第8 フロア:残された光
【 安全地帯に進入しました 】
【 自動回復が開始されます 】
石の扉が背後で静かに閉まると同時に、視界いっぱいに心地よい緑色の通知が浮かび上がった。
カイルはベンチの背もたれに頭を預け、ハァと深く長い息を吐き出した。服の焦げ跡の下から覗く火傷が瞬く間に塞がり、脇腹の鈍い痛みも、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗に消え去っていく。
「……生き残ったな」カイルは小さく呟いた。
「うん。カイルのおかげだよ」
キラが彼のすぐ隣、身体をぴったりと寄せるようにして座った。
彼女の傷だらけだった肌も、緑の光を浴びて元通りに再生していく。だが、彼女の左手は未だにカイルのコートの袖をぎゅっと握り締めたままで、その指先からは、先ほどの激闘の興奮がまだ完全に冷めきっていないかのような、微かな震えが伝わってきた。
カイルは少し照れくさそうに首のマフラーを少し直し、彼女の横顔をじっと見つめた。
(あいつ、俺が怪我した時、本当に狂ったみたいに怒ってたな……)
その身のこなし、その圧倒的な力。彼女はただ、カイルを守るためだけに、あの地獄の蝋の嵐の中に飛び込んでいったのだ。
「ありがとな、キラ。マジで助かったよ」
「ううん、私のことは気にしないで」彼女は下から彼を見上げ、いつも通りの上品で、どこか儚げな微笑みを浮かべた。「私はね、カイル。君が傷つくくらいなら、世界中すべての化け物を引き裂いたって構わないんだよ?」
その瞳の奥に、怪しい真紅の光がほんの一瞬だけギラリと宿る。
カイルはその言葉の裏にある底知れない『重み』に、背筋が凍りつくような微かな悪寒を覚えた。だが、今の彼はそれをただの「仲間としての強い想い」だと自分に言い聞かせ、無理やり思考を遮断した。
彼らはついに第八階層を突破し、次の第九階層へと足を進めようとしている。
しかし――彼らの魂の最奥に潜む『S』は、脳内の暗闇の中で、今や堪えきれないといった風に狂おしい愉悦の爆笑の声を響かせていた。
(あはははは! 最高! 最高よカイル! 抱きしめ合うなんて、本当に仲の良いことね!)
(だけど貴方はまだ気づいていないのね? その愛らしいお嬢さんが、貴方を守るためなら『人間』だろうが『化物』だろうが、何一つ区別せずに笑顔で屠る本当の怪物だということに……!)
(さあ、次はいよいよ第九階層。第十階層の守護者のフロアを目前に控えたその場所で、一体どんな美しい血飛沫の輪舞曲が踊られるのか、私は本当に楽しみで仕方がないわねぇ?)
カイルは壁に頭を預けた。
「生き残れるとは思わなかったぜ」
「私は思ってたよ」
「どうして?」
「カイルがいたから」
彼は彼女に視線を向けた。
彼女は真っ直ぐ前を見つめ、小さく、穏やかな笑みを浮かべていた。
「君はいつだって何かを思いつくから」彼女は言った。「鐘の音、鉄鎖、マップ。どんなに不可能に見える状況でもね」
「運が良かっただけだよ」
「ううん」彼女は首を巡らせた。「運なんかじゃない」
その瞳は、深くて暗かった。
彼は長い間、その眼差しを受け止めていた。
やがて彼は視線を逸らし、コホンと咳払いを一つした。
「……ありがとな」
「ん」
彼女は両足を抱え込み、彼の腕に身体を預けた。
彼は動かなかった。
* * *
システムがウィンドウを開いた。
【 この先に第九階層があります 】
【 お知らせ:第十階層にて守護者が待ち受けています 】
【 守護者:第一の看守、鉄の顎 】
カイルはその文字を二度読み直した。
「アイアンモー……」
キラの指先が、彼のコートの袖をぎゅっと握り締めた。
「あれが、守護者……」
「あぁ」
「この階層で一番強い化け物ってことだね」
「いや、次の二つの階層を含めても最悪の相手だろ」
「怖い?」
彼は少し考えてみた。
「あぁ」彼は言った。「正直、怖いよ」
彼女は微笑んだ。
「良かった。それなら、君はちゃんと慎重になってくれるね」
「お前は?」
「私は全然怖くないよ」
彼女は軽快に、ごく当たり前のことのようにそう言った。
本心からの言葉だった。
カイルは目の前にある扉を見つめた。
(第十階層)
(本当の意味での、最初の試練だ)
彼はそっと目を閉じ、温かい緑の光を全身に浴びた。
(なんとかなるはずだ)
(二人で、一緒に)
彼の隣で、キラの笑みがさらに深く刻まれていく。どこまでも穏やかで、甘く、そして不気味なほどに静まり返った微笑みだった。
ついに、第8階層を突破した!
「ウィックイーター」との死闘の末、カエルとキラは生き延びた。しかし、あの戦いは二人がどれほど互いを頼りにしているかを証明することとなった。そしておそらく、ほんの少しずつ、二人の絆は単なる仲間以上のものへと変わりつつあるのだろう。
だが、休息の時間はほとんどない。第10階層が彼らを待ち受けており、第一の看守「アイアンモー」は、これまでで最も危険な試練となるかもしれない。
果たしてカエルとキラは、来たるべき脅威への備えができているのだろうか?
読んでくれてありがとう。次の章でまた会おう!
―― ルーク




