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EIGHTEEN LIVES:再生の迷宮〜二度目のチャンスのダンジョン〜  作者: ルーク
【 旅路に縛られし者へ、ようこそ 】

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12/19

6階:連鎖果樹園

 その道具屋は、脇通路の壁に埋め込まれた石造りのカウンターに過ぎなかった。


 店主の姿はない。棚には何列ものガラス瓶が並び、畳まれた衣服がいくつか置かれているだけだ。カイルが近づいた瞬間、目の前に淡いウィンドウが滑り込むように開いた。


【 道具屋(アイテムショップ) 】

【 代償:試練(トライアル) 】


「へぇ」彼は言った。「システムが店番までやってるってわけか」


 彼は無地の暗色のシャツと、頑丈なズボンを一着ずつ購入した。それから通路の隅に移動して着替えを済ませ、その間、キラは行儀よく天井をじっと見つめていた。着替えを終えたカイルが戻り、再び漆黒のコートを肩に羽織ると、ようやくまともな人間に戻ったような心地がした。


 キラは小さな回復ポーションを3本購入した。


 それから、何も言わずに灰色のマフラーを買い、それをカイルの首元に巻き付けた。


「次の階層からは寒くなるから」彼女は言った。「私に感謝することになるよ」


「俺、寒さは平気なんだけどな」


「ううん、寒くなるから」


 彼女の指先がマフラーの結び目を整え、下から彼を見上げて微笑んだ。


 カイルは照れくさそうに頬を掻いた。


(いい奴だな)


(妙な優しさだけど……まぁ、悪くない)


(誰かにこんな風に構われたのなんて、いつ以来だろ――)


 彼はその先を思考するのをやめた。


   * * *


 二人はセーフゾーンで数時間ほど休息を取った。


 カイルは壁に背を預けて石のベンチに座っていた。キラはその隣に腰掛けていたが、いつの間にか、彼女の頭が彼の肩にこてんと乗せられていた。


 カイルはそれに気づいたが、身体を動かそうとはしなかった。


(ただ疲れてるだけだろ。長い一日だったからな)


(こいつの隣は、不思議と落ち着く)


 彼は目を閉じ、静かに滴る水音に耳を傾けた。


「カイル」半分眠りに落ちたキラが、微かに呟いた。


「ん?」


「黙っていなくなったりしないでね」


「ああ、しないよ」


 本心からの言葉だった。それを口にすることは、ごく自然で当たり前のことのように感じられた。


   * * *


 第六階層は、一つの『音』から始まった。


 平坦で灰色の平原の彼方まで響き渡る、チリンという細く澄んだ銀色の鈴の音。


 カイルはゲートをくぐり抜け、その場に足を止めた。


 視界の先にはどこまでも木々が広がっていたが、それは本物の植物ではなかった。すべては黒くねじくれた鉄でできており、その枝はまるで人の指のように不気味に曲がっている。そして、すべての枝からは無数の鉄鎖が重々しく垂れ下がり、その鎖の先には一つずつ『鐘』が吊り下げられていた。


 鐘のサイズは、小さなものから、大きなもの、そして途方もなく巨大なものまで様々だった。真鍮、青銅、そして黒ずんだ銀。それらがどこからともなく吹き抜ける風に揺られ、一斉に鳴り響いていた。


 揃って鳴るわけではない。調和した旋律でもない。それは、大気を絶え間なく震わせる、ザワザワとした落ち着きのない金属音の嵐だった。


【 第六階層:鉄鎖の果樹園 】


「綺麗……」キラがぽつりと囁いた。


「うるさいな」カイルは言った。


 彼がマップを開くと、踏破率の数字がごくわずかずつせり上がっていった。


【 踏破率:1% 】


 ウィンドウがスライドするように現れる。


【 警告:その下を何かが通過するたび、鐘が鳴り響きます 】

【 モンスターは音に反応して集結します 】


「ハッ、そりゃあ素敵だな」カイルはボソリと毒づいた。「一歩進むごとにアラームが鳴るってわけか」


(よし、考えろ)(何も触るな。慎重に、ゆっくり動くんだ)


 彼が注意深く、前方に一歩を踏み出した。


 頭上の鐘が、チリンと、繊細で小さな音を立てて鳴った。


 すると、少し離れた場所にある別の鐘が、呼応するように鳴り響いた。


 さらに、三つ目の鐘が続く。


   * * *


 最初の『打鐘者(クラッパー)』が、二十歩ほど先の枝から降ってきた。


 それは蝙蝠のように一本の長い腕で枝にぶら下がっていた、人間の大人が丸々収まるほどの大きさの、鉄の肋骨を持つ化け物だった。本来なら心臓があるべき胸のなかに、黒い金属製の大きな『舌(クラッパー)』をぶら下げている。奴は一度大きく身体を揺らすと、地面の草の上へと軽々と着地した。


【 モンスターを識別しました:打鐘者(クラッパー) 】

【 危険度:中 】

【 備考:鐘が鳴るたび、さらなる個体が集結します 】


「さらなる個体、ね」キラが静かに言った。「最高じゃん」


 また一体、天井から降ってきた。続いて三体目。


 わずか十秒の間に、周囲には八体のクラッパーが立ち塞がっていた。


 カイルの手がアイテムボックスへと伸びた。


 白い光のフラッシュとともに『ゴアポイント』が手元に出現する。鉄鎖が音を立てて解き放たれ、鋭い刃がうなりを上げて回転し始めた。


【 『疾走(ダッシュ)』を発動しました 】


 世界が、劇的にスローモーションへと変わった。


 彼は最も近いクラッパーに向かって突撃し、短剣が風を切って鳴り響いた。脇腹を切り裂き、鎖をクッと引いて刃を引き戻し、反転。二撃目の刃が化け物の腕を深く切り落とした。奴は耳をツんざくような悲鳴を上げ、同時にその胸の舌が、ひび割れた鐘のような不快な音を激しく響かせた。


 その音が、さらに別の仲間を呼び寄せる。


(音を出すんじゃねぇ……!)


 だが、止める術はなかった。奴らは死に際にも、その身体を激しく震わせて音を鳴らすのだ。


「キラ!」彼は叫んだ。「左を頼む!」


「もうやってる!」


彼女はまるで影のように、音もなく、小さく滑らかに動いていた。手元のナイフが鋭く光る。一体のクラッパーが彼女に手を伸ばしたが、彼女はその腕の下を軽やかに潜り抜け、すれ違いざまにその喉元を綺麗に一閃した。


「今回は、そう簡単にはいかないみたいね」キラが呟いた。


「あぁ」


 カイルは三つの門をもう一度じっくりと観察した。


 赤錆の門。緑青の門。漆黒の門。


 どの門の奥からも、ランタンのような淡く穏やかな光が溢れ出ている。今回は強酸の液も、回復の苔も、激しい戦闘の焦げ跡すらも無い。見た目だけでは、どれが罠でどれが正解なのか全く区別がつかなかった。


 カイルは頭を悩ませながら、視界の端のマップへと目をやった。


【 踏破率:44% 】


(神様は言っていた。入り口は三つ。正解は一つ)


(ヒントは必ず周囲の環境にあるはずだ)


 彼は目を閉じ、耳を澄ませた。周囲の鉄の木々からは、絶えずチリン、チリンと大小様々な鐘の音が不規則に響き渡っている。


(音だ。この階層の最大の特徴は『音』と『鐘』だ)


 カイルはカッと目を開けると、それぞれの門に吊り下げられている鐘を凝視した。


 赤錆の門の鐘は、風に揺られているにもかかわらず、錆びつきが酷いせいか全く音を立てていない。

 緑青の門の鐘は、風が吹くたびに、キィキィと耳障りな甲高い不協和音を周囲に撒き散らしている。

 そして漆黒の門の鐘は、風を受けるたびに、低く、深く、どこか厳かだが澄んだ音色を響かせていた。


 カイルはフッと口元を緩めた。


「キラ、分かったぞ」


「本当に? どの門が正解なの?」


「漆黒の門だ」


 カイルは自信に満ちた表情でその門を指さした。


「この階層のモンスターは、不快な音や不協和音に反応して集まってくる。錆びついて音が鳴らない門や、狂った音を立てる門は、モンスターが活動した痕跡か、あるいは侵入者を誘い込むための偽物だ。だけど、あの漆黒の門の鐘だけは、この orchard(果樹園)の狂った雑音を打ち消すような、綺麗で正しい音を響かせてる。狂ったダンジョンの中で『正しい音』が鳴っている場所……そこだけが、システムに汚染されていない本物のルートだ」


 キラはしばらくの間その門を見つめ、それから嬉しそうに目を細めた。


「やっぱり君は凄いね、カイル。頼りにしてるよ」


「よし、行こう。今度こそ第六階層だ」


 カイルは漆黒の門へと歩みを進め、太い鉄鎖のカーテンを力任せに押し開いた。

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