7階:骨の階段
カイルは首を巡らせ、彼女の手が自分の手を包み込んでいるのを見つめた。
彼女の胸の鼓動が、手のひらを通じてドクドクと驚くほど力強く伝わってくる。
(あ……)
彼は不意に、少し前のセーフゾーンでの出来事を思い出した。ミレイユが同じように自分の手を握り締めた時、彼はただぎこちなさと困惑しか感じていなかった。だが今、キラにこうして手を握られていることに対しては、不思議と嫌な気分はしなかった。
ただ、少しだけ顔が熱くなるのを感じて、彼は慌てて視線を逸らした。
「……まぁ、お前が強くなってくれりゃ、俺も助かるからな」彼はぶっきらぼうに言った。
「ありがとう、カイル」
キラは静かに声を漏らした。その声はいつも以上に低く、甘ったるく、どこか底知れない熱を孕んでいた。その瞳は爛々と輝き、カイルの横顔を飢えた獣のようにじっと見つめていた。
(本当に……カイルは私に優しいね)
(こんなに素晴らしいスキルを、私にくれるなんて)
彼女の脳裏の奥底で、ドス黒い、だが圧倒的な歓喜の波が激しく渦巻いていた。
(やっぱり、私の選択は間違ってなかった。カイルは私だけのもの。私の可愛いダーリン)
(この人を傷つける奴、この人の邪魔をする奴、この人に近づこうとする泥棒猫は――全員、私がこの手で一人残らず引き裂いて、奈落の底へ叩き落としてあげる)
彼女はゆっくりと手を離すと、何事もなかったかのように、いつも通りの無邪気で上品な笑みを完璧に浮かべた。
「よし、行こう、カイル。この力を試してみたいしね」
「あ、あぁ。そうだな。どんどん登るぞ」
カイルは首の後ろを少し赤くしながらマフラーをクッと直し、再び白骨の階段の先へと歩みを進めた。
――彼自身の肉体の内側、魂のさらに奥深くでは、真紅の瞳を持つ『S』が、その一連の光景を眺めながら、クスクスと狂気じみた愉悦の笑声を漏らしていた。
(あはは、傑作ね! カイル、貴方ったら本当に良いお買い物をしたわ)
(その隣にいる愛らしいお嬢さん……あれはただの人間じゃない。私と同じ、血の匂いに狂った最高にイカれた『怪物』よ?)
(さあ、これからが本当の娯楽だわ。この地獄の階段の先で、一体どんな美しい破滅を見せてくれるのかしら?)
立ち込める灰色の霧の中、二人の足音と、背後で蠢く無数の白骨の軋み音だけが、不気味に響き渡っていた。
何かがおかしい。
カイルは浮かび上がる半透明のマップを凝視したまま、眉をひそめた。
(マップの構造が……さっきまでの階層と決定的に違う)
これまでの『猛毒の下水道』や『鉄鎖の果樹園』では、三つの扉はそれぞれ完全に独立した通路の最奥に配置されていた。だからこそ、それぞれの周囲の環境や音、風の流れを個別に観察して正解を導き出すことができた。
だが、この第七階層の最上層は違った。
目の前にある三つの白骨のアーチは、わずか数歩の間隔で、同じ一つの平原の崖際に並んで口を開けている。風はどのアーチからも一様に入り込み、周囲の白骨の質感も、漂う灰色の霧の濃さも、すべてが完全に均一だった。
「カイル? どうしたの?」
キラが心配そうに覗き込んできた。
「……いや、今回は外見や周囲の環境での『見分け』が効かねぇ。全部同じに見える」
カイルはそう言いながら、アーチの一つに近づき、その骨のフレームに触れた。ひんやりとした不気味な感触。どれも同じ冷たさだ。匂いも、微かな音すらも、三つとも完全に同一の条件で統制されていた。
(プレイヤーの観察眼に頼った突破を、システムが完全に潰しにきてやがる)
カイルの背筋に、冷や汗がツッと伝い落ちた。
手がかりは、この三つのアーチそのものには無い。
「……待てよ」
カイルはハッと何かに気づき、ゆっくりと振り返った。
彼らが今登ってきた、数千の骸骨が敷き詰められたあの白骨の階段。そのすべての頭蓋骨が、一様に『上』を向いていた理由。
「あいつら……アーチを見てたんじゃない(・・・・・・・・・・・・・・)」
カイルは、さらにその上――灰色の霧が渦巻く、完全な虚空の天井を見上げた。
「あいつらは……上にある『何か』を指し示してたんだ」




