んでしまったのだ。
「…今日はそんな気分じゃないので…」
「あら、そうなの。それじゃあ、気が向いたらいつでも食べに来て下さいね」
「ありがとうございます…それでは」
私が後ろを向いて家に帰ろうと歩き出そうとした時、お母さんは私の背に「ちょっと」
と声を投げ掛けてきた。
どうしたのだろう?
「私達…どこかで会いませんでしたか?」
私はわざと聞こえないふりをして、その場から立ち去った。
アパートの自分の部屋へ着いた。私はいつもの様に鍵を開けて明かりを点ける。そして、眼鏡とゴムバンド、左手の皮手袋をはずしてベッドにダイブした。
やれやれ…とんだデートになってしまったものだ…だけれど、全てがもう終わったのだ。私達はまた、事件とは無縁の生活へと戻るだろう。そして、滅茶苦茶になってしまった
今回のデートも、これからいくらでもやり直せるはずだ。
だが…
私はバックを開けて、中からカメラを取り出した。実は、康時が警察に電話を掛けに行った隙にこっそり部屋の中へ入って、赤城の遺書を写真で撮っておいたのだ。
私の心のどこかではまだ赤城は自殺ではなく、他殺だと思っていたのかもしれない。
私は最後に撮った赤城の遺書のデータを開いた。
【中山美花を殺したのはこの僕、赤城努です。なので、死をもって償います。】
「あれっ…」
私はバックからもう一つ、ある物を取り出してカメラの画面に写っている遺書と見比べた。
「…やっぱり…ね」
私は鼻で笑うと、電話に手を伸ばした。
これで本当に、全てが終わる。




