87話 今こそ立ち上がれ
「立て直すヒマなんて与えるわけないじゃん、ざーんねん。くふふ♪」
チェルシーは楽しそうに杖をくるくると回しつつ、炎が上がり、吹き飛ばされた男達を見ていた。
街中で突然の爆撃。
悪人でさえも予想できない暴挙に混乱しているらしく、動きは鈍い。
それでも、どうにかこうにか体勢を立て直して反撃に転じようとするが……
それよりも先にチェルシーが魔法を唱えた。
そして爆発。
哀れ、男達はニ度三度……繰り返し吹き飛ばされていく。
「ってか、やっぱりセイルはすごいなー。襲撃の予想だけじゃなくて、こうも的確に進行ルートを見抜いちゃうなんて」
チェルシーが奇襲をすることができたのは、セイルがあらかじめ敵の行動を読んでいたから。
ここから攻撃してくるに違いないと、的確な予想を立てていたから。
チェルシーは、言われた通りに射撃するだけでいい。
遠距離戦は魔法使いの舞台だ。
好きなだけ魔法を叩き込めばいい。
「ちょっと面倒なのは、意外と数が多いことかな? けっこう後続や別働隊がいるみたいだけど……ま、それもセイルが読んでいたから、私は私のすることするだけ、ってね」
チェルシーは再び魔法を唱えた。
夜に炎の花が咲いて、その中を悪人達が飛ばされていく。
「これなら、こっちはなんとかなるかな? 問題は『あっち』の方だけど……まあ、大丈夫かな!」
――――――――――
「すぅ……すぅ……」
養護施設の子供達の寝室。
室内に並べられた無数の二段ベッド。
子供達が穏やかな顔で寝ていた。
今、外では色々とけっこうな騒動が起きているのだけど……
子供達に被害が及ばないように。
ついでに、きちんと眠れるように結界が展開されていた。
養護施設全体にかけられたもの。
あくまでも予防的なものではあるが、音や衝撃はきちんと遮ってくれる。
だから、子供達は穏やかに眠れていた。
……一人を除いて。
「センセ」
アルルは起きていた。
そして、同じく起きているエヴァに声をかける。
「……まだ起きていたんですか? 早く寝ないとダメですよ」
「たまにはいいだろ」
「ダメです。子供は、寝ることも仕事ですからね。夜ふかししたら成長できず、小さいままですよ?」
「それやだなー。俺、将来はセンセみたいなかっけー女になりたいし」
「でしたら、なおさら寝ないとダメですよ」
「んー」
アルルは、じっとエヴァを見つめた。
いつものいたずら小僧の顔ではなくて。
大人のような雰囲気をまとい……
そして、純粋に心配する様子を見せた。
「あまり無理しないでくれよ」
「……え?」
「センセに甘えてる俺が言うのもなんだけどさ。センセって、なんかずっと無理してる感じがして……みんな、心配しているんだぜ?」
「そう……なのですか?」
「はー……やっぱり。センセは、自分ではうまく隠しているとか思っていたんだろな。でも、バレバレだから。ちょくちょく暗い顔をしているし、ため息とか多いし……あと、なんかこう、むわーってなる」
「むわー……?」
「もやもやが爆発して、ぐわー! ってなるような? そんな感じで、なんかこう……きついんだよな。センセがそんな顔をしているとさ」
「……」
エヴァは精神的な衝撃を受けていた。
まさか、子供達に心配をかけていたなんて。
自分ではうまく隠せているつもりだったけれど、バレバレだったとは。
子供達は思っている以上に成長してて……
それと、自分が思っている以上に弱っていた、という証。
そのことに気づいたエヴァは、嬉しいやら情けないやら複雑な気持ちになって……
アルルの前だけど、疲れたような吐息をこぼしてしまう。
「よしよし」
アルルは、そんなエヴァの頭を撫でた。
よくがんばったね。
今まで偉いぞ。
そんな感じで、母のように頭を撫でる。
「……っ……」
エヴァは、がつーんと頭を殴られたかのような精神的なショックを受けた。
守るべき子供にここまで心配させてしまっている。
それは、情けない姿を見せている自分のせいなのだけど……
そもそもの話、こんなことになったのは誰のせいだ?
領主のせいだ。
彼の考える邪な悪事を見抜けなかった責任はあるが……
だからといって、それでエヴァが悪い、というのは責任転嫁に他ならない。
根本的な問題は領主であり、彼が全ての元凶である。
そして今、領主の思うがままに事が進んでいる。
好き放題、好き勝手にされている。
そこまで認識して……
エヴァは、ふと思う。
ちょっと舐められすぎやしないだろうか?




