82話 そして愚か者は斜め上を行く
グレーネル・ホルトエール。
領主を務める男。
領民からの支持は普通。
良くも悪くも平凡な領主である。
ただ、それは表向きの顔。
裏は……
「ふむ……もう少し、といったところか」
己の執務室で部下からの報告書を読んだホルトエールは、満足そうに頷いた。
施設の権利をもう少しで買い上げることができる。
同時に、エヴァも遠くに追い払うことができる。
当初の予定とは少し狂ってしまったものの、ようやく施設を己のものにすることができそうだ。
とはいえ、無茶をしてはいけない。
エヴァが好き勝手してくれたため、しばらくはおとなしくした方がいいだろう。
商品……子供の売買は月に一人くらいに控えておく。
それくらいなら、里親が見つかったという理由で消えても問題はない。
最初はそれくらいのペースで様子見を。
問題ないと判断したら数を増やしていけばいい。
「なに、行き場のないガキなんてたくさんいる。格安で……というよりは、タダで仕入れることができる。まあ、見栄えをよくしないといけないため、多少の経費はかかるが……それよりも売値の方が何倍も、何十倍にもなる。なんて素敵な商売だろうな」
ホルトエールは小さく笑う。
本音を言うと、大声で。
そして両手を叩いて、派手に喜びつつ笑いたい。
が、それは下品だ。
領主らしく上品で華麗であらなければ。
「ん?」
報告書にさらにプラスの内容があることに気づいて、ホルトエールは不思議そうな声をこぼした。
施設の今後。
エヴァの排除。
その二つで報告は完了のはずなのだけど……
「新しい商品の案内? ……ほう」
追加の部分を呼んだホルトエールはニヤリと笑う。
「双子のエルフを仕入れることができた、か」
なんという朗報だろう。
とても素敵な話だ。
やはり、この世界に神様はいるのだろう。
真面目に立派に働いている自分にご褒美を与えてくれたに違いない。
「そうだな……すぐに売りに出すのは難しいか。しばらくは施設に預けないといけないが……それはそれでもったいない。ふふふ、味見するとしようか」
――――――――――
夜。
ホルトエールの私室を執事が訪ねた。
執事一人ではなくて、その後ろに二人の女の子がいる。
金髪と銀髪のエルフの双子だ。
子供というほど幼くはないけれど、大人というほど成熟していない。
「なるほど……悪くない」
双子のエルフを見たホルトエールは下卑た笑みを浮かべた。
そういう視線を二人に向ける。
ホルトエールの悪感情をしっかりと感じ取ったらしく、双子のエルフはそれぞれ顔を強張らせた。
ただ、逃げることはできない。
囚われの身になったばかりなので、まだ奴隷の首輪は用意できていない。
しかし、手枷と足枷で自由を奪われていた。
「というか、素晴らしいな。これほどのものとは……いい値で売れるだろう」
「「……」」
双子のエルフはホルトエールを睨みつけた。
刺すかのように鋭い。
ただ、ホルトエールは余裕の笑みを崩さない。
相手は子供……というほど幼くはないが、しかし、非力な女。
二人だろうと、どうとでもできる。
とはいえ、領主としての器を見せなければならない。
ホルトエールはニヤリと執事に声をかける。
「これから味見をしようと思うが、お前も参加するか?」
「……よろしいのですか?」
「二人を同時に味わってもいいのだがな。まあ、最初となればめんどうだ。きちんと躾けるためにも、まずは一対一がいいと思ってな」
「……それに、その方がじっくりと楽しめるから、でしょうか?」
「よくわかっているじゃないか」
ホルトエールが笑う。
領主が笑う。
……その一方で、双子のエルフは「最悪」と、顔をしかめていた。




