85話 甘く見ないでね?
「「……」」
ユナとアズはホルトエールの私室につれて来られた。
手枷、それと足枷。
それぞれ拘束されたままで、自由はない。
執事に運ばれるまま、ベッドの上に移動させられた。
これからのことを考えて、怯えて。
嫌だ、と恐怖して。
……そんな演技をしつつ、周囲を確認する。
部屋は広く、輝いていた。
美術品が飾られているだけではなくて、家具の一つ一つにきらびやかな装飾が施されている。
ユナとアズは密かに顔をしかめた。
きらびやかではあるものの、とても悪趣味だ。
成金の見本。
どうだ? 綺麗だろう、かっこいいだろう、華麗だろう。
そんなことを言っているかのような、ゴテゴテしてて、輝きしかない調和のとれていない部屋。
まるで、部屋主の心を表したかのよう。
「いい表情をしてくれるではないか」
ホルトエールがにやりと笑う。
相手を踏みにじり、尊厳を奪うことに快感を覚えているような、ゲスの笑みだ。
おえ、と。
ユアとアズは、心の中で嫌悪感をいっぱいにした。
とはいえ、今は囮の身。
それを表に出すわけにはいかず、怯えて、か弱いフリをする。
現行犯逮捕。
そのために、ユナとアズは囮になったのだ。
……ただし。
それが無理と判断した場合は、第二プランがある。
そして今、無理になりそうな状況に陥っていた。
ホルトエールを囚えるためとはいえ、さすがに乱暴されるのまで許容するわけにはいかない。
指先で触れられるだけでも嫌悪で我慢できないだろうし。
こうして見られているだけでも、わりと限界に近い。
いざという時は、拘束を抜け出して、暴れて。
そして、第二プランへ移行。
どこかにあるであろう奴隷商人とのやり取りを記した帳簿を探し出すこと。
犯罪の証拠を残すなんておかしな話かもしれないが。
しかし、どこでどのように、いくらの金を消費したか?
それをきちんと把握できていないと、表の帳簿をつける際に混乱してしまう。
下手をしたら矛盾が生まれてしまい、怪しまれ、裏の顔に気づかれてしまう可能性もある。
なので、金の流れをしっかりと管理、把握するためにも、裏帳簿はあるはずだ。
このように領主を務めているのなら、なおさら。
「さあ、楽しもうじゃないか。いい声で鳴いてくれよ?」
ホルトエールが服を脱いで、下卑た笑みを浮かべつつベッドに乗る。
彼に従う執事も同じように服を脱いだ。
ただ、恐れる必要はない。
こういう時のために、セイルからとある反撃方法を教えてもらっていた。
最強の攻撃で、これに耐えられる男はいない……と。
ユナとアズは恐怖に顔をひきつらせ……るフリをして。
限界ギリギリまで引きつけて。
そして、唱える。
「「アンロック」」
解錠魔法。
二人を縛る枷が時間を巻き戻すかのように解けた。
「あ?」
突然のことに、ホルトエールはなにが起きたか理解できない様子。
執事も同様に思考停止していた。
そんな二人に向けて、ユナとアズは……
「「せーーー……のっ!!!」」
思い切り股間を蹴り上げた。
「「っっっぁぐっっっぅぅぅ!?!?!?!?!?!?」」
まともな声にならない悲鳴。
涙がこぼれて。
口から泡を吹いて。
そのままホルトエールと執事が失神する。
それもそのはず。
ユナとアズは全力で股間を蹴り上げるだけではなくて、つま先でえぐるようにしていたのだ。
確かな手応え。
つまり……
潰れた、ということ。
「うわ……なんか今、すごい嫌な手応えがあったんだけど」
「うぅ……お姉ちゃん、私、今すぐに体を洗いたい気分」
「あたしも……でも、がんばりましょ。あたし達がしっかりしないと、セイル達、みんなに迷惑をかけちゃうもの」
「うん、そうだね!」
ユナとアズはえいえいえおーと拳を突き上げて、部屋を後にした。
……もしも今の光景をセイルが見ていたら、震えていただろう。
そして、恐怖したかもしれない。
俺は、二人にとんでもない自衛手段を教えてしまったのかもしれない、と。




