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EIGHTEEN LIVES:再生の迷宮〜二度目のチャンスのダンジョン〜  作者: ルーク
【 旅路に縛られし者へ、ようこそ 】

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2/19

1階 - 城壁

カエルの旅は、喪失と、与えられた二度目のチャンス、そして、一つのミスが大きな代償を伴う過酷な試練から幕を開ける。18の命と101の階層を前にした彼にとって、最大の難関は単に生き残ることではない。死がもはや「終わり」ではなく、決して無視することのできない「教訓」となってしまう世界で、それでもなお歩み続けるための強さを見出すことなのだ。


お読みいただきありがとうございます。ぜひ、カエルの旅路を見届けてください。『18の命:再生の迷宮 ~二度目のチャンスのダンジョン~』。

 悲鳴は二度と聞こえなかった。


 その方が、かえって恐ろしかった。


 カイルは冷たい石の床に伏せたまま、肋骨を叩くように激しく脈打つ心臓の音を聞いていた。闇のどこかで、静かに水滴が滴る音がする。ポツン。ポツン。ポツン。


 (動け)


 身体は動かなかった。


 (動け、この間抜け。もうあの白い空間じゃないんだぞ)


 彼は唾を飲み込み、何とか膝をついて起き上がると、ようやく周囲をまともに見回した。


 部屋は狭かった。幅は三歩、奥行きはせいぜい四歩。壁には一本の錆びた鎖がボルトで固定されている。ベッドもなければ、窓もない。


 そして、あの薬瓶(フラスコ)だ。


 奥の壁に沿って、何十本もの瓶が細い針金で吊るされている。丸いガラスの膨らみ、細い首、コルクの栓。風もないのに、それらはわずかに揺れていた。


 そのすべてが、空っぽだった。


「……」


 彼は長い間、それらを見つめていた。


 それから、触るなと言われたものに手を伸ばす子供のように、指先で一本の瓶を軽く叩いてみた。


 チーン、とガラスが微かに鳴る。


【ピコン】


 目の前に、薄青く静止したウィンドウが滑り出すように開いた。


【ステータス】

氏名:カイル・レンファル

識別:青(BLUE)

残機:18 / 18

階層:第1層(城壁)

装備:なし

解放アイテム:0


「……」


 カイルはその中に手を振ってみた。

 何も起きない。ウィンドウは忠実な犬のように、彼の視線にぴったりと追従してくる。


「……これが、システムってやつか」彼は呟いた。


 最初のウィンドウの下に、二枚目のウィンドウが開く。


【お知らせ】

ここはあなたの『保管庫(レリクアリ)』です。解放されたアイテムはここに記憶されます。

空の薬瓶は、あなたがまだ獲得していないアイテムです。

アイテムを使用するには、まず迷宮内で発見し、登録(クレーム)する必要があります。


「発見し、登録する……」カイルは繰り返した。


 彼は自分の空っぽの両手を見下ろした。


「つまり、俺は何も持ってない。戦うことすらできないってわけか」


 これまでの人生で、まともな喧嘩など一度もしたことがなかった。荷箱を運び、床を磨き、街の半分を駆け回って雑用をこなす日々。一度、泥棒を三つ先の通りまで追いかけたが、荷車につまずいて転んだのが関の山だ。


(百一層のダンジョン……)

(これは、随分と短い試練になりそうだな)


 扉は施錠されていなかった。


 丸一分ほど扉を凝視し続けて、ようやくそのことに気づいた。誰かが急いで出て行ったかのように、一本の錆びた蝶番だけで辛うじて繋がったまま、斜めに開いている。


 カイルは通路へと足を踏み入れた。


 空気が変わった。より冷たい。古い鉄と、湿った石の匂い。そしてその奥に、名前もつけたくないような、奇妙に甘ったるい何かの臭いが漂っている。


 壁のあちこちで松明が揺らめいていた。両側には、全く同じ構造をした『保管庫』がずらりと並んでおり、どれも扉が開け放たれ、中の薬瓶は空だった。


(他の奴らの保管庫か)


 誰の姿も見えなかった。


 通路の遥か先、アーチ型の入り口からかすかな光が漏れている。


 カイルはその光に向かって歩いた。

 自分の足音が、妙に大きく響く。


【ミッション:生存せよ】

【ミッション:武器を見つけよ】


「アドバイス、どうも」彼は囁いた。


 システムからの返答はなかった。


 アーチを抜けると、そこは城壁の上の通路(バトルメント)だった。


 カイルは足を止めた。


 中庭か、あるいは別の通路に出るものとばかり思っていた。空が広がっているとは予想していなかった。


 灰色の雲が筋を引く、巨大で、どす黒い紫色の空。その下を、ある場所は崩れ、ある場所はひび割れた長い石壁が、両方向へと無限に伸びている。不揃いな間隔で塔がそびえ立ち、壁の向こうには、霧の中に消えていく暗い森がどこまでも広がっていた。


【第1層:城壁(Rampart)】


(まるで、世界の果てだな)


 彼は壁に沿って、身を潜めながら前へ進んだ。靴が浮いた砂利をこする。風が袖を激しく引っ張った。


 最初の直線の半分ほど進んだ時、崩れた柱の影に、何かが横たわっているのが見えた。


 死体だ。


 カイルは息をのんだ。


 それは、破れた灰色の服を着てうつ伏せになっている男だった。腕を伸ばし、その指先は松明の光を浴びて鈍く光る何かを握りしめている。


「……おい?」カイルは静かに声をかけた。


 返事はない。


 彼はしゃがみ込んだ。

 男の皮膚は完全に生気を失い、灰色に変色して弛んでいた。彼が横たわる石の床には、どす黒い染みが乾ききっている。


(死んでる……)

(それも、ずいぶん前からだ)


 カイルは唾を飲み込み、男の手に握られているものに目を落とした。


 自分の前腕ほどの長さがある、一本の鉄の棒。錆びついており、片方の端が折れ曲がっている。


【アイテムを感知:錆びた鉄棒】

【レア度:コモン】


「武器だ……」カイルは息を漏らした。


 不格好だった。惨めな代物だった。

 だが、この場所に来て初めて、彼に差し伸べられた『使えるもの』だった。


 彼は手を伸ばし、一瞬躊躇してから、硬直した男の指を一本ずつ優しく解きほぐした。


【錆びた鉄棒を登録(クレーム)しますか?】

【はい / いいえ】


 迷う余地はなかった。


「はい」


【アイテムを登録しました:錆びた鉄棒】

【システムストレージに格納されました】


 背後のどこかで、チーンとガラスの鳴る音がした。


 カイルは振り返らなかった。その必要はなかった。先ほどの空の薬瓶の一つが、今、満たされたのだと分かっていたからだ。


 鉄の棒は、見た目よりもずっしりと重かった。彼の掌には、すでにじっとりと汗がにじんでいる。


(剣には程遠いな)

(だけど……何もないよりはマシだ)


 目にするよりも先に、その音が聞こえた。


 ベチャリ、ベチャリと、重い何かを泥の中で引きずるような音。


 カイルの身体が凍りついた。


 音は、隣の塔の方から聞こえてくる。


 松明の光の中に、一つの影が踏み出してきた。


 それは、かつて人間だったものだ。二本の腕、二本の足、不自然な角度に傾いた頭――形状はその通りだった。しかし、皮膚は灰色の剥がれかけの端切れのように垂れ下がり、目は白濁している。外れた顎は、もはや機能しない蝶番のようにだらりとぶら下がっていた。


【モンスターを識別:ハスク(亡者)】

【危険度:低】

【推奨:徒手空拳での戦闘は避けてください】


「素手じゃないさ」カイルは微かに呟いた。


 彼は両手で鉄の棒を構えた。

 腕が、ガタガタと震えていた。


 ハスクの頭が、ゆっくりとこちらを向いた。

 その顎がピクリと動く。


 次の瞬間、それは動いた。


 カイルの予想を遥かに超える速さだった。とんでもなく速い。つい一瞬前までは十歩も離れた場所にいたはずなのに、次の瞬間には、その影が眼前に迫り、破壊された足で恐るべき速度を以て突進してきた。


「待て! 待て、待て待て……!」


 彼は棒を振り下ろした。


 しかし、鉄棒は空を切った。その重さに引きずられ、カイルは大きく体勢を崩す。


 冷たい手が、彼の喉を締め付けた。


 凍えるように冷たく、そして強い。あまりにも強すぎた。


(嘘だろ……)


【警告:致命的なダメージを検知】


 カイルは悲鳴を上げようとしたが、声にならなかった。


 一瞬の、妙に静かな瞬間の間に、彼の意識は全く別の場所へと漂っていった。


 色褪せた黄色の毛布。

 自分の手の中にある、小さな手。


(ユニ……)

(ごめん。俺、何も、できなくて……)


 世界の端から、急速に白に染まっていく。


【残機(ライフ)が減少しました】


 カイルは激しく息を吸い込んだ。


 石だ。

 背中に、冷たく湿った石の感触がある。


 彼の両手が、反射的に自分の喉へと飛んだ。皮膚は繋がっている。傷もない。痣すら残っていない。


 彼は床に倒れたまま天井を見つめ、溺れた男のように何度も激しく呼吸を繰り返した。


「……っ、……っ」


 錆びた鎖。狭い小部屋。どこかで滴る水の音。


 戻ってきたのだ。


【ステータス】

残機:17 / 18

階層:第1層(城壁)

装備:なし

解放アイテム:1


 カイルはゆっくりと首を巡らせた。


 奥の壁に並ぶ空の薬瓶の中に、一つだけ、明らかに異なる様子で吊るされているものがあった。


 そこには、微かな灰色の光が満ちていた。その中で、まるで小さな幽霊のように、あの折れ曲がった鉄の棒の形状がぷかぷかと浮いている。


【錆びた鉄棒】

【未登録。再度発見する必要があります】


 カイルはそれを見つめた。


 笑い出したかった。

 泣き叫びたかった。


 彼はどちらもしなかった。

 ただそこに横たわり、心臓の鼓動が落ち着くまで、じっと呼吸を続けた。


(十七……)

(俺は死んだ。なのに、まだここにいる)

(命を一つ失った。それも、あんなにあっさりと)


 彼は身体を起こした。

 足に力が入らない。指先はまだ小刻みに震えている。


 しかし、何かが変わっていた。

 麻痺した心の奥底に、小さな、たった一つの火花が灯る。


(鉄の棒がどこにあるか、もう分かっている)

(あのハスクがどこにいるかも分かっている)

(あいつが、どれだけの速さで動くかも……)


 彼の顎にぐっと力がこもる。


(次は……)


【新しいミッション:錆びた鉄棒を回収せよ】

【ヒント:モンスターはパターンに従って行動します】


 カイルは立ち上がった。


 出口へと歩き、一度足を止めると、最後にもう一度だけ光る薬瓶を振り返った。


「命一つだ」彼は静かに言った。「代償は、それだけだった」


 彼は通路の闇へと顔を向けた。


「二度目は、絶対に払わない」


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