86話 一方その頃の魔法使い
「うーん……これは酷い」
養護施設
その外にある小屋の上。
そこに立つチェルシーは、近づいてくる複数の気配を感じて顔をしかめた。
ユナとアズ。
そしてセイルは、今、領主の屋敷で暴れている頃だろう。
本来ならチェルシーも参加したかったのだけど、しかし、養護施設の守りをゼロにするわけにはいかない。
エヴァはいる。
ただ、彼女一人では手が回らない事態が発生するかもしれない。
そんな懸念の元に、チェルシーも残ることになったのだ。
そして今、その懸念が的中する。
「暗殺者……ううん、そんな上等なものじゃないか。どうしようもないごろつき、ってところかな? そんな気配がけっこうたくさん……けっこう派手に動いているのに、冒険者も騎士もぜんぜん動く気配がないし。これ、癒着? ゆっちゃくー?」
なんとなくの言葉。
ただ、チェルシーの言葉は正解だった。
人は金で心を売る。
全てが、と断言はできないが……
しかし、多くの者がそうしてしまうことは事実だ。
プラスして……
相手は領主で、金だけではなくて権力もある。
普通に生きるだけでは絶対にできないことを経験することができる。
故に、冒険者であろうと騎士であろうと、その魂を売る者は一定数いた。
彼らの目的は一つ。
盗賊のフリをして養護施設を襲撃。
商品となる子供達を確保。
そして、可能であれば邪魔なエヴァを排除。
もっとも、子供を確保すればエヴァに対してこれ以上ないほどの切り札となる。
決して無理をすることなく、まずは子供の確保を絶対に果たすように、と言われていた。
……無論、そんなふざけた真似は実現することはないのだが。
――――――――――
「「「……」」」
男達は夜の闇の中を進む。
かなりの速度で動いているはずなのに、闇に吸い込まれたかのように足音が響くことはない。
そして、誰も彼らに気づくことはない。
姿だけではなくて、気配が完全に夜と同化していた。
動物の擬態能力のよう。
もしかしたら、目の前に現れて気づかないかもしれない。
「目標は?」
「もうすぐだ」
「大人は全て殺せ。子供は商品だ。全てさらえ」
「了解」
領主によって作られた裏仕事を専門に扱う部隊。
暗殺者というほど上等ではないものの、今までにいくつもの仕事をこなしてきた。
力を持つ。
つまらない情に流されることもない。
故に、彼らは失敗しない。
失敗すると思ったことはない。
今日も成功する。
いつものように仕事をして、いつものように金をもらう。
それだけ。
それだけのはずだったのだけど……
ゴガァッ!!!
「「「!?!?!?」」」
突然の大爆発。
夜の闇を赤で塗りつぶすかのように、炎の花が咲いた。
男達が吹き飛んだ。
派手に吹き飛んだ。
それはもうすさまじい勢いで吹き飛んだ。
炸裂したのは魔法。
直撃してはいないが、ちょうど男達の中心で爆ぜて……
その衝撃で、男達はまとめて吹き飛ばされた。
死んだわけではないが、突然のことになにが起きたかわからない。
男達はどうにかこうにか立ち上がり、すぐに体勢を立て直そうとして……
ゴガァッ!!!
それよりも先に第ニ射が着弾。
派手な爆発により、再び男達は吹き飛んだ。




