9階:静寂の聖歌隊
ついに、第9階層の登場だ! 正直、この階層は書いていてすごく楽しかった。すべての音が消え去り、モンスターが無音で襲いかかり、意思疎通さえも困難になる階層。生き残るため、カエルとキラは適応を迫られることになる。
そして今、二人は階層ボスと遭遇し、事態はさらに面白くなっていきそうだ。
それと、みんなにちょっとした質問がある。このダンジョンは一体誰が設計したと思う? 神の仕業なのか、それとも舞台裏で誰か別の人物が糸を引いているのだろうか?
みんなの考察をぜひコメント欄で聞かせてほしい!
読んでくれてありがとう。次の章でまた会おう!
カイルは小さく息を吸い、その三人の姿を凝視した。
彼らの頭上には、淡いシステムアイコンが不気味に浮かび上がっている。
ずんぐりとした灰髪の男と、包帯を巻いた鋭い目の女。彼らの頭上には――一本の細く禍々しい『赤いマーク』が、音もなく発光していた。
(また罪人(赤)か……)
カイルの胸の奥で、冷たい警戒心が鎌をもたげる。
だが、同時に違和感に気がついた。激しく両手を振っている十九歳ほどの痩せ型の少年。彼の頭上に浮かんでいたのは、カイルと同じ『青いアイコン』だった。
(青が一人、赤が二人……。混成グループか?)
カイルは隣のキラを見た。彼女は三人の姿をじっと見つめていたが、その口元には、いつも通りの上品で無害な微笑みが完璧に張り付いていた。
彼女はカイルの手のひらに指先を走らせ、一度だけクッと強く握り締めた。
『 危険(お、と、な、し、の、あ、い、ず) 』
カイルは小さく頷き、彼女の手のひらに二回、トントンと脈動を返した。『 分かっている 』と。
これまでの階層の経験上、赤いアイコンの罪人には、他のプレイヤーを狩って楽しむような狂った連中が紛れていた。ドランが警告していた『引き潮』の影が、カイルの脳裏をよぎる。おまけにこの第九階層は完全な無音の世界だ。後ろから刺されても、悲鳴を上げることすら許されない。
カイルは右手首のレイスチェーンの感触を確かめ、コートの銀ボタンに無事な方の手を添えた。
少年が、なおも声の出ない口を大きく動かしながら、手招きをして彼らを呼んでいる。
(罠か、それとも本物の生存者か……)
カイルはキラと視線を交わし、足音の消えた黒い石畳を踏みしめて、ゆっくりとひっくり返った祭壇の方へと歩み寄っていった。
カイルの胸の奥を、言葉のない凄まじい衝撃が突き抜けた。
音が聞こえたわけではない。だが、十二体の石像が一斉にその口を開いた瞬間、大気が物理的な「壁」となって彼らの正面から押し寄せてきた。床の黒石が目に見えない振動で細かく震え、連絡用のコードを交わすために握り合っていたキラの手が、その圧力で強烈に震えた。
【 警告:『沈黙の歌』の詠唱が始まりました 】
【 効果:範囲内のプレイヤーの全ステータスを徐々に低下させます 】
(クソっ……、視覚的な手がかりだけじゃなく、俺たちの『五感』そのものを完全に圧殺しにきてやがんのかよ!)
カイルは即座にオスウィンたちに向かって、胸に平手を当てる手信号を送った。『 止まれ(ストップ) 』。
だが、戦闘はすでに始まっていた。
指揮者(合唱長ミュート)が、その白い指揮棒をゆっくりと、流れるような動作で一閃させた。
次の瞬間、三体の石像の目が怪しく発光し、その場から滑るようにして動き出した。ただの彫刻ではない。音もなく大地を滑る、強固な石の兵隊だ。
【 『疾走』を発動しました 】
世界がスローモーションへと切り替わる。
カイルは一筋の残像となって前方に飛び出した。手首の鉄鎖が鋭く弾け飛び、放たれた『ゴアポイント』が一体の石像の胸部へと突き刺さる。しかし、強固な石の肉体は毒を一切受け付けず、火花を散らすだけだった。カイルは即座に鎖を強く引き戻し、今度は左手を掲げて光の弓を物質化させた。
【 『風の射手』:発動 】
放たれた青い光の矢が、石像の足元の床を凄まじい爆風とともに粉砕した。バランスを崩した石像の隙を突き、レンカの細い槍がその首の継ぎ目を正確に貫き、ドブの重いメイスがその頭部を容赦なく叩き割った。
だが、中央の壇上に佇むミュートの指揮棒は、容赦なく次の旋律を刻み続けている。
残りの石像たちが、さらに口を大きく開き、目に見えない圧力の波がカイルたちの肉体をじわじわと締め付けていく。身体が重い。呼吸がまともにできない。ルーンシェルの障壁機能が、目に見えない音圧に削られてチカチカと悲鳴を上げるように明滅していた。
「カイル、あいつだよ」
背後から飛び出してきたキラが、声の出ない口元を正確に動かした。
彼女の指先が示すのは、十二体の石像に囲まれた中央で、悠然とタクトを振り続ける黒衣の指揮者。
「あの指揮棒を折れば、この不快な歌は止まるはずだよね?」
カイルは力強く二回、彼女の手のひらを叩いた。『 そうだ(YES) 』。
キラの両眸が、その瞬間に爛々と真紅の輝きを放ち、その口元に狂気じみた美しい微笑みが浮かび上がった。彼女の短剣から、一筋の巨大な銀色の三日月――S+級スキル『裂空の弧月』が解き放たれ、立ち塞がる二体の石像を紙のように綺麗に両断しながら、中央の壇上へと一直線に突き進んでいった。
(……このダンジョンをデザインしたのが神様だろうが、それ以外の誰だろうが関係ねぇ)
(俺たちをここで足止めできると思うなよ)
カイルは短剣を逆手に強く握り直し、キラが切り開いた銀色の軌跡を追うように、音の消えた地獄の舞台へと真っ直ぐに跳躍した。




