88話 大爆発
今まで子供達のことを一番に考えてきた。
絶対に不利益な事態にならないように。
そのために、自身が酷い目に遭うことになっても気にしない。
むしろ、積極的に前に出て子供達の盾になろうではないか。
……と、そのようなことを考えてきたのだけど。
そもそも、それは間違いだったのではないか?
エヴァは思う。
たとえば、いじめっ子。
相手がなにもせず、じっと耐えていたら、いじめっ子は調子に乗るだけだ。
何度も何度もいじめを繰り返して、その行為はどんどんエスカレートする。
それと同じ。
子供ために、とエヴァは耐えてきて。
故に、領主は好き放題するようになった。
なにをしても問題ないと、あからさまに調子に乗り始めた。
それでもエヴァは、子供達のためと耐えてきたけれど……
結果、心配をかけてしまった。
アルルに苦しい思いをさせてしまった。
これではまるで意味がないではないか。
そのことに気づいて……
同時に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
なぜ、ここまで我慢しなければならない?
守るべき子供達に心配をかけていたら本末転倒ではないか。
そのせいで、領主はどんどん調子にのって……
子供達が最優先なのは変わりないし、絶対に守るべきところも変わらない。
ただ、守備に徹底する必要はないのでは?
というか……
攻勢に出るべきではないか?
今までの自分ならそうしていたではないか。
「そう……ですね」
エヴァの中で怒りが広がる。
好き勝手してきた領主と、それに群がるハイエナ共に対する怒りが強くなる。
大切な存在ができて守りに徹していた。
しかし、その分、水面下で怒りが溜め込まれていて……
ここに来て、何年もの間、溜め込まれた怒りが爆発しようとしていた。
いや。
……爆発した。
「ふっ……ふふ、ふふふふふ……♪」
エヴァは低く笑う。
ゾッとするような、死神のような……そのような感じで小さく笑う。
それを見たアルルは、
「おっ? なんか、センセらしくなってきたじゃん!」
嬉しそうにした。
子供は深く考えないものの、人の感情には敏感だ。
だから、本能的に善人と悪人を見分けることができるし、自分に優しくしてくれる人に懐く。
エヴァは今、恐ろしい怒りを爆発させようとしていたが……
でも、アルルは、元々エヴァはそういう方向の人なんだろうな、と無意識下で理解していたため、驚くことも恐れることもない。
むしろ、元気になったようでなにより、という感じで喜んでいた。
「おっ、いたぞ!」
「ちょうどいい、ガキも一緒じゃねえか」
「お前ら、そのまま動くな! 俺達の言うことに従わないと……わかるな?」
突然、三人の男が乱入してきた。
それぞれ嗜虐的な笑みを浮かべて、これみよがしに武器を見せつけてくる。
強盗。
あるいはそれ以上に質の悪い来訪者。
普通なら慌てて、恐怖して、なにもできず自身の生殺与奪を相手に委ねてしまうところだろう。
しかし。
ここにいるのは、エヴァ・グレイス。
今でこそ聖女と呼ばれているものの……
セイルの師匠であり。
そして、かつてありとあらゆるところで活動して、とある二つ名で恐れられてきた女性だ。
その二つ名は……『魔王』。




